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 ゆけゆけ!エロオヤジ☆まどか編 

ある日の午後。天之橋は、いつものように校内をぶらぶら散歩していた。
理事長がこんなにいつもいつも出歩いていていいものかと思うが、薔薇の世話をしたり友人と私的な話をしたり、その手の話にはいとまがない。

そろそろ、体育祭か。
学校行事に疎い彼は(バレンタインには敏感なのにね)、生徒たちが器具を運んだりグラウンドを整備する姿でようやく思い当たった。
さて、今年はあの子は何に出場するのかな。
去年は、彼の最愛のレディ候補生はパン食い競走に出場し、戦利品のパンを半分わけてくれた。
普段なら「はしたない」とたしなめるようなその厚意を、しかし、彼は喜んで受け取ってしまっていた。
自分でも不思議に思いはしたが、おそらく、その時の少女の笑顔がとても素敵だったからに違いない。
きっとそうだ、と物思いに耽りながら歩いていく彼の耳に、聞き焦がれた少女の声が聞こえた。

「いったぁ……もー、まどかくん!こんなとこに座り込んでたらあぶないでしょ!」
勇んで声を掛けようとしたが、どうやら連れがいるらしい。
天之橋は思わず校舎の陰に隠れた。(笑)
「すまんすまん、大丈夫か?足、見せてみ?……あぁ、ちょっと赤こうなっとるな」
男の手が彼女の可愛い膝小僧に触れ、軽く息を吹きかける。
それだけで、天之橋の頭にカアッと血が上った。
第一、座り込んだまま膝を立てたら、スカートの中が見えてしまうじゃないか!!
「保健室行くほどではないやろけど……舐めといたろか?」
何ぃ!!と陰で息巻くダンディ。
「イヤだよ、なに言ってんの。それより、わたしもう荷物持てなーい!歩けなーい」
持っていたタスキやらバトンやらを放りだして、足をバタバタしてみせる。
そんな駄々をこねる姿もこの上なく愛らしく、天之橋はうっとりとそれを眺めた。
ああ、私だったらきっと、ハイヤーを呼んでしまうに違いない……。(校内で?)
「ハイハイ。そしたら、荷物よこし。ハイ。んじゃいくで。」
まどかは要領を得た様子で荷物を持つと、少女に背中を向け、しゃがみこんだ。
「へへ。悪いね、まどかくん。」
そして、彼女はそれが当然のように、彼の背中におぶさったではないか!!!

ああぁああああ、と心の中で声にならない声を挙げる天之橋。(笑)
少女の両手が彼の首に回され、体が密着し、細い足はしがみつくように彼の腰のあたりにくっついている。
しかもしかも、男の手が少女のももに回され、足を広げるかのように持ち上げている!(いや、おんぶですから)
その位置は、あと数センチで彼女の下着に到達し、大事な部分に触れてしまうような所だった。(いやだから、おんぶなんで)
自分の目の前でいやいやいや。校内で、こんな破廉恥な行為を行うとは!!(……。)
一言いってやらなければならない、と憤慨する彼に更に追い打ちを掛けるように、
「体育用具室でええの?持ってくの」
「うん!なんかこの器具、古いから使わないんだって。しまって来いって」

使われない器具をしまう、体育用具室!!
その言葉は、彼には“誰も来ない、絶好のナンパポイント”と聞こえた。
そこに連れ込まれ、いいように餌食になってしまう少女の姿が目に浮かび、天之橋はめまいを覚えた。

『へっへっへ、こんな所までついてきたんや。何もないとは思てないよな?』
『いやっ、何をするの、まどかくん!』
『叫んでも誰もここには来ぃへんで。おとなしぃするんや』
『やめて!いやああ……!!』

走馬燈のように過ぎ去る情景に鼻血を吹きそうになりながら、天之橋はギリギリ走っていないと言える歩調で彼らを追った。

くん」
「え!?あ、天之橋さん!」
後ろから声を掛けると、少女は驚きの声をあげ、急いでまどかの背中から降りた。
少しあわてたその姿。自分を意識していると喜んでいいのか、まどかを意識していると嘆かねばならないのか……。
そんなことを考えながら、天之橋はにっこりと微笑んだ。
「……どうしたんだね?ケガでもしたのかい?」
「あ、いえ。大したことないんです。それより、何かご用ですか?」
いつもの愛らしい笑顔で、少女は用件を促した。
「いや……その、できれば薔薇園の世話を手伝って欲しいと思ったのだが……忙しそうだね」
「いいえ、大丈夫です。お手伝いします!」
わざと残念な表情を作ると、思った通り、少女は張り切って答えてくれた。
「ごめんね、ありがと、まどかくん。荷物は運んでおくから」
「オレ、運んどいてやってもええで?貸してみ」
にこやかに手を出しかけて、しかし、右前方からの『恩を売ってどうするつもりだ』のオーラを感じ取ったまどかは、顔を引きつらせながら後ずさった。
「と、思たけど、オレ急ぎの用があるんやった。ゴメン。じゃなー」
「………???」
風のように去った彼を、少女は不思議そうに見やった。
その隙に目の前に跪き、天之橋は少女の膝をすくい上げた。
「これは……、ケガをしたんだね?赤くなっているじゃないか」
「あ、大丈夫です。ちょっと転んじゃっただけで……あっ!」
処置を謝絶される前に、すばやくその部分を舐める。
「血も出ていないからね。これでいい」
悪気のない微笑みに少女は怒るタイミングを失い、もう、と心の中で呟いた。


冗談やないで、ホンマ。理事長がアイツにベタ惚れっちゅーのはホンマやったんやなー。あのコっワい顔!
足早に逃げながら、まどかは大きく息をついた。
せやけど、まさかおんぶだけであない睨まれるとは……下手に手ぇ出したら退学にされそうや。
そんな天之橋の、せっぱつまった感情に。
やっぱり……、アイツは気づいてないんやろなぁ……。。。
少しだけ、理事長が可哀想にも思えてくるまどかであった。


「では、参りましょうか?お嬢様」
まどかがいなくなり、余裕が出来た天之橋が少女の手を取ると、少女はくすぐったそうに笑って言った。
「はい!……あ、でも、先に寄り道してもいいですか?」
「いいとも、君のお供ならどこだって行くよ。どこにいくんだい?」
何気なく聞いた、その答えは

「体育用具室!」

再び、彼を悩ませることとなる。(誘われてるんじゃないってば……)

FIN.

あとがき