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    これからのお話    

 

「……て、こんなとこかな。俺の主観じゃ他にも色々あるんだけど、客観的にはそれくらいしか説明できね」

かなりの時間をかけて、できる限りの説明をした咲弥は、そう結んで息をついた。
できる限りとは言っても、話せることはそう多くない。『物語の中に入り込んだ』というのは、まさにその物語では使い古されたフレーズだけれど、いざそこの住人に説明しようとしてうまくできるわけがなかった。

『あなた方はうちの世界じゃ物語の登場人物なんですよアハハ〜☆』とも言えないしなぁ……。

そもそも、まだ起きていない出来事や知るべくもない事をしゃべってしまったらまずい。具体的にどうなるかは分からないが、多分、歴史が変わったり人の運命が変わったりしてしまうのだろう。
それを避け、鮮明に覚えているとはいえない知識を総動員して言葉を選ぶのは、並大抵の苦労ではなかった。

そんな様子を最初は胡散臭そうに見ていたボロミアも、事がゴンドールの機密やモルドールとの応酬に及ぶにつれ、徐々に真剣に聞くようになっていた。
咲弥の話はほぼ全て自分の知る事実と合致していたし、それらが全て他国に洩れているとは思えなかったからだ。
何より、戦場に立つ将として、そして民を率いる統治者としての彼の眼が、咲弥が嘘をついていないと判断した。
だからといって、完全に信用したわけでは勿論ないけれども。

「……では、おまえは」
「あ、そういや自己紹介してなかったな。俺の名前は咲弥だ」
「サクヤか。……つまりサクヤは、この中つ国ではない別の世界から来た。なぜ、どうやって来たのかは分からない。
 そちらでは、我らの世界の現状や歴史の多くが、遍く知られている」
「まあ知らねえ奴もいるけど、知ろうと思ったら誰にでも調べられるってとこか」
「おまえはそこで知識を得た。けれども、それは歴史書のようなもので、細かい文化習慣や出来事などは記されていない」
「そーいうこと」
「武術はどうやって会得した?おまえの世界は平和なところだと言うが、それならば必要ないだろう」
「精神鍛錬だのなんだので手習いがあるんだよ。小さい頃から無理矢理習わされてた。剣道、柔道、合気道に居合…」
「それはどういったものなのだ?」
「どれも適当にやっただけだからなあ。総合すると、剣の振り方は分かる・体術もなんとか扱える、って感じ?」
「ふむ。他には何ができる?」
「読み書きは文字を見てみないと分かんね。言葉はどうも自動変換?されてるみたいだけど、あんま期待できないかも。
 あと役に立ちそうなのは、計算とか……うーん、応急処置なんかはどうだろうなー。器具も薬もないしなあ」
「馬には乗れるのか」
「あー、前に北海道で乗ったことある。普通に走らすくらいならすぐできたぜ。尻痛いからやりたくねえけど」
「おまえ、我が軍に入らないか」
「ああ……は?」

矢継ぎ早に繰り出される質問をめんどくさそうにこなしていた咲弥は、そこに紛れ込んだ問いに目を見張った。

「ゴンドールのため、ひいてはこの世界のために力を貸してくれ。待遇はできるだけ考えよう」
「ちょ、ちょちょちょっと待て!正気かよ!?」
「無論だ。それだけ教養があって、素手で刺客を倒すほどの腕を持ち、状況判断する頭も持っている。十分だ」
「いやおかしいだろそれ!普通、別世界から来ました☆とかいう頭のヤバそうな人間を軍に入れるか!?」
「別におかしいとは思わんが。おまえが別世界から来たというならば、何らかの使命があるのだろう。
 中つ国に対するヴァラールの干渉は絶えて久しいが、全く有り得ないことではないと聞くぞ」
「いや、ヴァラールって!神様出せばそれで納得しちゃうわけ!?あー、神話の世界の人間とは話が合わねぇ!」
「何をぶつぶつ言っている。どこから来たのかより何ができるか、だろう?おまえはなかなか役に立ちそうだ」
「めんどくせえええ!俺は家に帰りたいだけなんだよ!」
「それでは、こういうのはどうだ。我々は元の世界に帰る方法を探すことへの協力と、当座の生活を保障する。
 その代わり、おまえは自分の世界に帰るまで、我が軍に身を置くというのは」
「うっ……」
「悪い取引ではなかろう。ここには父デネソール、弟ファラミアを含めヌメノールの血の強い者が数多いる。
 父が言うには、おまえもその力を持っているそうだから、ゴンドールにいるのが一番いいのではないか」
「は?ヌメノールの力?……俺が?」
「ああ。ヌメノールの力は見通す力だ。過去と現在と未来を視る能力、確かにそれはおまえに備わっているようだな。
 ここにいれば、何か新たに見通すことが出来るかもしれんぞ」
「……………。」

