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あえないきもち(夫婦Version) 2
「……怒ってました?せんせぇ」 部屋に戻ると、少女はごそごそと机の下から這い出し、制服についたほこりをぱたぱたと落としながら言った。 天之橋は、先程の応酬など微塵も感じさせない笑顔を浮かべて彼女を見る。 「いや、別に怒ってはいなかったよ。話したら快く分かってくれたから」 少女はほっとした顔をした。 「よかった。着替えに帰りなさい、っていわれたんですけど……逃げちゃったんです」 天之橋さんに、早く会いたかったから……はにかんでそう呟く少女を、抱き上げる。 自分より高いところまで上げた彼女の目線に、10cmの距離で瞳を合わせ。 「私も会いたかったよ。ずっと君のことを考えていた」 恥ずかしそうな少女に口づけようとして。 天之橋はふと、疑問を口にした。 「……そういえば。旅行はどうしたんだい?まだ三日ほど行っている筈では……」 「えっ?」 少女は可愛らしく首を傾げた。 「一週間、でしょ?最初からその予定でしたけど……?」 噛み合わない話に、よく思い出してみると。 確かに、最初は一週間と聞いていた。しかし、出発直前になって10日間に変更されたはずだ。 その連絡と同時に水月にからかわれたのだから、間違いない……と考えかけて。 天之橋は途端に苦笑を浮かべた。 その連絡は、悪戯好きな少女の母親から受けたもので。 彼女自身からは、そんな話は一言も聞いていなかったことに思い当たったから。 またあの人に一杯食わされたか、と思いながら、今となっては思いがけず短くなった期間に嬉しさを禁じ得ない。 まったく、どれだけ嵌められても彼女を憎むことなど出来そうになかった。 「いや、なんでもないよ。私の勘違いだったようだ」 不思議そうな少女にそう答えて、天之橋は彼女と唇を合わせた。 「……ん……っ…」 かすかに呻く声も。 身を捩る、姿態も。 きゅっと自分の肩を掴む指も。 何もかもが一週間ぶりで、思わず笑みが漏れる。 舌を絡ませずに唇を離すと、彼女は物足りなげな切ない表情で天之橋を見た。 喉で笑いそうになるのを堪えて、抱き上げたままの彼女の胸に顔を埋める。 「天之橋さん……?」 不穏な空気に、彼女が気づく前に。 仰け反られても危なくないよう、後ろにあったソファに腰掛け、自分の体を跨がせた。 「………っ!」 今までの経験から意図を悟り、離れようとする身体を片手で抱きすくめて。 片手で、スカーフ留めのホックを外す。 ぱさりと乾いた音を立てて留められていたスカーフが弛み、脱ぎかけの服のような扇情的な情感を曝した。 「やッ、天之橋さん!こ、こんなところで……っ!?」 焦って抵抗する少女に、クスリと笑う。 「どうしてだい?……こんな格好で、誘うような瞳をして……そのつもりなのだろう?」 違う、驚かせようとして、とその瞳が語るのに気づかない振りで。 短いスカートを捲り上げるように、後ろから手を入れる。 「あッ……やぁっ!」 心持ち膝を広げられている所為で、跨いでいる足は大きく開いてしまい、それを阻むものは何もなかった。 間髪入れず、下着のラインをなぞった指が、脇から入り込む。 「ぅ、くっ……っ、んぅ……!」 会陰を撫で回される感覚に全身が総毛立ったが、少女は声を出さないように唇を咬んだ。 ここは学園内。防音の効いている理事長室とはいえ、いつ誰が入ってくるか分からない。 しかもしかも、執務机の向こうの窓は、カーテンが開いたままだ。 校庭からは、見えないけれど。 同じ階の向かいの部屋からは、見えてしまうかもしれない。 「っ……や、だ、……おねが、……ん、……やめ……」 喘ぎを必死で我慢しながら、小さな声で許しを請う少女に構わず。 