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 Long Road 4 

「……見るな」
「えっ?」

いきなり掛けられた台詞。
可愛いよね〜と呟きながら抱いていた、大きな猫のぬいぐるみを置いて、少女は不思議そうに彼を見上げた。
その視線は、いつもより少しだけ低くて。そんなことを自然に感じてしまう自分に、苦笑する。
「後ろ。見ない方がいい」
相変わらず、意味が分からない。だけど。

「……辛いんだろ?」

思わず振り向こうとした時、呟かれた台詞で、何となく分かった気がした。
もう一度、顔を彼に戻して。微笑む。
「優しいね、珪くん」
自分が隠し事が苦手なのは、分かっているから。見通されていたとしても、不思議じゃない。
「でも。私は大丈夫なんだよ」
目を閉じて、息をついて。
振り返る先に、あまりにも見知った車と、見知った顔。


いつもの表情を、できている自信はあった。
でも。


「……わたし、ちゃんと普通の顔、してた?」
思わず、訊いてしまう。
肩を並べて歩き出した彼は、微笑んで。
子供を誉めるように、彼女の頭を撫でた。

「よく、できました」

今まで聞いたことのない優しげな声音に、思わずまじまじと見上げる。
彼は少しだけ照れたような顔をして、撫でる手で表情を隠した。
「……ご褒美に、コーヒーおごってやるから。喫茶店行くか?」
表に出さない自分の心情を、気遣ってくれる声。
少女はそれを無駄にしないように、くすりと笑った。
「コーヒーより、パフェがいいな〜。苦いの飲めないし」
「……ガキだな」
「どーせっ!」
笑いを堪えている彼を、たたく振りをしながら。
少女は、この数日で習慣になってしまった、自分の表情を窺う癖を持てあましていた。

 

◇     ◇     ◇

 

「アンタが気を遣って。向こうも同じで。そんなんでどうにかなると思ってンの!?」

奈津実の声が、静かな教室に響く。
少女は涙を堪えるように俯いた。


分かっては、いた。
多分、自分が彼と一緒にいたいと望めば、彼はそれを叶えてくれると。
けれども。
それはつまり、同じ生徒でありながら贔屓をさせるということで。
教育者たる彼にそれを望むなんて……できるわけがない。
それに。
彼がそれを叶えてくれるのは、自分の気持ちを気遣ってくれているだけで。
好き、とか。
一緒にいたい、とか。
想ってくれているわけではないから。
今日も一緒に帰ろうと誘ってくれた、クラスメイトと同じように自分に対する優しさでしかないから。

だから、余計に。それを望むわけにはいかない。


無言でいる少女に業を煮やして、奈津実は自分の鞄をひっつかんだ。
「もういい!アンタじゃ話にならない!!」
「な、なつみん!?」
何かを察して止めようとする少女を振り切って。
奈津実は教室を飛び出した。

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