その言葉にふと真顔になって、咲弥はじっと相手の瞳を見た。


自分は指輪物語の内容を熟知しているわけではないけれど、映画は好きだったし原作もがんばって読んだ。
覚えている限りでは、このゴンドールは地理的に敵のすぐそばに位置している。ために、他国に比べてより多くの危険に晒されてきた。今までずっと、彼らは他者の盾となり剣となって戦ってきたのだ。
そして目の前のこの人は、物語の中では一貫してゴンドールを守ろうとする人間。もちろんそれは、中つ国全体を守ろうとすることと同義だけれども、その想いが強すぎて過ちを犯さずにはいられなかった人。
そういう点では、彼は彼の父親にとてもよく似ていた。民を守ろうとして身を削り、消耗した精神を惑わされるところが。

物語とそっくり同じになるとは限らない。
けれど、少なくともその強い気持ちだけは同じ。


「……俺がここにいる、ってことの意味、分かってんの?」

しばらく考えて、咲弥は言葉に気をつけながら問い返した。
万が一にも失言をしてはならない、と思った。ヌメノールの民はもとより、マイアであるガンダルフやペレジルであるエルロンドでさえ見通せない多くのことを、自分は知っているのだろうから。

「俺は多分、それなりにあんたらの役に立つ情報を持ってる。それがヌメノールの力かどうかは別の話にしても、だ。
 けど、俺は干渉する気はないぜ?そもそもこの情報が全部正しいかってーと、自分自身でも怪しいしな」

す、とボロミアの瞳がわずかに細められた。
その力に負けないように、テーブルの下で手のひらを握る。

「避けられるかもしれない被害……免れるかもしれない犠牲。それでも俺は、敢えて語る気はない。
 あんたらにしてみたら、俺は敵と同じくらい憎い人間じゃねえか?そんなのがいて組織が保てるわけないだろ」
「……………」
「俺もできるなら協力したいし、元の世界にも戻りたいけど、それは無理な相談だろ。違うか?」
「………そうだな」

首肯しながら、ボロミアは床に視線を落とす。
そして再び顔を上げ、まっすぐに咲弥を見つめた。

「本音を言えば……おまえの力を期待していた部分は、確かにある。この時世、情報は金よりも貴重だからな。
 だが、おまえの言い分は正しい。私のやり口は卑怯だったかもしれん。……すまない」
「や、別にそれはいいんだよ。こういう状況で、あんたの立場なら当然だし」

それは気遣いや追従ではなかった。
正直、咲弥はボロミアに説明している間中、このまま拘束されて拷問を受けても不思議ではないと警戒していた。
異国の者が突然王宮に現れて、この王の都でも特別な者にしか顕れない『力』を持っているという。その力があれば、今後どれほど戦の犠牲を減らせるかわからない。
今はまだ、これから起きる出来事まで分かるとは思われていないけれども、もしそれに気づかれたらどうなるか。
指輪の登場を待つことなく、咲弥自身が『強力な武器』になると判断されるだろう。そして、咲弥の持っている知識を得るために、ありとあらゆる手段が用いられるだろう。
おそらく彼の父は、確信はなくとも利用価値があると踏んで、自分をここへ留め置いたのだ。話を聞かせたのがデネソールであれば、咲弥は直ちに拘束されていたかもしれない彼がこんな話を信じるなら、の話だが。

けれど。目の前の男はそんな手段を取ることなく、公正な判断に依って頭を下げている。
ゴンドールの大将の高潔な態度に少なからず感心してしまった咲弥は、次の言葉を断れなくなった。

「しかし、私はそれだけで助力を願ったわけではない。むしろ、その大局を理解する洞察力こそ稀少だと思う。
 一人の人間として、所属ではなく客員扱いで構わん。サクヤ、今一度考え直してはもらえないだろうか?」
「……………」

真剣な顔で請われて、今度は咲弥が眉を顰める。
相手は一国のトップに近い人間で、想像も出来ないくらい重い職責をこなしている人物。いくら公正だとは言っても、一市民の自分を懐柔するも利用するも思うがままだろう。
そうは思うけれど、身一つでここにいる自分にとって選択肢は他になかった。元の世界でならともかく、この勝手の違う異世界で、人に頼らずには生きていけそうにない。
咲弥は小さくため息をつき、観念したように肩をすくめた。

「言っとくけど、俺の世界はこことは全然違うんだからな。殺人やら化け物退治やら、そういうのは期待すんなよ」
感謝する!」
「それと、帰る方法はマジで協力してくれよ?あとファラミアにも会ってみたいなー」
「勿論だ。今は城内にいるから、すぐに呼び寄せよう。……ついでに着替えた方がいいな」
「なんで?見慣れない服でいるとまずい?」
「それもあるが。袖と肩口が切られているぞ」
「え?……うわ、下のシャツまで切れてら。ダッセー、あんな奴ら相手に」
「怪我がないなら良い。ゴンドールの服が気に入るか分からんが、用意させよう」

