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    空の名は    

 

「……っつあーーーくそ!」

ガゴン、と景気のいい音がして、木製の華奢なテーブルの脚が潰れてへこんだ。
やば、と頭の隅で思ったけれど、湧き上がる怒りがそれを遮る。

よく分からない場所に連れてこられ、誰かに絡んでいた卑怯者をぶちのめして、そして何故かここに放り込まれて数刻。
部屋は牢屋などではなくきちんとした居室で、家具も高そうなものばかりだったが、ドアの外にはきっちりと見張りの気配がする。窓もどうやら開かないようだ。
テーブルの上に置かれたお茶はすでに冷め切っていて、口を付ける気にもならない。
咲弥の苛立ちは限界に近かった。

「なんだよあれ!俺は命の恩人だぜ!?危ねー橋渡って助けてやったっつーのに、捕まえるとかひどくね!?
 しかも人がご丁寧に自己紹介してんのに、自分は名乗りもしねーで!くそーあのオッサン!」
「……………」
「こちとら平和で怠惰な日本人なんだよ!犯罪はあれども普通は殺しとか刺客とか戦争とか関係ないわけ!
 街でアホなヤンキーぶちのめすくらいしかやんない平穏な人間に、いきなりこれってどうなんだ!?」
「……………」
「大体、格好がおかしいっつーの!おっさんがロングソバージュにズルズルて!あれはなにか、コスプレか?
 ここは古代ローマでトーガ着用なのか?それともチマチョゴリか?サリーかよおおお!!!」
「……………。」

自分でも訳の分からないことを散々怒鳴り倒してから、咲弥はバッタリとテーブルに伏せた。
わざと大きく息をつき目を閉じると、ひんやりとした木の感触で冷静さが戻ってくる。

分かっている。どんなに暴れても喚いても、自分は所詮捕らえられた『捕虜』でしかないこと。
ここへ連行されてくる間に見た大勢の兵士や軍備は、平和ボケした日本人にも否応なしに現状を理解させた。
ここは、『戦地』だ。
映画の撮影所でも米軍基地でもない、すぐそこに戦う相手がいる戦場。
しかも、見る限り後方基地などではなく……どちらかというと最前線、という感じで。
武器は歴史の教科書で見るような非近代的な物ばかりだったが、その分使い込まれた生々しさがあった。

そんな砦の一室に閉じこめられて、不安を感じないわけではない。
しかし、もともと妙な所で割り切りの早い咲弥は、この数時間で完全に腹を括っていた。どうしたって殺される時は殺される、それは日本でだって変わらないのだ。そんなことより自分が何に巻き込まれているのかを知りたい。
どのくらい日本から離れているのか知らないが、なんとかして家族に連絡を入れなくては。きっと心配しているだろう。おそらく……多分、している、と思う。

「あー。よく考えたら、用事がなけりゃ実家に連絡なんか入れないよなぁ……」

行方不明の届け出は当分されないかもしれない。されたところで、優秀な日本警察でもこんなところまで探しに来れるわけはないけれど。

「とりあえず自分でどうにかするっきゃないわけか……あーめんどくせえ。あのオッサン以外に話せる奴いねえのか?
 なんかこう、礼儀正しくて頭良くて親切で、発想が柔軟で、捕らえろ!とか侵入者!とか言わねえようなお偉いさんは」
「……まあ半分くらいはご期待に添えると思うがな」
「おわっ!?」

突然すぐそばで呟きが聞こえて、咲弥は慌てて跳び起きた。
いつの間に入ってきたのか、扉に凭れる格好で男が一人立っていた。背の高い、いかにも武人という感じのがっしりした体格に、荒く整えられた髪。グレーの瞳は物珍しそうに光っている。

「び、ビビった!気配もさせずに入ってくんなよ!ノックなしで部屋に入るのはここじゃ失礼にならんのか!?」
「いや……」

少し笑って首を振り、男は扉から体を起こした。

「すまん、これも職務なんでな。非礼は詫びよう」
「……ああ、そうか。あんた俺を尋問しに来たってわけ?」
「そんなところだが、別に物騒な話ではないぞ。おまえは我が父の命を救った恩人だからな」
「はぁ?」

父?てことはこいつ、あのオッサンの息子か?
そういえば、どことなく似てなくもない。顔の作りとか、体格とか、雰囲気とか……けれど何かが決定的に違うような気もする。
そんなことを考えている間に、その男は手にしていた長剣を床に置くと、そのままするりと膝をついた。

