手にした缶の冷たさと、落ちかかる水滴を少しだけもてあましながら、アタシはきょろきょろと辺りを見回した。
予想していた辺りに、予想した姿。
「よっと」
非常階段の下で座り込み、ぼけっと空を眺めている葉月に話しかけもせず、手摺から缶を落とす。
一瞬、頭とかに当たったらマズイと思ったけれど。
幸い、それは狙い通りに彼の足下に降りてくれた。
「……………」
わずらわしそうに見上げる瞳。いつもと変わることはない。
でも、いつもならもう立ち上がってどこかへ行ってしまっているはず。
「ね」
その名前を出すと、少しだけ身じろぎする。
「今日は一緒に帰れないと思うよ。たぶん」
ぷしゅ、と軽快な音を立てて自分の缶を開けながら、階段の五段目辺りに座るアタシに。
葉月は珍しく、話しかけてきた。
「おせっかい、したのか?」
「え?」
ジュースを飲みかけて、思わず彼を見る。
上からでは、その表情は見えないけれど。
なんだか、声音が違っているような気がした。
「…………うん」
アタシが考えてる意味かどうか分からないまま、とりあえず答えると、葉月は落ちた缶を手に取ってプルタブを引いた。
「……うまくいったか?」
「さぁ。どうかな、わかんない」
「わりと……遅かったな。動くの」
「えっ?」
小さく、やっと聞こえるくらいの声で呟かれた言葉。
瞬間、なにかが分かった気がして、アタシは勢いよく立ち上がった。
「まさか、葉月……アンタ!?」
彼だけではなくて。
アタシまで?
不覚にも言葉が出ない。
「危なっかしいから」
答えのようなそうでないような言葉を、呟いて。
葉月は缶に口を付けた。
しばらく立ちつくして、考えて。
アタシは人の悪い笑顔を作った。
「実は……思いっきり、ひっぱたいてやったの。アレ、きっと何日かはアト残るよ〜」
「……………」
その言葉にくくっと笑う彼の態度は、いつものどこか醒めたようなものだったけれど。
アタシは、認めないわけにはいかなかった。
彼を少し、誤解していたんだと。
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