天之橋はセーラーの前ボタンを外し、下着をたくし上げた。 肌が外気にさらされる感触にびくりと震え、少女は腕を突っ張らせて叫んだ。 「やっ!天之橋さん、ダメです!……氷室先生が戻ってきたら、…っあぁあん!」 言った途端、秘部を撫でていた指が内部に突き入れられた。 思わず、甲高い声が漏れる。 「……ほう。情事の最中に他の男の名前を口にするとは……ね」 低い低いその声に脅えを感じつつ、少女は力なく抗弁する。 「ほ、他の……って……せんせぇは、先生……っあ、ふっ……!」 乱暴に掻き回され、中途半端に潤っているせいで余計に刺激される快楽に仰け反る。 彼女の口を封じながら、天之橋は内心で苦笑いした。 あれが、“先生”の態度だと? どう見ても、氷室が彼女を特別視しているのは間違いない。 在学中から、自分と出掛ける彼女に説教したり、どうにか彼女を誘おうとしたり、色々と画策していたようだが。 それでも、結局は『教師』の枠から外れるような態度を取れなかった氷室が、少女に恋愛対象として見られることはなかった。 で、なければ。天之橋はとっくに彼を解雇しているか、強制的に転勤させているだろう。 『担任の先生』という枠内での信頼のみを、少女が彼に寄せていることは明白だったために、彼は氷室の存在を許してきたようなものだった。 まったく、もし少女が自分を選ばなかったらどうしただろうと思うと、自分でも空恐ろしくなる。 天然な彼女が、気づかずにあちこちの男に慕われていたのは知っていた。同級生、下級生、他校の生徒に至るまで、あわよくば友人以上の関係になろうとする男はたくさんいた。 それでも。 彼女は、入学間もない頃からずっと、自分ひとりだけにしかその地位を許さなかった。 客観的に見て、同世代の男よりも自分が良いのは何故だろうと考えたこともあるが、少女が全く悪意なしに『天之橋さんとお出掛けだから、約束は今度にしてね』と告げているのを偶然耳にしたときの、激しい優越感は忘れられなかった。 どれだけ、強気に出ていても。 結局、溺れているのは自分の方なのだ。 そんなことを考えながら、すっかり潤ったそこから指を引き抜くと。 少女はあっと声を上げ、熱に浮かれた瞳を上げた。 「ヤ、……あ、まのはし、さんっ……」 先程と同じ言葉。 天之橋はにやりと笑って、彼女の耳に口を寄せた。 「何が……嫌、なのかね?言ってごらん」 「うぅっ……」 恥辱のあまり、ぽろりと涙をこぼして。 それでも、かすかな声で、囁く。 「や、めない……で。…………し、て……っ」 強烈な挑発を含む姿態に、思わず飛びかける理性をどうにか制した。 結局。 溺れているのは自分の方。 「いい子だ」 それだけ言って、寝返りを打つように身体を入れ替えると。 立てた膝に露わになる、濡れた部分を覆う布を、少女は恥ずかしそうに目を逸らしながら腿の半ばまでずり下げた。 天之橋は、従順な服従の仕草を見せる彼女の唇を奪いながら、ベルトに手を掛けた。 しばらくして。 「もー………」 汗だくでソファに俯せ、むくれる少女に。 天之橋は笑いながら、まだ熱いその身体を引き寄せ、囁いた。 「。帰ったら、パスポートだけ出しておきなさい」 「?パスポート……??」 不思議そうな彼女に、優しいキスを落とす。 「新婚旅行に行こう。仕事も終わったし、必要な物は旅先で用意させるから、どこでも好きな場所をねだって構わないよ」 さりげなく嘘をつきながら、頭の中で自分の代わりに仕事をさせる人間を選別する。 少女は、驚きと気遣いと嬉しさの表情をせわしく交錯させた後、晴れやかな笑顔で彼の首に飛びついた。 「嬉しい天之橋さんと一緒なら、私、どこでもいいです!」 終わる。 |
あとがき |