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恋は盲目
ずるい。
◇ ◇ ◇
期末テスト中のある日、私は、教会近くの薔薇園を通りかかった。 |
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彼は、風で折れてしまったのだろう、地面に落ちた薔薇のつぼみを拾って。 その芳香に目を伏せながら、ゆっくりと振り返る。 意外とまつげが長いことも。 薔薇を持つときは、その手が優しくなることも。 眼鏡に隠された瞳が、綺麗な藤色であることも。 そんなことは全部。ずっと前から、知っている。 彼はお金持ちだし。たぶん、仕事も出来る人。 天之橋家といえば、はばたき市でも一番の名家で。 物腰も洗練されていて、包容力だってハンパじゃない。 女の子の喜ぶ言葉を、いつでもくれるロマンチスト。 優しくて、趣味が良くて、何にでも造詣が深くて。 スポーツが得意で頭も良くて、背も高い。 それなのに。 |
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「おや、くん。今帰りかな?」 立ちつくした私にかけられた、言葉に。 「………はい。これから、家に帰って勉強を……」 私は、当たり障りのない言葉で答えた。 それなのに、赤い薔薇なんかが似合ってしまう容姿まで持っているなんて。 ただの子供である私は、じゃあ、どうすればいいの? あなたが持つ、その薔薇みたいに。綺麗でもあでやかでもない、私は? 考えるうちに、苛立ちが外に出てしまった私の小さな変化を読み取って。 彼は少し、気遣うような微笑みを見せた。 「おっと……勉強だったね?がんばって。はい、これは励ましの一輪。」 手にした、綺麗な薔薇を渡される。 「ありがとう、ございます……じゃあ。」 憎憎しい自分の考えがイヤで、踵を翻した、私の耳に。 「あっ……!くん!」 焦ったような、子供のような、声が聞こえた。 「………え?」 思わず、素で振り返ると。 彼は私の腕を掴みそうに出した手を、あわてて引っ込めるところだった。 「………どうしたんですか?天之橋さん」 意外なその態度を見て、私が不思議そうに聞くと。 彼は、目を泳がせながら決意したように言った。 「その……もしよければ、なんだが。 今度の日曜日、ドライブに行かないか?」 私は、きょとんと彼を見返した。 言われた意味が分からなかった。 私、誘われた? 昨日、あんなにきっぱりと断ったのに? なんで?どうして? その答えが出せないうちに。 気がつくと、私は微笑んでしまっていた。 「はい。……嬉しいです」 思わず心が弾んでしまう、そんな表情を隠さないまま、手を後ろで組んで。 私は嫉妬の対象の半分である薔薇を、くしゃりと握った手の中に封じ込めた。 やっぱり。 わたし、したたか…かもしれない。 FIN. |
あとがき |