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バレンタイン
がんばっているあのひとに、ほんの一瞬だけでも安らいでもらいたいただ、それだけ。 カチカチと、いつもより大きな音を立てて進む秒針。 今日に残された時間はあと、10分。 少女はため息をついて、ベッドから体を起こした。
こんこん、と静かにノックをする。 「失礼します……」 正面の机に、数時間前と同じ姿。 「お飲み物をお持ちしました」 妙な挙動をしないように、普通を装って机に近づいて。 「では、先に休ませて頂きます。旦那様も出来るだけ早くお休みになって下さい」 手を挙げて応えた彼に、少女はもう一度丁寧に頭を下げ、部屋を出た。 「……?」 ぱたんとドアが閉まるのと同時に、ふわりと漂った甘い匂い。 今日の最後の最後になってようやく渡されたそれを、密かに待っていた自分に気付いて。 更に続く? |
あとがき |