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 りそうとげんじつ 4 

「……やっ……いや!」

彼が行動を起こす前に。
髪を掴んで、先程とは逆の哀願をする。
けれど、天之橋はくすりと笑って身を起こし、涼しい顔で受話器を取った。

「私だが」
応対しながら、向こうを向いてしまった彼女の横に寄り添う。
至近距離の背後で、受話器からの声が少女にも聞こえた。
『親父?あのさぁ、今日、車なに使う?』
「立夏」
その名前に、びくりとする。
使用人ならまだしも、息子の立場の彼の声が聞こえると、我に返ってしまうから。
「別になんでも良いが……」
『そしたらさ。俺、ポルシェ使うかもしんねーから、置いといて』
「ああ、構わないよ。出掛けるのかい?」
言いながら、逃げるように背中を丸める少女を強引に抱き寄せて。
手を、前に回す。

「………っ!?」

胸の間からつうっと降りていく指を、信じられない気持ちで眺めて。
止めることも忘れたそれが、足の間に潜り込む。
「……ひ……!」
声を上げかけて、少女は慌てて口を押さえた。
まだ、声は聞こえている。
『う〜ん、わかんねーけど。ツレから連絡あるかも』
「ほう。彼女かね?」
ククッと笑う声は、立夏に向けられたものではなくて。
一度達しかけた体はすぐに、理性を奪われてしまう。
『そんなんじゃねーよ。男だよ、男』
「なんでもいいけれどね。危険な運転だけはしないように」
『分かってるって』

「……ぁ……んっ……ふ、ぁ!!」
口を塞いでいても、かすかな叫びが漏れた。
ずくん、と。体の芯まで突き通る感触。
一瞬、なにも分からなくなって。
気づいたら目の前に、受話器。

「……!」
咄嗟に、終話ボタンに手を伸ばすけれど。
その手が掴まれて、後ろで拘束された。
「立夏にも聞かせてあげなさい」
耳を疑う、言葉。
同時に、激しく揺らされる濡れた音。
「……っ!……っっ!あ、あぁっ!」
声を抑えることなど、出来るわけがなかった。
「やっ、やめ……あ、ああ、っん!」
「いい声、だね。立夏、聞こえているかい?」
「いやあああ!き、きかな……っやめ、あ、いや、あああっ」
「……
「ひ…っっ!」
耳元で名前を呼ばれると、それだけで引きずり上げられる感覚。
頭のどこかで、警鐘を鳴らす音が聞こえたけれど。
もうどうでもいいという気持ちの方が、大きかった。

先に、意識が弾けて。
少し遅れて、身体の奥で、水音。
「……あ、 あ …… っ……!!」
抱きしめられる腕だけが、現実のもののようだった。

 

◇     ◇     ◇

 

「……は、……っぁっ……」

しばらくして、荒い息をついて痙攣する身体を、天之橋がゆっくりと振り向かせると。
焦点の合ってない瞳が、ふと、見開かれた。

「……天之橋さっ……!まさ、か……!!」
がばっと身を起こし、受話器を取って確かめる。
すでに通話は切れていて。
でも、どの段階で切れたのか判別できなくて、泣きそうな瞳で振り返る。

「初めから繋がっていないよ」

すまして言う顔をじっと見て、それが真実だと分かった途端、涙が溢れた。
「もうっ……ばかっ!」
ぐすぐすと泣き出す彼女を抱き寄せて、天之橋は笑いながらキスをする。
「そんなに嫌かい?」
「当たり前じゃないですかっ!あんな……あんな恥ずかしいの、本当はっ……!
 でも、天之橋さんだから……それを、他の人になんてっ……!」
泣く以上に顔を赤らめて、恥ずかしそうに胸に顔を埋める。
天之橋はまた、クスリと微笑んで。
顔を見られたくなくて抵抗する彼女の顎を無理やりに引き上げ、もう一度キスをした。
「………?」
いつもより少しだけ甘い、口づけ。
不思議そうに首を傾げた少女は、何かを思いついたようにあっと声を上げて。

「もう、ダメですよ!これ以上時間が経ったら、本当にどこにも行けなくなっちゃう!」

見当外れな台詞を吐いて、天之橋を心から苦笑させた。

終わる。

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