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  MN'sRM > GS別館 > GS1創作 > 天之橋・約束シリーズ2 >

 特別なおくりもの 

「ハァ〜イ、お・げ・ん・き?」

それまでの静かな空気に似つかわしくない浮かれた声が、理事長室に響いた。
部屋の主は嫌そうな顔をして眉根を寄せ、それでも息をついてファイルを閉じる。

「……花椿。今週は学期末の書類整理で忙しいから、おまえの相手をしている暇はないと言っただろう」
「んまっ、ご挨拶ね!アタシだってアンタに用があって来た訳じゃないワよっ」
「何?」

まだ書類に落としていた目をふと上げると、彼はにんまりと笑いながらこちらへ近づいてくる。
嫌な予感そう、まるで妙な服を押し付けられる時のような不穏さに、天之橋は無意識に上体を逸らした。
花椿は気にする様子もなく執務机の前に立つと、持っていた小さな紙袋を置きながら言った。

「用はないけど、そうねぇ。アンタにも質の違いって奴を見せてあげようかしらね?」

どうやら服ではないらしい、と思いつつ、少し興味を惹かれて彼のほどく包みを覗き込む。

「………………花椿」
「なによ?遠慮せずに驚いて構わないわよ?」
「これは……一体?」

自慢げに差し出されるそれは、高級そうな箱に入ってはいるけれども、一見なんの変哲もないホワイトチョコレート。
全くその価値が分かっていない彼にため息をつきそうな表情で、花椿は大袈裟に肩をすくめた。

「アンタ、相変わらず流行に疎いのネ……。これ、今はばたき市で一番人気のお菓子屋の名物よ!
 超限定生産で、シリアルナンバーが入ってるくらいなんだからっ」
「ほう」
「アタシのブティックの隣にあるでしょう?いっつも行列ができてるお店が!」
「……ああ。そういえば」

最近彼女を迎えに行った時、そんな大騒ぎを見た気がする。
そう思いながら、天之橋も肩をすくめて先を促した。

「で?ただこれを自慢しに来ただけか」
「ただじゃないわよ!アタシでさえこれを手に入れるためにどんなに苦労したか!」
「あれに並んだのか?全く、よくそんな暇が……」
「暇じゃないから、手っ取り早く得意分野でカタをつけたわ。
 店員のコスチュームデザインと引き替えにようやく手に入れたんだから」
「……………。」

おまえだって一流デザイナーの端くれだろうに、何もそこまでして……と呟きかけた天之橋は、次の彼の台詞に目を剥いた。

「小悪魔ちゃんがずーっと欲しがってたのよネ〜♪」
「なんだって!?」

声を荒げて、立ち上がりかけて。
あることに気付き、もう一度箱を見直す。
そこには燦然と輝く、『WHITEDAY Special Edition #1』の刻印。

その意味を頭に浸透させることが出来なくて、半分腰を浮かせたまま呆然と固まっている彼に。
花椿は嬉々として目を細め、言い放った。

「うちにバイトに来る前にも、よく並んでたけど……でも、このチョコは並んでも抽選なのよ。
 どうしても手に入れられないって、悔しそうにしてたのを何度も見たワ」
「……………」
「絶対コレってポイント高いと思うのよね。“どうして!?”なーんて、カワイらしく驚く小悪魔ちゃんの顔が見えるようだわ〜」
「……………」
「アラ?アラアラ?もしかして一鶴、バレンタインにチョコをもらったのが自分だけだなんて思ってた?
 残念ね〜、アタシの所にも小悪魔ちゃんはしっかりチョコ持ってきたわよ?」
「う、嘘だ!あの日、彼女は夕方まで私と……!」

思わず叫んだ天之橋に、会心の笑みを浮かべる。

「ああ、それで……閉店時間も間際に来たからどうしたのかと思ったわ。
 まあそのおかげで、アタシは彼女を家まで送ることになったんだけど」
「は、は、花椿っっ!!!」

机を叩き鳴らして今度こそ立ち上がった親友を満足げに見ると、花椿は白い箱を紙袋に戻して踵を返した。

「じゃ、アタシは退散するわね。小悪魔ちゃんを探しに行かなきゃ

アデュー、といつもの挨拶を残して、彼は部屋を出て行った。

 

◇     ◇     ◇

 

カツカツッ、と足音を響かせて、天之橋は急ぎ足で校舎を横断する。
土曜日の短い授業が終わったばかりの校内はまだ生徒がいて、常にない様子の彼に驚く者も少なくなかった。
そんなことに気づける余裕もなく、一心に彼女のクラスを目指して歩いていく。

冗談ではない。

本当にそう思って、舌打ちしてしまいそうな自らを戒める。
彼女が前から欲しがっていて、どうしても手に入れられなかった特別なもの。
そんなものを先に渡されては、ありふれた自分の贈り物などどうして渡せようか。
なんとしてでも、花椿よりも先に少女を捕まえなければならない。それだけを頭に念じていた彼は、引っ掴んで来た包みを手に、彼女の居るであろう教室を覗き込んだ。

「み……、……小沢くん!」

勢いで名前を呼びそうになり、かろうじて押しとどめる。
切羽詰まったその声に、友達と話していた少女が振り向いて首を傾げた。

「天之橋さん?」

彼の姿を認めて小さく笑うと、もう一度連れを振り向いて二言三言交わし、鞄を持って近づいてくる。
当然のようなその動作に幾分ほっとして、天之橋は傍まで来た彼女に少しだけ微笑むことが出来た。

「どうかしたんですか?ご用でも?」
「……あ、ああ。用と言うほどのことではないんだが、その、今日これから予定は空いているかね?」
「え?」
「もしよければ、今から少し時間をもらえないかな。そう、できればどこかでお茶でも一緒に」
「……えっと……」

口ごもった彼女に早とちりをして、一瞬悲愴な瞳をした天之橋は、彼女がちらりと走らせた視線に気付いた。
それを追って、自分の手元を見て。
ようやく、自分がいかにも格好の悪い風体をしていることに気付く。

ホワイトデーの代わりとなる今日、まだ授業が終わって間もない時間。わざわざ彼女のクラスまで来て、クラスメイトが大勢いる前でこんなあからさまな包みを抱えて、血相を変えて彼女を連れ出そうとする姿。
それはまるで、他の男に一時でも彼女を取られまいとしているようで。

それは事実間違いではなかったのだけれども、余りにも余裕のない己の姿に、頬に朱を上らせてから。
もしかしたら嵌められたかと思いつき、天之橋は愕然とした。

「……あの」

彼よりも更に赤くなった彼女が、抱きかかえた鞄を口元まで引き上げながら上目遣いに見上げてくる。
思わずそれに見とれた彼に、少女はえへっと照れ笑いをしながら、かすかに頷いた。

「では……」

お手をどうぞ、お嬢さん、とは。
考えたけれど、言えなかった。


彼女が花椿に贈ったチョコについて、『バイト先の皆さんにあげたんですよ?』という言葉をようやく引き出した彼が、安堵と憤りと脱力感を感じるのはまだ、数時間後の話。

FIN.

あとがき