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 Love YOU only 1 

はばたき学園の理事長室には、立派なオーディオセットがある。
ラジカセでもコンポでもなく、職人の手で丹念に作られた、重厚なオーディオセット。
天之橋はそれを、ことのほか気に入っていた。もともと家にあったものを、学園にいる時間の方が長いからと執務室に運び込むほどに。

昔はそれで、ロックを聴いて。
今は、クラシックを聴いている。
時の流れにゆるりと微笑みながら、天之橋は部屋に流れる透き通った曲に目を閉じた。

その時。
コンコン、と軽いノックの音がした。
それだけで訪ねてきた相手が分かってしまい、彼はますます笑顔を深くする。
訪ねてきた、彼女は。
クラシックに感じるのと同種の喜びを、彼に与える。
そしてそれだけではなく、ずっと昔にロックに感じていたような新しい感動をも、呼び覚ましてくれるから。

そんなことを思いながら天之橋が応えると、予想通りの少女がドアを開けて入ってきた。
「天之橋さん、こんにちは!」
「よく来たね。ちょっと待っていてくれ」
少女とのお茶会の準備をするべく、机の上の書類をまとめる。
頷いた少女が、応接テーブルにポットを置くのを気配で感じながら、天之橋はふと目を上げた。
「ああ、すまないが……少し音を下げてもらえるかい?」
防音の効いた室内で、一人で楽しむには良いけれど。
彼女と話をするには、その音量は大きすぎる。
「はぁーい」
少女は可愛く返事をし、立ち上がってオーディオセットの所へ行って、音量を調節して。
そのまま、機械をのぞき込んで動かなくなった。

「…………?」
不思議に思ってそちらに目をやると、
「ねえ?天之橋さん?」
少女は、興味津々の声で言う。
「前から思ってたんですけど、これって……なんですか?」
「え?」
質問の意味が分からず、問い返した天之橋に。
彼女は無邪気な口調で、とんでもないことを言い出した。
「ずっと不思議だったんです。この流れてる音楽、普通とちょっと感じが違いますよね。
 何か、特殊な機械なんですか?」
「??何を……」
言ってるんだい、と言おうとして。
天之橋は、あることに気づいた。


現在、彼女たちが音楽を聴くことはつまり、CDを聴くということで。
それが音楽史に登場したのは確か、自分が高校へ入学したあたりのことだから……1980年代初めのこと。
そして、それは瞬く間に普及し、現在に至る。

つまり。
彼女が生まれた時には既に、再生メディアはCDに移行していて。
それがなんであるのかを、知らなくても不思議ではない……?


「……レコードを……見たことが、……ないのかね?」
彼がそう、確認すると。
少女はぱちんと手を叩いて笑った。
「ああ!聞いたことあります、これがそうなんですか?」
「……………」
彼女の明るい、そして当然のような反応に、天之橋は二の句が継げなかった。

理屈としては、分かる。
彼女を責めたって仕方ない。生まれる前のことだ。

しかしどうしても、ショックを隠せない。
自分にとって、これだけ身近なものが。
彼女にとっては、まったく異質なものであるという事実。
それが、彼女と自分の年齢の壁をあからさまに表していて、思わず気分が落ち込んだ。

天之橋の様子に気づかず、少女は口元に手を当てて思い出す仕草をする。
「そういえば……うちの母も、CDよりもレコードの音の方が好きだったって言ってましたよ。味があるんだって」
「………あぁ」
「天之橋さんって、うちの母と同年代でしたよね?やっぱりレコードってそんな感じですか?」
無邪気にいう少女は、知らずに彼の心をぐさりと刺し。
天之橋はつい、余計なことを言ってしまった。

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