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 よくできました 

あ」

廊下に張り出された大きな模造紙の前で、少女は思わず声を上げた。
各教科ごとに発表された成績順位表。いつもは語学が足を引っ張って、どうしても一定の場所から上に行けないのだけれど。

「うそ……」

呆然として、何度もそれを見直して。
彼女は勢い込んで振り向くと、順位表を見ようとする生徒達を掻き分けて走り出した。

 

◇     ◇     ◇

 

がしゃん、とドアが派手な音を立てた。
机に腰掛けてお菓子をつまんでいた奈津実が少し驚いてそちらを見ると、そこには息せき切った親友の姿。

「みゆう?どしたの?」
「なつ、みん……」

息を弾ませてがたがたと机にぶつかりながら近づき、少女は奈津実の手を握って小さく跳ねた。

「すっごいの!なつみん!!語学の順位がね、いつもより20番も上なんだよ!?」
「ハア?何、テストの結果?もう見たの?」
「そうっっ!」

おそらく発表を並んで待っていたのだろう親友を、奈津実は少し呆れ気味に見て。
それでも彼女が試験勉強を頑張っていたのを知っているから、よしよしとその頭を撫でた。

「えらいえらい。語学ってことはあれ?理事長に教えてもらった英語?」
「多分そうだと思う!だって国語の点数、いつもと変わりなかったもん!」
「ふーん、よかったじゃない」

そう言って、奈津実は意味ありげに笑った。

「あーんなに熱心に教えてもらったのに成績変わんなかったら、リジチョにもガッカリされちゃうしね」
「ほんと、よかったよ〜!それにね、がんばったらいいものくれるって言われたの!」

からかうつもりで言った言葉に、しかし少女はほっとした顔で無邪気に受け答えた。
それに苦笑して、机から椅子にストンと乗り移る。
おそらく彼に一刻も早く報告しようとしているのだろう。ばたばたとノートやファイルを鞄に詰め込み始める彼女に、奈津実は机にあったペンケースを渡しながら呟く。

「しっかし、みゆうもよくやるね〜。テスト前だからって朝から晩まで勉強なんて、アタシはやだけどな。
 なんでそこまでするの?まさかリジチョに誉めてもらいたいとかじゃないよねえ」
え?」

ふと訊かれた質問に、少女はピタリと手を止めて。
眉根を寄せて考え込むと、何とも言えないような表情をした。
それを見て、今度こそ呆れたように、奈津実の目が見開く。

「……嘘?マジでえ!?」
「え……、だって……」
「好きな男に誉めてもらいたいから勉強!?高校生にもなって!??」
「す!?す、って……なつみんっ!」
「アンタ、おかしいんじゃない?」

至極真面目に言われた台詞に、少女は一瞬どきりとして。
次の瞬間、それが冷やかしであることに気づき、むーっと頬をふくらませた。

「なつみん……ひどい」
「あはは、ゴメンゴメン。でもホントにそんな理由なの?いくら好きだからって、ねえ」
だって!なつみんだって、まどかくんの好きそうな服着るじゃない!」

ぶは、とお菓子を吹きそうになって、奈津実は慌てて口元を押さえた。

「そ、そ、それは別でしょっ!」
「一緒だよ!まどかくんに誉めてもらいたいから着るんでしょ!?」
「あのねえ、アンタのは勉強で、アタシのは趣味。全然違うでしょーが!」
「一緒だもん!なつみんは服とか研究するのが楽しいからやってるんでしょ、
 私はファッションよりも勉強の方が向いてて嫌いじゃないからやってるのっ!」

応酬を繰り返し、二人はぜーはーと肩で息をしながらお互いを睨み付けた。

「……ガリ勉」
「なつみんに言われたくない」
「勉強が好きなんて信じられないよ」
「私も毎日ファッション雑誌チェックするのはやりすぎだと思う」
「そんなのよく誉めてくれるよ」
「そっちもね」
「お互い苦労するね」
「努力してるよね」

「「……………。」」

鼻をつき合わせて、ぶつぶつと言い合ってから。
同時に吹き出して、笑い転げる。

「あー。あー、おかしー」
「もー、なつみんてば」
「何よ、アンタだって……」

言い返しかけて、奈津実は何かに気づいたようにふと口を噤んだ。
にま、と。会心の笑みを浮かべる。

「そういえば〜。さっき認めたよね?アンタ」
「え?」

不思議そうに首を傾げて、思い返して。
次の瞬間、少女は頬を染めて俯いた。

「そ、それは……そのっ」
「いいこと聞いちゃったな〜。リジチョにも教えてあげよっかな?」
「なつみん!余計なこと言ったら絶交だからね!ってか私もまどかくんにバラすからね!?」
「え〜別にいいよ?アタシはホラ、軽い付き合いだし?」
「……ふ、うーん……」

少女の瞳が、お返しとばかりにほくそ笑む。

デートに着る服探すのに、四日もショッピングモールに通い詰めるのが軽いんだ?」

うっ、と言葉に詰まり、奈津実もほんの少しだけ顔を紅潮させた。

「……………じゃ、お互い相手にはちょっかいなしってコトで」
「りょーかい」

それだけ言うと、少女は思い出したように荷物をまとめ、顔だけ振り向きながら手を振った。

「じゃあ、私行くね!」
「おー、がんばりなねー。もし“いいもの”が物じゃなくっても狼狽えないようにねー」
「うん???」

訳もわからず頷いて、首をひねりながら教室を出て行く少女を見送って。
奈津実はひとり、くすくすと笑ってウインクをした。

FIN.

あとがき