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 LOVE LIFE 1 

「じゃあ、どうします?」

そう言って、少女は可愛く首をかしげた。
隣で微笑む天之橋の表情が、ますます弛む。
「そうだね。君はどう思う?」
「だ〜めです!天之橋さん、いつもそうやって私に聞くんですから。
 今日は、天之橋さんの行きたい所を選ぶって決めたんですっ」
少女の頬がぷっと膨らみ、メッと言わんばかりに眼前に指を立ててみせる。

彼らが話しているのは、学園内の渡り廊下。
彼が少女に日曜の予約を取り付けようとして、場所の選択に迷っている……という訳だった。
いつも少女の行きたい場所を優先する天之橋に、彼女は彼の意見を聞くと言って譲らない。
常に自分任せにして、真剣に考えてくれないと拗ねているのだ。
天之橋は笑ってその手を取り、彼を戒めた指に口づけた。
「……どこでも良い、という訳ではないよ。
 行きたいところに行って、はしゃぐ君を見られるのが、私にとっては一番だから」
とろけそうな笑顔でそんな事を言われて、少女の頬が朱に染まる。
「わ、私……あの……」
「とは言っても、あまり迷っていて私と外出してくれる気がなくなったら困る。
 そうだね。臨海公園か、水族館か、森林公園……だったかな?」
問うと、少女は顔を輝かせてうなずいた。
「はい!観覧車にも乗ってみたいし、水族館は大好きだし、森林公園でのんびりするのもいいし……
 どう思います?」
「乗ってみたいのなら、臨海公園がいいのではないかな。
 明日なら天気も良いそうだし、遠くまで見渡せると思うよ」
どうかな?とお伺いを立てると、少女はぱちんと両手を合わせた。
「そうですね!じゃあ、臨海公園……で。ほんとにいいんですか?」
「もちろん。君と一緒に行けて、嬉しいよ」
「えへへ。私も嬉しいです!じゃあ、そのあとドライブしてもいいですか?」
ああ、楽しみだな、と言いかけた彼の目が。
ふと硬直する。



後ろからかけられた声に、振り向く少女。
そこには、彼女の担任教師である……氷室の姿があった。

 

◇     ◇     ◇

 

「あ、せんせぇ」
少女は少し、舌足らずに彼の名を呼ぶ。
氷室は小さくうなずくと、天之橋などいないかのように彼女に向かって話し始めた。
「もう遅い。こんな時間まで残っているのは感心しないな」
暗に天之橋を責める言葉。
言われてみると、彼が少女に声をかけてからすでに小一時間の時間が過ぎ去っていた。
「ごめんなさい。少し話し込んでしまって」
彼の言葉を代弁するかのように、少女はぺこりと頭を下げる。
氷室は少しだけ狼狽え、それを隠すように眼鏡に手をやった。
「……まあいい。これからは気を付けなさい」
「はぁい」
「それと」
眼鏡の奥の瞳が、きらりと瞬く。
「君は最近、休みになると良く出掛けているようだが」
「はい」
「……あまり、感心しない」
「はい?」
少女は不思議そうに返事を返す。
「休日は次の一週間のための大事な休息日だ。頻繁に出掛けていては、満足に英気を養うことは出来ない。
 遅い時間まで徘徊するとあっては尚更だ」
そう言われて、少女の背後で聞いている天之橋の方が眉をひそめた。
明らかに。
氷室は、彼が少女と出掛けていることについて、喚起を促している。

以前、氷室は天之橋に、その件について進言してきたことがあった。
いや、進言というよりも。本質を言えば……ライバル宣言の様相さえあるような。
堂々と、面と向かって。彼女のことを想うなら、彼女を誘うのはやめろと。
その時の天之橋には、言い返す言葉はなかった。彼の言葉は正論だったし、彼の立場もまた、自分よりは彼女に相応しいと思えたから。
しかし。
少女は彼の誘いよりも、口にする気さえなかった天之橋の誘いを優先した。
『社会見学と、天之橋さんとのお出かけは違うから』
そう告げられたとき、まるで氷室よりも自分の方が好きだと言われたような気になったことを、天之橋はよく覚えている。
それ以来、天之橋は少女を誘うことについて、迷うのをやめた。
どんなに不都合なことが起ころうと、彼女が喜んでくれるならそれでいい。
それだけが、自分の判断の基準だということを自覚してしまったから。

しかし、このようにあからさまに正論を吐かれてしまうと、やはり罪悪感を覚えないでもない。
もしかしたら……この日曜の約束は、キャンセルになるかもしれないな。
そんなことを考えて、天之橋は気づかれないようにため息をついた。

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