MANA's ROOM〜トップへ戻る
Total    Today    Yesterday   拍手メールサイトマップ
更新記録リンク掲示板日記
ときメモGS別館 アンジェ・遙時別館 ジブリ別館 ごちゃまぜ別館
 
 

 君の匂い 

 パタパタと廊下を走ってくる音がして。
 少し手前でそれは止まる。
 続いて聞こえるノックの音。

「はい、どうぞ」

 ドアから半分だけ顔を出した少女に、思わず顔をゆるめる。

「レディは廊下を走っちゃいけないよ」
「……えへへ、やっぱり聞こえてました?」
「やめるならもっと前にやめなければいけなかったね。
 さぁ、中に入りなさい」
「はぁ〜い」

 ふわりと部屋の中に入ってきた彼女の格好に目を奪われる。

「それは……」

 純白のウェディングドレス。

「ふふ、学祭でのファッションショー用のです。
 小物なんかはまだなんですけど、ドレスだけは出来上がったから、
 その……」
 顔を赤らめながら話す彼女の元へゆっくりと近づく。
「あぁ、君にとてもよく似合っているよ。そのまま教会に……っ!」
「……?どうかしましたか?」
「い、いや……」

 一瞬、香ってきた匂い。
 この香水は……。

「天之橋さん?」

 ―― 彼女は……。

「……花椿と一緒だったのかい?」
「え!?」
 これ以上ない程に赤くなる彼女で、答えは分かった。

「きゃあっ!」
「アイツにも褒めてもらったのかい?」

 花椿に先を越されたと知って。
 どうにもならない感情が心の中を渦巻く。
 気が付いたときには彼女をソファに押し倒していた。

「褒めてもらったんだろう?結婚式をあげようとでも言われたかい?」
「やぁっ!あ……まの、はし、さんっ!」
「匂いが移るほど抱きしめられて、キスしたんだろう!?」
 彼女の口をふさぐ。
 もう、どう思われても構わなかった。
 彼女が……、永遠に手の届かないところへ行ってしまったようで……。

「ん、んん!……あ、天之橋さんのバカ!!」
 口を離した瞬間、涙をいっぱいに溜めた彼女に頬を叩かれる。
「なんで……、なんでそう、早とちりなんですか!!」

 ぼうっとした頭で考える。
 早とちり……?

「このウェディングドレスの生地、花椿せんせいからもらったんです!
 せんせいの匂いがして当然じゃないですか!
 これ……、さっき出来たばっかりで、わたし……、わたし、
 一番最初に天之橋さんに見せに来たんですよ!?」
「し、しかし……、
 君はさっき、花椿と一緒にいたのかと聞くと顔を赤らめて……」
「そ、それはっ!
 ……花椿せんせいに手伝ってもらったのが分かっちゃったのかな……って。
 で、でも、手伝ってもらったのはちょっとだけですよ!?」
 慌てて弁解する彼女の声が聞こえていたが、もう私はそれどころではなかった。

 ―― 私は……大馬鹿者だ。
    勝手に早とちりをして彼女を傷つけ、
    自分から彼女に嫌われたのだ。

「すまない……。君を傷つけてしまった」

 ―― つまらない嫉妬心で……。

 ゆるゆると、ソファの上から降りようとする。

「……本当に悪いと思ってます?」
「……あぁ、思っている」
「じゃあ……、キスしてください。今度は優しく」
「な……、き、君……」

 彼女は赤くなりながら、拗ねたように言う。

「わたし、天之橋さんに一番に見せたくて、
 ……見てほしくて、ここに来たんです。
 この意味、分かりますよね?」
「し、しかし、私は今君に酷いことを……」
「だ・か・ら、です!もう一回ちゃんとキスして、
 『結婚式をあげよう』って言って、
 匂いが移るくらい抱きしめてくれたら、早とちりしたこと許します!!」

 さっき自分が言っていたことをそのまま返されて赤面する。

 ―― その前に……、彼女も私と同じ気持ちだったというのか?

「天之橋さん!」
 下から彼女に怒られる。
「あ、あぁ、すまない」
「……して、くれないんですか?」
 目には、また涙が浮かび始めている。

 ―― 君に、二度とそんな表情はさせないよ。

 私は小さな花嫁に優しくキスを落とした。



 END