「ようこそゴンドールへ。我が名はボロミア。執政であり父であるデネソールに代わり、礼を言う。
 そなたはこの城の賓客となり、我らに出来うる限りの恩義を返されるだろう」
「……………」

まるで騎士のような仕草には心よりの感謝がこめられていて、それ以上毒づく気にはなれなかった。
咲弥はふう、と息を吐き、諦め顔で片肘をついた。

「……てか、俺って恩人なんだ?じゃあなんで連行されて閉じこめられてるんだよ」
「連行?いや、そうではない。おまえが倒したのは敵方の刺客でな、城内にまだ残党がいる可能性があった。
 だから、とりあえずおまえを保護して、残党狩りをしていたのだ」
「は?……ってことは、外の見張りとかって」
「無論、おまえの身を守るためだ。刺客ならば、襲撃を見届ける役目の者がいるはずだからな」
「……はあ……。なんだよ、じゃあ初めからそう言えよ……」

一気に力が抜けた咲弥をおかしそうに見ながら、ボロミアは剣を持って立ち上がった。

「すまん。とにかく説明している時間がなかった。それに父は、そういうことをあまり説明しないものだから」
「あーあー、確かに。あの人いかにも誤解されそうだよなー。愛想ないし、気難しそうだし」
「悪気はないのだが……どうも不愉快にさせてしまったようだな」
「え?……あ!てっめ、いつから聞いてたんだよ!?」
「そうだな。『くそーあのオッサン』…あたりからか」
「ほぼ全部じゃねえかよ!!!」

気色ばむ咲弥をよそに、ボロミアは入口から顔を出して、兵士にお茶を運ばせるよう命じた。

 

◇     ◇     ◇

 

「……それで。おまえは何者だ?どこから来たのだ」

新しいお茶が運ばれてきて、そうボロミアが尋ねても、咲弥の機嫌は直らなかった。
ぶーたれて机に伏せ、その状態のまま行儀悪くお茶をすすっている。

「父からは、自分がどうやって来たのか分からないらしいと聞いたが、何か事情があるのだろう?
 よければ、話してみないか。もし先ほどの賊と関係があるならば、手掛かりが掴めるかもしれん」

それを気にした様子もなく、ボロミアは話し続ける。
あまりに彼が飄々としているので、自分だけいつまでもむくれているのが大人気なく思えて、咲弥はしぶしぶ答えを返した。

「俺にもよく分かんね。いつも通り家を出て、気がついたらここの廊下に立ってた」
「気がついたら……?」
「服も荷物もそのままだし、長いこと眠らされてたみたいには思えねーし。なのにこんな外国にいるんだもんなぁ」

まったく訳分かんねえよ、と繰り返す。
ボロミアはカップを置いて、首を傾げた。

「外国?それではおまえは、異国の者なのか?」
「あー。少なくともこの国の人間じゃない。あんただって、この辺でこんな格好してる奴なんか見たことねえだろ」
「それは、確かにそうだが」
「俺んとこじゃ、服も風景も気候さえ違うんだよ。向こうはまだ真冬だったし、こんなだだっ広い平原なんてなかった。
 せせこましくビルが林立してるか、もしくは山や田んぼが広がってるかのどっちかだ」
「真冬……ビル……」
「あれ。そういえばあんた、なんで日本語しゃべれんの?確か親父さんもそうだったよなあ。
 この国のお偉いさんは、そんな流暢に話せるようになるまで外国語勉強するのか?」
「ニホンゴ?」
「……あれ?」

その時ふと、ここまでの記憶が疑問となって頭に浮かんだ。
そういえば。今まで深く考えもしなかったけれど、ボロミアの父が命じて自分をここへ連行した兵士も、日本語をしゃべっていたような気がする。
それどころか、自分が倒したあの賊も、垣間見た警備兵も小間使いも、誰一人として日本語以外の言葉を使ってはいなかった……?
え。それって、どういうこと?
ここが実は日本だってこと?それとも公用語=日本語の国があるとか?ああ、もしかしてあれか、ドッキリカメラ(古)?
一生懸命に現実逃避する咲弥の横で、ボロミアがさくりと言った。

