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  MN'sRM > GS別館 > GS1創作 > 天之橋・約束シリーズ1 >

 LOVE LIFE 2 

「この日曜は、どこかに出掛ける予定はあるのか?」
聞かれた少女は、困ったように口ごもった。
「えっと……はい。……あります」
少しだけしゅんとして、怒られているかのように頭を垂れる。
氷室はコホン、と咳をして、続けた。
「別に叱っているわけではない。あまり恐縮するな。
 だが、そうだな。もし断れるのなら体を休めた方が良いのではないか?」
「えっ……」
「遊びに出掛けるよりも、休息が大事だと思うが」
断定的な口調に、少女の頭がますます下がる。
「どうだ?」
「……でも」
うつむく少女が、ふと言葉をもらした。
「私……出掛けるのが休息にならないなんて思いません。それは、家でじっとしていれば体力は使いませんけど。
 ……好きな場所に出掛けてのんびりするのは、とってもいいことだと思います」
普段、優等生で従順な氷室学級のエースが、自分に意見するのは初めてで。
氷室はそれだけで、少し取り乱してしまう。
「そ…それは、間違っているとは言わないが……」
「せんせぇだって、前に課外授業の帰りに海に連れて行ってくれたでしょう?
 あれで私、すごく楽になったんですよ。キレイな景色って人を倖せにしますよね」
そんなことがあったのか?と驚く天之橋の視線を。
氷室は苦々しげな顔で無視する。
「そ、それは……そう、信頼がおける保護者とならそういったことも悪いことではない。しかし……」
「保護者?」
問い返した少女に、氷室はペースを取り戻そうと勢い込む。
「そうだ。我が校にはそのような校則はないが、普通、高校生なら保護者の同伴の上で出掛けるべきだ」
「保護者……例えば、」
少女は上目遣いで彼を見上げた。
「先生とか?」
「「!」」
二人の驚きが重なる。
氷室は思わず、満足げな顔でうなずいていた。
「そうだな。それであれば、よかろう」
「本当ですか?よかったぁ!」
安心したように微笑む少女に、日曜の予定が空いていることを伝えようとした氷室は。
彼女の次の台詞に、愕然とした。
「あー、よかったあ!予定がダメになっちゃうかと思った〜」
少女はそう言って。
ねっ、と天之橋を振り返ったのだ。

「……え?」
天之橋の発した台詞は、そのまま氷室の心情でもあった。
彼女は、氷室となら出掛けていいのかと聞いたのではなかったのか?
「よかった。先生方が大丈夫なら、もちろん、あま……理事長だって大丈夫ですよね。
 せんせぇ、私、日曜日は理事長とお出掛けなんです。だから保護者はちゃんといます」
天之橋の服の裾をきゅっと握りながら、もう一度担任教師を振り返る。
「校則じゃないけど、やっぱり、せんせぇがよくないっていう事はしない方がいいですもんね。
 もちろん、あんまり遅くならないようにします!」
「あ……あぁ」
まだショックから抜けきらない様子で彼女を見つめていた氷室は、一瞬唇を咬むと小さく息をついた。
「よろしい。……では、理事長。保護者として、きちんと彼女をエスコートなさってください」
一部に力をこめてそう言うと、氷室は少しおぼつかない足取りで離れていった。
「せんせぇ、さよーならぁ!」
それに気づかない少女は、いつものように挨拶をする。
天之橋は苦笑した。

きっと、今の一言は。
氷室には、かなりきつい言葉だったに違いない。
それでも比較的簡単に引き下がったのは、少女が天之橋のことを『保護者』と表現したからだろう。
その、言葉は。
天之橋にとっても、胸の痛みを伴わないわけではなかったが。


「……ふぁ〜。びっくりしましたね」
氷室の姿が見えなくなってから、少女は大きく息をしながら天之橋を振り向いた。
「そうだね。氷室先生は指導に熱心だから」
そんな言葉しか思いつかない。
「でもよかった。止められちゃうかと思っちゃった」
ふわりと、少女は嬉しそうに微笑う。
「本当だね。……でも、保護者としてならドライブはよした方がいいかな?
 遅くなってもいけないだろうし」
彼女が望むなら、保護者としてでも良いと。
そう思った彼の言葉は、不満そうな呟きにかき消された。
「えぇ?嫌ですよ〜。保護者になんてならないでください!」
「…………え?」
「だって。私、夜のドライブ大好きですし。スカイラウンジの夜景も大好き。
 保護者だったら、そういう所には連れて行ってもらえないんでしょう?」
「…………」

何もかも見透かしたような、
全然なにも知らないような。
天之橋には、彼女がどういうつもりなのか判断できない。
「わたし、そういう天之橋さんがいいんです。
 失礼かもしれないけど、茶目っ気があって、先生みたいに上からじゃなくて同じ目線で話してくれる。
 それがすごく心地良くて、一緒にいたいなあって……思うんです」
無邪気な口から出る、最強の殺し文句。
それに振り回されていることを自覚して、天之橋は十字を切りたい気分になった。

「……姫がそう言うのなら。喜んで」
照れたように寄り添う少女に。
決してまんざらではない気分で、天之橋は微笑んで見せた。
「でも、今回は行き先を変えた方がいいね。森林公園でのんびりしよう」
彼女を気遣うように言った、その台詞は。
もちろん、先の会話を聞かれている可能性を考えてのことだ。

私も。二人きりでいるところを、邪魔されたくはないからね。

少女はやっぱり何も気づかず、もちろん構いませんと言わんばかりに頷いた。

FIN.

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