 

◇     ◇     ◇

 

しばらくすると、一揃いの着替えを持った小間使いと一緒に、革鎧をつけた男が部屋に入ってきた。
ボロミアより少しだけ背が低いが、それでも小さくはない。態度が堂々としていないわけでもない。
なのに物柔らかに見えるのは、ほんの少し伸ばされている髪と穏やかな表情のせいだろうか。
うわー、想像してたよりも美人だ〜。見目形だけじゃなくってこう、雰囲気美人だな、うん。
本人が聞いたら怒りそうなことを考えながら、咲弥は愛想良く挨拶した。

「初めまして。あんたがファラミア?」
「はい。初めまして、ファラミアです」
「俺は咲弥。しばらく世話になることになったんで、よろしく頼む。詳しい話はあとでボロミアから聞いてくれ」
「兄から…?はい、分かりました。よろしくサクヤ」

にこ、と微笑む顔は、輝くようなとびきりの笑顔で。
うっわ美人っ!器量好し!姫、姫だ姫姫決定ー!!
再び心中で連呼して、咲弥は差し出された手をきゅーっと握りしめた。

「あああ、俺あんた好きだなあー!」
「は…?」
「気に入った!すっげーイイ!サイコー!」
「え、あ??」
「おい。何だその態度の違いは?」
「うっさいなー。ボロミアは第一印象最悪、ファラミアは最高。そんだけっしょ」
「おま…!」
「第一印象ってほんと大切だネ!肝に銘じろ☆」
「あ、あの。……事情はよく分からないのですが」
「うん?」
「サクヤは父の命を救ってくださったと聞いています。本当に、有難うございました。お怪我はありませんでしたか?」
「いやいや!俺様けっこー場慣れてるから無問題だよ!でもファラミアに心配してもらえて嬉しいな!」
「い、いえ、そんなに喜ばれるようなことでは……」
「ボロミア、俺めっさやる気んなってきた!頑張るぞー!」
「いい加減にしろ!ごちゃごちゃ言っていないでさっさと着替えんか!」
「?なに拗ねてんの?」
「拗ねてなどおらん!!」
「へーへーそうッスか」

むすっとした顔のボロミアに促され、咲弥は名残惜しそうに手を離した。
忍び笑いをする小間使いから服を受けとり、切り裂かれたジャケットを脱ぎかけてふと、顔を上げる。
室内にはファラミアとボロミア、それに小間使いの少女。

「……ここで着替えんのか?」
「問題なかろう?下着まで替えろと言っているのではないし」
「けど、上は全部脱ぐぜ?こっちの世界ってそういうのはいいの?」
「ああ、構わんだろう」
「あっそ」

小間使いなのだから男の着替えくらいでは動じんさそう言いかけたまま、ボロミアは見事に固まった。
もちろんファラミアも。

「あー。このシャツ高かったのに……くっそ」

呟きつつ、堂々たる脱ぎっぷりで半裸になった咲弥の胸には、薄藍色の3/4カップブラ。そして、大きくはないがはっきりそれと分かる谷間。
ぱち、と瞬く間にフロントホックが外されて。
真昼の明るい室内に晒される、白い

うわあぁあああ!!??」

先に叫んだのがどちらだったか、その場にいた誰にも分からなかった。

 

つづく 

 

 

 

えー。その。別に彼女は特に男顔というわけではないと思いますが、ホラ、指輪世界でジーンズ穿いてて男をぶちのめして荒っぽい言葉でズバズバ物を言うってのは、必然的に男と見られるのではないかと。
逆にそう見られなければ軍になんか入らせてくれそうにないので、ここんとこはスルーってください。今まで一生懸命「彼女」という三人称を使わずにきたんだし(笑)
しかしようやくファラミア出せたー。本文で分かるかもしれませんが私はファラミアが大好きです☆
そのせいでちょっとアレ過ぎるかも……まあ初稿はもっとぶっとんでてさすがにヤバイと思って書き直したんですが。

あと今回、非常にめんどくさい説明多数ですみません。とりあえず最低限の地盤を固めないと、彼女がここにいるのが不自然になってしまうので。原作読んでなくて分からないとかの所は、とりあえず読み飛ばしてもらってOKです。ボロミアとファラミアと主人公のギャグ会話がメイン扱いですから!あくまでも!

やっと出会い編が終わり、ガンガン行けそうです。
ってももうネタがなくなりかけてるわけですがwこれからどうしようw