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 猛犬注意 

 ―― おかしい……。

 天之橋はカタカタと音を立てるカップを見ながら、そう思っていた。
「なぜ私がお茶を淹れなければならないんだ?」
 トレイの上のカップは3つ。
 淹れたてのお茶を持って、天之橋は廊下を歩いていた。
 笑い声がもれる扉の前に立つと、一息ついてから開ける。

「やぁ、お茶が入ったよ」
「あ、天之橋さん!」
「ン、もぅっ! いいところに入って来るんだからっ!」
 部屋の中には向かい合って座る、花椿と少女。
 少女は単純にお茶に喜んでいるようだったが、花椿の目はあきらかに邪魔者扱いだった。
「早かったですね〜。あ、これわたしの好きなクッキー!」
「紳士なら気を利かせて、もうちょっと遅く来なさいヨネ〜」
 ぶつぶつ言う花椿には、微笑みで返しておき、心の中で毒づく。
 ―― ふたりっきりにさせておきたくないから、早くきたんだよ。

 大体……。

 天之橋は、再び談笑し始めた少女と花椿をジト目で睨みながら考え始める。

 花椿は私に用があるから、と言って来たのではなかったか?
 ということは、「私のゲスト」であるはずだ。
 じゃあ、私と花椿が話しているところに彼女がお茶を持って来る、というのが自然ではないかと思うのだが?
 お茶を淹れるのが嫌なわけではない。彼女が喜んでくれるなら、いくらでも淹れるさ。
 けれども、花椿はなんだ。あからさまに嫌な顔までして。
 あれは絶対、「私に」用があったわけではないな……。

「天之橋さ〜ん?」
 ハッと気が付くと、天之橋は少女にのぞき込まれていた。
「どうしたんですか? 眉間にしわよってますよ?」
「どーせ、仕事のことデショ? 一鶴なんかいいから、それでさっきの続きなんだけど……」
 邪険に扱われ、流石の天之橋もムッとくる。
「……花椿」
「何ヨ?」
 まだ何か用なのか、とばかりに花椿が振り向く。
「用事は?」
「あぁ……。別に今日じゃなくてもいいから、また今度言うワ」
 手をひらひらと振りながらどうでもよさそうに答える花椿に、自分の考えを確信した天之橋は、そのままの体勢で口を開いた。
「じゃあ、今日はもう帰れ」
「え? あ…天之橋さん?」
 二人の間に漂うただならぬ雰囲気を感じ取った少女は、戸惑いの声をあげる。
「用はないのだろう? 忙しい身なら帰ったらどうだ?」
「ちょっ…そ、それは、失礼ですよ」
「アラ、気にしなくってよ小悪魔ちゃん。一鶴、アタシ今日は暇なのヨ。久しぶりのお休みなの。
 もうちょっと、ゆっくりしていくワ」
 止めに入った少女をやんわりと手で制し、花椿は思わせぶりな笑顔で答える。
 そんな花椿に益々刺激された天之橋は、苛立ちを隠すことも忘れ言い放った。
「悪いがはっきり言って、うちにいられるのはめいわ……!?」

 パシッと乾いた音がして、一瞬何が起こったのか分からなかった。
「お客様に…お友達にそんなこと言ってはダメです! 謝ってください!!」
 片頬が徐々に熱を帯びていっていた。
 花椿までもが驚きでポカンとしている中、彼女は目に大粒の涙を溜めて怒っていた。
「せっ…せっかく、遊びに来てくれたのに…何てこと言うんですか! 謝ってください!」
「し…しかし、あれは……」
「あ・や・ま・りなさい!!」

「…………はい」

 もの凄い剣幕で詰め寄る彼女に、私が勝てるはずもなく。
 もの凄く格好悪いな…と思いながら、私は不本意ながら謝ったのだった。


      ■■■


 少女は、花椿を玄関で見送っていた。
 謝られたすぐ後、花椿は機転をきかせ「店にやり残したことがあるから帰る」と言い出したのだった。

「あの…本当にすみませんでした。不愉快な思いをさせて」
 少女はまだ涙目で話していた。
「いいのよ、いいのよ。そ・れ・よ・り…」
 花椿は、幾分目を輝かせながら言う。
「あ〜ん、もうっ! 一鶴が本気で怒ったの、何年ぶりかしら! ドキドキしちゃったワ〜vv
 よっっっぽど、アンタのコトが好きなのネ〜。」

「……はい?」
 少女はパチクリと目を開く。
「やーね。一鶴ったら、アンタとアタシが仲良くしゃべってたから、ヤキモチ焼いたのヨ!
 ホント小さいオトコよネ〜。一鶴のこと、あれ以上叱らないでやってネ! じゃ、アデュー!!」
「えっ!? あ…あのっ……!」
 バタン、とドアは勢いよく閉まり、少女は一人取り残されていた。

「ヤキ…モチ……?」

 広い玄関先では、真っ赤になってこれからどう接すればいいのか分からない少女が、
 書斎では、これまた恥ずかしさと激しい落ち込みで少女の前に出ていけない天之橋が、
 それぞれ悩んでいた。



END