MN's RM > GS別館 > GS1夢 > 天之橋さん創作（キングシリーズ）

　りそうとげんじつ　2　

「……………あ。」

ぱちりと目を開けて、立夏は呟くように声を漏らした。
やばい、と思うまでもなく。ずいぶん御無沙汰していた感触が、頭痛を誘う。
小学生じゃあるまいし、と額を抑えてため息をつき、しかし今日の夢は忘れないようにしようと考えてしまうあたりは十分若い。
さっさと起きて風呂に入ろうと身を起こしかけた立夏の耳に、高いノックの音が聞こえた。

「……りつかー？起きてるー？」
「！」

ノックの主は、先程まで彼の夢であられもない姿を見せていた少女。
立夏は思わず、頭から布団をかぶり直して寝たふりをする。

大丈夫。鍵は掛かっているはずだ。寝たふりをしていれば入っては来れない。
さすがに少しだけ感じる罪悪感からか、彼らしくなく心臓をドキドキさせて、そう自分に言い聞かせるのに。
部屋のドアは、無情にもガチャリと大きな音を立てて開き、彼女を迎えてしまった。

「！！！」

嘘だろ！鍵のかけ忘れ！？こんな時に！！

「りつ……あれ。まだ寝てるの？」

寝てる！寝てるから出て行ってくれ～！

「……むぅ……」

必死で身動きしないようにしている立夏に、少女の不満そうな呟きが聞こえて。
しばらく、何かを考えているような間があったと思ったら。

「

ぐえっ！」
どす、という鈍い音と共に、布団の上に彼女が落ちてきた。
「て、てめえ！殺す気か！」
思わず布団から顔を出して、彼女を睨むと。
「あ。目、覚めた？」
それを綺麗に無視して、にっこりと無邪気に笑う、天然小悪魔。
「……なんだよ……」
布団の中の悲惨な状況もあって、立夏は少しだけ口ごもって尋ねた。
少女はまったく気づかない。
「あのね。天之橋さんがね、日曜日だから出掛けようって。立夏も行こ？」
「…………」
もう布団の中は諦めて身体を仰向けると、少女はよいしょと立夏の上に乗って胸に肘をついた。
その格好は、夢と同じで。
しかし決定的に現実感を煽る、弛んだ襟ぐりから見える赤い印。

そのギャップに落ち込むほど、立夏は白旗を上げてはいない。
父親と自分とは、お互い憎んではないし親近感も親愛の情もあるけれども、それでも相手に女を譲るという意識だけはない事が分かっているから。

「親父が……そう言ったのか？」
そう訊くと、少女はきょとんとした瞳で首を傾げた。
「え？えっと……天之橋さんは、立夏は疲れてるから休ませてあげなさいって言ったんだけど。
　疲れてたって遊びには行きたいよねー？」
にこにこと、悪気無しに言いつのる言葉。立夏は苦笑した。
父親の苦虫を噛み潰したような顔が、見える気がして。
「ねぇ立夏、一緒に行こうよ。ね？」
可愛らしくおねだりされる、それに応えたい気持ちはあるけれども。
勝負で言ったら、ここは行かない方が有利だと思ったから、首を振った。
「俺はやめとく。今度また付き合ってやるから、行ってこい」
「えぇー……」
不満そうな彼女に、くっと笑って。

「

それより、。おはようのキスは？」
「……え」
見開く瞳に、頬を指さしてみせると、少女はますます驚いた顔をして上半身を起こした。
「立夏……どうしたの？子供みたい……」
子供じみた扱いはいつも嫌がるのに、と呟く彼女に、もう一度笑う。
「が挨拶してくれるんなら、子供でもいいぜ？」
珍しく甘えたその姿が、母親である少女には嬉しくて。
思わず、上機嫌で頷いてしまう。
「もう、しょうがないね～立夏は。ん、おは……」
よう、と言いながら頬に寄せかけた唇を。
素早く顎を引いて、唇に誘導する。

「………！！」

こぼれそうに目を見開く彼女を至近距離に眺めて、口内を味わうのと同時に、入口のドアが開く気配がしてククッと喉から笑いが漏れた。
避けようとする頬を片手で固定して、片手でばさりと髪を掻き上げる。
瞬間、彼女の身体が強く動いて、立夏の腕を振り払った。

「…………りぃつぅかあ～！このバカ息子！！」
「いて、いてっ…マジ痛いって、！」
真っ赤な顔でぼかぼかと殴る彼女に、笑いながら大袈裟に痛がってみせる。
少女は彼の首を絞める真似をした。
「もぅ、立夏なんてキライ！こうだ！えい！」
「ぐえ、苦し……、死ぬ死ぬ、ロープロープ！」

「……………何をしているのかね？」

派手にじゃれ合う彼らに掛けられた、少し動揺を隠した声に。
少女はあっと声を上げると、立夏の上から退きもせずに髪に手をやった。
泣きそうな顔で、乱された髪を一生懸命に整える。
「天之橋さん！天之橋さんも、立夏を怒ってください！
　……せっかく時間掛けてきれいにセットできたと思ったのに～！」

いや、そっちの問題ではないだろう。

二人の心の呟きが重なった。
片方は、面白そうにニヤ笑って。
片方は、少し憮然として。

「………立夏。あまり、をからかってはいけないよ」
彼がそんな目的ではないことは承知の上だが、そう窘めるしか方法がない。
少女は、そら見ろと言わんばかりに立夏を見、すこし胸のすいた表情でベッドを降りると、天之橋に歩み寄った。
「天之橋さん、あの。申し訳ないんですけど、ちょっと出掛けるの待ってもらえませんか？」
「ああ、構わないよ。私も手伝ってあげるから、おいで」
「はーい！」
嬉しそうに頷く少女の背を押して部屋を出ながら、天之橋は息子に威嚇するような視線を投げかけた。
くすくすと笑いながら対する立夏も、瞳は笑っていない。

「天之橋さん、ところで、今日どこ行きますー？
　ドライブだったらわたし、海に行きたいな～」

火花が散りそうな雰囲気は一瞬で消え失せ、二人は同時に苦笑して視線を外した。

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