「や、で、す」
その言葉を聞いた瞬間、天之橋は自宅に戻るのを諦めた。
常には従順な彼の少女が、無理難題を振りかざすのも気に入らない。
そんな仕草も、可愛らしくはあったけれど。
もとより、子供は苦手なのだ。
「では、。君がどちらか選びなさい。
このまま大人しく帰るか、それとも……上に部屋を取るから泊まっていくか」
どちらも嫌、と言ったらこの場でお仕置きをしていたかもしれない。
少女は、しばらく考えて。
「とまる。だっこして」
にこ、と笑って両腕を差し出した。
少しだけ息をついて、彼女を抱き上げる。
長身の彼が、小柄な少女を片手で抱いて歩くと、周りの客が物珍しそうに視線を送った。
そんなものを、気にするような彼ではないけれど。
「うふふ〜 だっこ〜だっこ〜」
調子はずれな彼女の歌が、あまりにも様にならなくて。
耳元で、囁く。
「じっとしていなさい。ここでお仕置きしても構わないん……」
「あまのはしさん。ちゅーは?」
「……………」
「ねぇ、ちゅー」
「……………」
無言で、会計にカードを渡して。
内心の動揺を全く表に出さないギャルソンに感謝して。
店を出た途端、唇を貪る。
「……んっ……!」
びっくりして体を引こうとするけれど、許さない。
彼女の力が抜けてしまうまで、深く口づけて。
「ふ………」
ことん、と胸に倒れ込む彼女に満足して、エレベータに乗った。
◇ ◇ ◇
「きゃー」
歓声を上げて、広いベッドの上でぽんぽんと飛び跳ねている少女を眺めながら、天之橋は上着を脱いだ。
ネクタイとYシャツも外して、その辺に放り投げる。
「。なにか飲むかい?」
自分のための酒を取り出しながら聞くと、少女はうーんと考えて、ぱっと顔を輝かせた。
「あのねえ。ねえ。ケーキがいい!」
「……それは、飲み物かな?」
「ミルクレープと、いちごケーキと、ちょこケーキもー」
「飲み物を聞いてるんだが……」
「のみものは、オレンジジュース!」
「……………」
これは、苦笑していい場面なのだろうか?
そんなことを思いながら、額を抑える。
今日の彼女は、どうにも調子が狂う……と考えかけて。
ふと、思いつく。
「……。では、ケーキをあげるから、私の言うことを聞くかい?」
「うん、きく!」
「なんでも?」
「うん!」
無邪気に微笑む少女。
くすりと笑って、天之橋はベッドに片膝をついた。
「では……まず、服を脱いで」
「はーい」
何の躊躇いもなく、彼女は元気に返事をして服を脱ぎ始める。
上着を脱いで、少し辿々しい手つきでボタンを外して。
スカートを脱ぐのに、ぞんざいにころんと寝ころぶ姿も、普段は絶対に見られないだろう。
そこが楽しくもあるが、羞恥心がないというのも少しつまらない。
やがて、下着だけになった少女が窺うような瞳で見上げるのに気づいた。
「……ぜんぶ?」
可愛らしく首を傾げられて、頷くと。
「でも……さむいよ?」
空調は効いているのでそれはないはずだが、裸=寒いという固定観念があるらしい。
天之橋は笑って、その頬に口づけた。
「いいから。脱ぎなさい」
「うん」
重ねて言うと、彼女は素直に下着を外した。
「では、これを着て。良いというまで他に何もつけてはいけないよ」
先程脱いだ自分のシャツを差し出すと、よいしょよいしょと呟きながら身につける。
それは当然、彼女の体には大きすぎて。
二つしかボタンの留められていない胸元からは白い膨らみが零れ、裾は動くたびに腿の付け根あたりまで露わになる。
指先も出ない両手に困っているのを折り曲げてやると、少女は微笑んで礼を言った。
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