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 Loveless 3 

呆気にとられ、携帯を取り落としたのにも気づかない天之橋に、少女はめっと指を立ててみせた。

「そんな嘘ついても、私には分かっちゃうんですからね?
 これに懲りたら、ちゃんとほんとのことを言わないと駄目ですよ」

殊更に偉そうに言いながら近づいてくる彼女に、我に返る。

「……!?ど、どうしてっ」
「お誕生日ですから」

答えになっているようでなってない言葉を返されて、天之橋はもどかしそうに立ち上がった。

「そういうことではなくて!まさか、黙ってホテルを抜け出して!?」
「だから、違いますってば。ちゃんと許可を頂いてきました」

それだけ言って、少女は後ろ手に隠していた花束を差し出した。
白いマーガレットとスイートピー。一本だけアクセントに入った白薔薇。その強い香りと花首の腺毛はおそらく、モスローズ系の品種。
思わず受け取ってから、天之橋は目を瞬かせて彼女を見た。
そこには、少し恥ずかしそうな、申し訳なさそうな顔。

「あ、あの……やっぱり、可愛すぎますか?
 お店の人には、男の人にも大丈夫なようにってお願いしたんですけど……」

こんな可愛くできあがるとは思わなかったから、と呟く。
確かにシンプルではあるけれども、どちらかというと女性に似合いそうな可憐な花姿。しかし、彼の驚きの源はそこではなくて。
天之橋は掠れた喉を咳払いで鎮めると、まだほどけない表情で小さく首を振った。

「い…いや。花は嬉しいけれども……しかし君は、どうしてここに?」
「お祝いをしにきたんです。せんせぇにお願いしたら、少しだけならって許してくださったから」
「…………氷室君が?なんと言ったんだね?」
「だから、天之橋さんにお誕生日のお祝いを言いに行きたいんですって」
「…………氷室君に?」
「?ええ」

呆然と繰り返す彼に首を傾げて、少女は言葉を継いだ。

「せんせぇも最初は、合宿中にホテルから離れるのは良くないって仰ってたんですけど。
 “せんせぇだって、お誕生日のお祝いはその日の方が嬉しくないですか?”って言ったら、分かってくださいました」
「……………。」
「ここまで一時間くらいだし、私、がんばって課題を一番に終わらせましたから、特別にって」
「……………。」

にこにこと笑いながら紡がれる台詞に、天之橋は再び言葉を失くした。
氷室の気持ちを知らないことを別にしても。学園行事の監督教師に対する態度としても、幾分強引な行為。
それを自分でも分かっているのだろう、彼女は少し照れたような表情をして、ポケットから細長い包みを取り出した。

「少し、無茶でしたけど。どうしても今日のうちにお渡ししたかったんです……ごめんなさい」
「………有り難う」

思い出したように、その言葉を紡いで。
天之橋はようやく微笑みを浮かべ、花束を持ち上げてみせた。

「これも嬉しいよ。そういえば花束を貰ったのは初めてだな」
「え、そうなんですか?なんだか意外ですね」
「この花は君が選んだのかね?」
「い、いえ……あの、あんまりお花の相性とか詳しくないから……
 こういう人にあげるんですって、お花屋さんにお話しして選んでもらったんです」
「そうか」

それを聞いて、天之橋は堪えきれなくなったようにくくっと笑った。
なかなか意味深な花言葉の花達。花屋が故意に選んだのであれば、一体彼女はどんな説明をしたのか。
そう考えると、花やプレゼント以上に贈り物をもらった気分になる。
不思議そうに自分を見る彼女になんでもないと告げて、天之橋はすっと手を伸ばして彼女の頬を撫でた。

「有り難う。

囁けば、プレゼントを貰った自分よりも嬉しそうな笑顔が輝く。
何かを言おうとした彼女を、その時、甲高いノックの音が遮った。

「……あ!」

少女はその音で我に返ったように、床に置いていた鞄を取り上げた。

「そうだ、ごめんなさい。氷室せんせぇに10分だけって言われたんでした!」
「は?」

思わず間抜けな声を出し、みたび絶句する天之橋を顧みて、少女は慌てて手を振った。

「ち、違います!せんせぇをお使いだてした訳じゃないんです!
 私はバスで来ようとしたんですけど、その……責任者の監督下になければ許可できない、って……」
「……………。」

と、いうことは。
彼女は自分へのお祝いを言うために氷室に車を出してもらったということだろうか?
そして、ここまで一時間の距離を二人きりでドライブしてきて、これから一時間かけて戻るということか。
氷室の立場に複雑な思いを感じながら、天之橋は慌ただしく挨拶をする彼女の頭を撫でた。

「本当に有り難う。……では、このお礼に、週末どこかに誘っても良いかな」
「もちろんです!あ、お礼なんかいいですけど……お出掛けは嬉しいですっ」
「では明日、君が帰ってから改めて話そうか」
「はい!楽しみにしてます!」

じゃあ、と身を翻しかけて。
少女はぴたりと足を止めると、一瞬迷ってからもう一度走って戻り、きゅっと彼の腕に抱きついた。

「……お誕生日、おめでとうございます。天之橋さん」

引かれた腕と、頬に暖かい感触。
天之橋がそれに気づいて狼狽える前に、少女は染まった頬が見えないように踵を返して、ぱたぱたと部屋を出て行った。

FIN.

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