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 いつでも夢に花束を 2 

「………笑いません?せんせい」
「多分、ネ」
「天之橋さんにも言わないでくださいね?」
「分かったわ。教えてくれるの?」
にっこり笑ってそう言うと、少女はつられて笑顔になった。
「すごく……単純で、恥ずかしいんですけど。笑わないでくださいね。
 高校の時、すごく大変だったんです……服、買うの」
「服?」
「はい。特にジェスで服を揃えて、ドレスも買って、晴れ着もっていったらそりゃもぅ」
「ああ……そういうこと」
確かに、ジェスの服は高価だ。それは、ターゲットがOL世代の女性だからなのだけれど。
女子高生にとっては、似合う以前にお金が続かないのも事実。
「そうネ。高校生には、ちょっとね」
「もちろん、それだけ素敵な服なんですから、文句を言うつもりじゃないんです。でも……
 バイトしてて、仕入れ処理とかも担当させてもらって、思ったんです。無駄が多いなあって」
「え?」
自らの店の経営状態に話が及ぶとは思わなかったので、花椿は思わず椅子から身を起こした。
少女は慌てて、手を振る。
「あ、違うんです!花椿せんせいのお店がどうってわけじゃなくて、その、商品の販売経路というか……
 商品自体のコストに比べても、流通コストの比率って大きいんだなって」

バイト中、少女は彼に聞いたことがある。
この商品は、純粋にはいくらの価値のものなのか、と。
もちろん、店の利益や彼のデザイン性への対価に疑問を抱いているわけではない。だが、それ以外の流通コストや販売コストは、本当であれば必要ないものだ。
そこを工夫することで、商品自体の販売価格を落とせないだろうか?
素人ながら、そんな考えが頭に浮かんだ。

「ジェスのようなお店は、私たち高校生にとって、憧れだったんです。
 花椿せんせいは、私たちのことを考えて毎年バーゲンをしてくれてましたけど」
「……あら」
お見通しだったか、と花椿は少し驚いた。
クリスマス商戦に乗せるためのバーゲン。そう繕ってはいても実際は、ジェスの服を買いたくても買えない、ちょっとだけ背伸びをしたい高校生のために、花椿が設定した企画だった。

正しくは高校生のため、ではなく。
あるひとりの少女のために、設定したものだったけれど。

「子供が高価な服なんてって、思われるかもしれないけど。子供でも、好きな人の為にキレイになりたいって思うのは、当たり前だと思うから。
 そんな女の子たちのために、好きな服を少しでも手に入りやすくできればなって……」
「それで、流通コーディネータ?ネットワークを使った新しい物流システムをマネジメントするのね」
花椿が言うと、少女は顔を赤くして俯いた。
「そ、そんな大それたものではないんですけど……」
「いぃえ、立派なものよ。驚いたわ」
もう一度椅子に背を預け、花椿は賞賛した。

それは、本心からの言葉だった。
流通コストを削減する。販売価格を安くする。そんな俗っぽいことは、ファッションリーダーたる自分が考えることではないと思う気持ちが、どこかにあったことに気づく。
少女たちの綺麗になりたいという気持ちに共感し、それを熟知していると思っていた自分だったのに。
上辺だけではない彼女の夢に、素直に感銘を受けた。

「なるほどね。それは、一鶴には言えないわねぇ。
 アナタのために無理して高い服を買ってたから、そんな苦労をする女の子を減らしたいんです、なんて」
「……………えぇ」
ますます顔を赤くして、少女は小さく縮こまる。
それを眺める彼の瞳が、ほほえましく細められた。

彼女の想いはいつも、彼女の愛する自分の親友に繋がっている。
それを少しでも苦痛に思う日々は、もう過去のものだ。
今の花椿の立場は、親友と彼女の倖せを見守り、その助けとなることを厭わない、彼らの生涯の友人であった。
そうは言っても。
アタシも……一鶴がもしこのコを不安にさせるようなことがあれば、いい人では居ないワよ。
ふふっと笑い、花椿は少女の頭をさらっとなでた。

「よし、決めたワ。アナタが立派なコーディネータになったら、アタシの店に来てもらうわ!」
「えぇっ!?」
突然の言葉に、少女は思わず立ち上がる。
「なんで驚くの?そんな改革をするとしたら、まず、ファッションリーダーたるアタシの所からでしょ」
「じ、じゃ、なくって。お役に立てるかもまだ分からないのに、世界の花椿ブランドなんてっ」
慌てふためく少女を無視して、彼は当然と言わんばかりにポーズをつけた。
「いいワ!そうなったら花椿ブランドは、真のカリスマとしてファッション界に君臨するのよ!
 アナタのことはアタシが予約したわ。いいわネッ!?」
迫力のある顔を、ずずいっと近づけられて。
「は、は、はい!」
少女は、思わず頷いた。
「よし!イイコね」

他人には見せない、ふわりとした表情で微笑んで。
ガラス越しに、親友が戻ってくるのを目の端に捕らえながら。
花椿は間近にある少女の頬に、軽く口付ける。

がらがらがっしゃん、という騒がしい物音が響くのを聞いて、花椿はいたずらっぽく口の端を上げた。

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