「あ〜!すっきりしたっ」
会場に戻り。
彼の傍で小さく叫ぶ彼女は、少し興奮気味ではいたが、いつもの彼女だった。
天之橋はまだ、呪縛から解けない。
目を見開いてただ見つめるだけの彼に、少女は少しトーンを落とし、申し訳なさそうな顔になった。
「あの……、天之橋さん」
「あ。あ、ああ……」
「ごめんなさい」
それは、先ほどと同じ言葉だったけれど。
あの怜悧さは微塵もなく、代わりに甘えるような響きがあった。
「私、失礼な事を言ったとは思いません。でも、天之橋さんの立場を悪くするようなことをしてしまいました。
……許して、もらえますか?」
上目遣いで見上げる、その瞳に。
彼は思わず吹き出した。
「あ…天之橋さん?」
思いがけない反応に、今度は少女の方が目を丸くした。
「ハハハ……す、すまない。でも、。私に許してもらえないなんて、思ってもいないだろう?」
「!」
彼女の頬が、さっと朱に染まる。
それを、目を細めて眺めて。
「いいんだよ。君は私のことを、よくわかってくれている。
私も……、君以外のレディには興味がないからね」
そう囁くと、拗ねたようにうつむいた少女の手が、きゅっと彼の掌を握る。
その手の中にある、赤い花を。
彼はもう一度、彼女の髪に挿した。
そんな彼らの所作を、周りがお芝居を観るようなうっとりした目で見ていることに、彼らは気づかない。
「では、お嬢さん。私と踊って頂けますか?」
返答は、甘い甘い笑顔だった。
FIN. |