「私がしゃべっているのは、ニホンゴではない。こちらでは西方語という。共通語ともいうが」
「共通語……?英語、でもなくて?」
「エイゴというのも知らんな。他に私が知っているのは、そうだな、ローハンの言葉とエルフ語、ドワーフ語くらいだ。
 他にも少数の言葉がいくつかあると聞くが」
「西方語……ローハン……エルフ……ドワーフ……」
「おまえの言うニホンゴやエイゴも、その中に入っているのかもしれんが……私はそういったことにあまり詳しくない」
「え……なんか……アレ?」

いつか、どこかで聞いたことのあるそれらの単語。どこでだったっけ?
確か、『おとぎ話』という言葉と同列に括れるものだったような気がする。えーと、不思議の国のアリスじゃなくて(時計ウサギいないし)ハウルと火の悪魔じゃなくて(カルシファーいないし)ハリポタじゃなくて(ハーマイオニーいないし)。
あ、果てしない物語?(ある意味ビンゴ?)

「…………えーと。あんた」
「ボロミアだ」

咲弥が恐る恐る話しかけると、いっそ憎らしいほどの爽やかさで男が答えた。

「……ボロミア。んで、親父さんはなんて名前だっけ?」
「デネソールだが」
「で、この国の名前は?」
「ゴンドール」
「……あ、はは。そしたら弟くんの名前はあれだ、ファラミアでケテーイだろ」
「弟を知っているのか?」
「……そんじゃ、あれか?あんたらはモルドール軍と戦ってる中つ国第三紀の王国ゴンドール、だってのか?
 はは、もしそうならあんたは主力軍を率いる総大将で、ファラミアはイシリアンのレンジャーを従えた指揮官ってことになるな。んでデネソールとファラミアはヌメノールの血を色濃く受け継いでて、二人とも特別な能力があって……でもだからこそあんまりうまくいってないとか。それをあんたが密かに心配しながら見守ってるとか。……ローハンとの同盟だって昔みたいに単純なものじゃなくなってて、そこをあんたとファラミア、セオドレドとエオメルが支えてて……闇が近づいてるのにエルフやドワーフは我関せずで、ゴンドールは自分たちが行動を起こさねばならないと思って」

咲弥にしたら、思いつくまま戯れに言っているつもりだった。というより、戯れだと思いたかった。
けれど予想通りというか予想以上というか。笑い飛ばしてほしいと思った相手は、話を続けるにつれ表情を極厳しいものに変えていって。
それに気づいた咲弥が言葉を止めた時には、腰の剣に手を掛けるまでになっていた。

「……おまえは、何者だ?」

さっきと同じ問いなのに、びりびりと張り詰めるような気魄を感じる。
平和な日本でとはいえ諍いに慣れた体が、とっさに臨戦態勢を取ろうとするのを意思の力で止めた。事を起こしたいわけではないから。

「かように我が国の内情を知っているにも関わらず、どうなっているのか分からぬとは……不自然ではないか」
「ごめん。調子に乗り過ぎた」

殺気すら漂わせるボロミアに、咲弥は素直に詫びた。

「事情はどうあれ、軽々しく口にしていいことじゃなかった。無遠慮だったのは謝る。でも、誓って嘘は言ってない」
「……………」
「俺自身、こんな話は信じたくなかったけど。でもあんたがそんな顔をするなら、俺の考えてることが正しいのかもしれない」
「……言ってみろ」
「あのな。どうも俺、こことは別の世界の人間?……らしいんだ」
「……何?」

ボロミアが盛大に眉を顰めるのを見て、咲弥は『そうだよなあ!ウン、気持ち分かるよ!』と場違いなことを考えていた。

 

つづく 

 

 

 

ネタばらし編というか現状察知編というか。お約束なかんじで!
しかしゴンドールに飛んだら大変でしょうなあ……ファラミアはともかく、ボロミアとデネパパがね!ローハンより数段めんどそうです。なんかこう、ゴンドールは洗練された(比較的)社会なので、貴族とか階層とかめんどくさいイメージ。デネパパはもう全然油断ならないしさ。
まあ、 この主人公ならあんま問題はないのでしょうけども。最初が最初だったから、もうボロミアとタメ口が標準装備。
ファーストインプレッションは大切です、ここまでやってて改めてボロミアを敬うとかってできない!いや心の中では敬ってると思うけどw

次回、ちょっとだけですがファラミア登場。そして主人公がどうするかいろいろ決定。
今後大変だー(主にボロミアが)。