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 Lady Generation/M.V. 3 

「今日は天気もいいし、馬で遠乗りに行かないかい?」

幾日か経った朝の朝食の席で、天之橋が楽しそうに提案した。
隣に座るマリィに英語で同じ事を言うと、彼女はすぐさま手を叩いて喜び、彼の腕に抱きついた。

『わぁっ、私イチと並んで馬に乗りたかったの!だって昔は一人では乗らせてもらえなかったじゃない?』
『ハハ、それは仕方がないよ…あの頃の君はずいぶん無茶をする娘だったからね。』
『競争したかったのに、いつもイチの馬に乗らされて、ゆっくりとしか走らせてもらえなくて。
 あんなの、乗馬って言えないわよ。退屈な子供の遊びだわ』

少女は曖昧な笑みを浮かべながら、きりきりと締め付けられる心臓を誤魔化すようにカップに口を付けた。

行きたくない……
彼が、馬に乗ったことのないわたしを、一人にはしないことが分かるから。
おそらく皆乗馬に慣れていて、いつもなら遠乗りも楽しむことが出来て……なのにわたしがいるせいで、色々気を遣わなくてはならない。
邪魔で足手まといな、自分。
でも、わたしが返事をする暇はなかったけれど、もし訊かれても言えるはずがない。
あんなに楽しそうに笑っている彼も、わたしが行かないと言えば残念そうな顔をして、でもすぐに予定を変えてしまうだろう。
これ以上、気を遣わせることはできないから。

アタシ、遠慮するワ。」

気付かれないように、そっと小さく息を吐いた少女を横目で見て、先に食事を終えてソファで雑誌を広げていた花椿が呟いた。

「今日はお馬サンに乗ってお尻痛くしてる場合じゃないの。ちょっとお出掛けしてくるから車貸してね、ジム。」

事も無げに断る花椿に、少女は驚いてそちらを見て。
それから提案した彼を見る。
天之橋は別段気に留めた様子もなくティーカップを置いた。

「いいデスヨ。キィは付いてるから…ガスは満タンにして返してね、もう半分しか入ってなかった。」
「あこぎな商売してんじゃない?…ま、いいワ。」

肩をすくめながら、“お弁当を作るから手伝って”と引っ張っていかれる天之橋を見送って。
花椿は同じように台所の方を見つめていた少女をつんとつついた。

「アタシ、今日ピカデリーサーカスまで行くんだけど、どうする?」
「え?…どうするって……」
「アンタ行きたくないでしょ、遠乗りなんて。」

一瞬、ドキリ、として。
カップを口元に運ぼうとしていた手が止まる。

「Why?、どうして?馬キライ?」
「……いいえ、そんなっ……そんなことないです!」

ジムの驚いたような表情は、彼女が恐れていた気遣いの色を含んでいて。
少女は慌てて手を振り、困ったように振り返った。
花椿はなんでもない風に腕をソファの背に預け、顎を載せる。

「見るのは好きよね?でも、アタシとはデリケートなの。あんなモン乗ってたら痔になっちゃうワ!」
「あぁ、そうか。乗り慣れてない人はみんなオシリ痛いって言うからね〜。…アレ?でもゴローは…」
「ナンカ文句あるっっ!?」
「……イエ。ないデス。」

引っかかるものを感じて首をひねっていたジムが、慌てて目を逸らす。

「…せんせい、でもそれって…お仕事じゃ…?」
「そうよ、買い物するから荷物がねぇ…とても一人じゃ持ちきれないし。アンタはウチのバイトでしょ?…ランチ奢るけど?」

ニッコリ笑う花椿に、少女の顔が輝いた。

「はい…それじゃお供します。」
「決ーまった!…じゃあアタシ達行ってくるから、ジムが伝えといてね?…アデュー。」

 

◇     ◇     ◇

 

都心に向かう車の中、花椿は運転しながらハリウッドスターの面白い話をたくさん聞かせてくれた。
ピカデリーサーカスに着けば、いろんなお店を走り廻って。
入ったブティックで、少女を着せ替え人形にしては次々にレジに積み上げる。
“特にお気に入りだから大事に持ってて”と渡される紙袋は、彼が持っている物より明らかに軽い。
彼のファッションしては珍しい、細身のジーンズの後ろポケットに裸で入ったゴールドカードが、半日で両手いっぱいの荷物を作った。


「ふぁ〜、なんか一生分買い物した気分ですね。」

くたくたになって入ったオープンカフェで、午後の紅茶。
かわいらしいマフィンやスコーンを見て笑う少女に、花椿は安堵の息をついた。

「…ちょっとは元気出た?ストレス解消には買い物がイチバンでしょ?」
「……はい、ありがとうございます。」

思い出したのか、曇った顔に無理やりの笑顔。この数日で見慣れてしまったもの。
軽く溜息をつきながら、花椿が切り出した。

「……マリィはね、父親の顔を知らないの。」
「……え?」
「初めて会ったのは十年前。アタシはまだ駆け出しだったし、一鶴は家を継ぐかどうか迷ってた。……マリィはね、薔薇園の隅っこで泣いてたワ。」
「…………。」
「母親が入院しててジムの所に預けられてたんだけど、“学校のペアレンツディに誰も来ないのはマリィの所だけね?”って、わざわざ担任が皆の前で聞いたらしいのよ…それ聞いて、アイツ烈火の如く怒ってねェ、担任呼び出すわ校長室に乗り込むわ…もちろんペアレンツディにも出席して。……はばたき学園って初等科からあるけど、参観日ないの知ってた?」
「……あ……。」
「それからマリィは一鶴にベッタリ。クリスマスイブに靴下の中のぞいたら、“イチがお父さんになってくれますように”って書いてあったワ。……いい、?一鶴にとってマリィは娘のような存在なの。マリィにしてもそう。だからアンタは何も心配しなくていいのヨ?わかったわね?」
「……はい。」
「それでもって、だからって一鶴を許してやるワケにはいかないワ!」
「……は?」
「浮かれすぎヨ!の気持ちなんて、ちっっっとも考えないでナニあの態度!アッタマ来ない!?」
「……あの、でも…。」
「あぁ!取ってやったくらいじゃ治まらないワ!も許してやることないからねっ!!」

ぷりぷり怒る花椿に、鉛を抱えているような胸の中が少しだけ軽くなった気がした。

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