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    星の姫君    

 

あの方に初めて出逢ったのは、春だった。

「こんにちは。あなたはロスロリアンに住まう方ですか?」

花の都が最も美しい季節。
金色の花葉が降る中、供も連れず突然現れた少女は、まるで自身が発光しているかのように輝いて見えた。

「わたしはエルリアン、エリと呼んでください。裂け谷より参りました」

矢を向けるのも忘れて問うた誰何の答えは、それだけで彼女の高貴なるを知らしめる。
穢されざるべき星の姫君。

 

◇     ◇     ◇

 

「ハルディア様、ハルディア様。あれはなんですか?」

彼女はいつも、楽しそうに名を呼んで彼を引き留める。
あまり付き合ってはならないと思いながらも、ハルディアにそれを無視することはできない。

「あれはエラノール。太陽の星という意味の小さな花です」
「花なんですか?ここから見ると、まるで本当の星みたいですね」
「ええ、花も星型をしています。このロリアンにしか咲かない花です」
「えっ、近くに行ってみてもいいですか?」

途端に目を輝かせて見上げてくる彼女に、小さく息をつく。

「どうぞ。私は交代の時間ですので失礼します」

そう告げると、エリは落胆した表情になって、瞳を伏せた。

「いえ……私も行きます」
「見張りの仕事ですので、珍しいものはないと思いますが。花を見る方が楽しめましょう」
「カラス・ガラゾンの境で見張られるのでしょう?私が行っても危なくありませんよね?」
「……それは、そうですが」

花に惜しげな視線を送りながら、その言葉に迷いはなかったので、ハルディアは仕方なく首肯して歩き出した。



彼女がこの地を訪れて、もう三月が経つ。
エルロンド卿よりの使者、という名目ではあったが、正式な使者は別にいたので、彼女はそれに付いてきただけという身だった。
訪なった理由は、美しい花の都を見てみたかったから。
そんな理由で、決して安全とは言えない裂け谷からの旅に随行してきたと聞いたとき、ハルディアは驚きを通り越して少し呆れてしまった。

「でも、私一人の旅ではありませんし」
「私がお会いしたときは、お一人でしたが」
「そ、それはロリアンに着いてからはぐれただけです!あんまり綺麗だったから……危険なことはなかったですよ」
「当たり前です。危険なことがあったりすれば、裂け谷の殿に申し訳が立ちません」
「エルロンド様だって、反対なさいませんでした!」
「喜んで送り出したわけでもないと伺いましたが……」
「誰がそんなことを!?」
「いえ、誰というわけでは」
「レゴラスね!レゴラスでしょう、そんなことを言うのは!」
「……………」
「ほら、やっぱり!」

顔を赤くして憤慨する彼女から目を逸らすと、エリは拳を握りしめて低く唸った。
こんな時、嘘がつけない自分を情けなく思う。さらりと上手くかわすことさえできれば、彼女の気を乱したりはしないのに。
ハルディアは意味もなく弓を持ち替えながら、心中でため息をついた。

「でも、ハルディア様、本当です!私はアルウェンからロリアンの話を聞いていて、ずっと行きたいと思っていたんです。
 それでエルロンド様にお願いしたら、おまえが望むのであれば構わないって」
「エルロンド卿が……」
「はい。エルロンド様は聡明なお方です。もし本当にいけないと思うなら、お止めになったでしょう」

空を見上げる彼女の表情には、彼の人への尊敬と思慕がはっきりと顕れていて、ハルディアは自己嫌悪を中断して微笑んだ。

「姫君は、本当にエルロンド卿を慕っていらっしゃるのですね」

その言葉に勿論です、と頷いてから、エリは視線を彼に移した。
漆黒の瞳が輝いて、ハルディアの心臓がどきりと弾む。

「ハルディア様」
「は、はい」
「何度も申し上げますが、私は姫などではありません。いずこの者とも知れぬ身を拾って頂いた、ただの子供です。
 そういった敬称や気遣いは無用です」

この三ヶ月、本当に何度も言われたことだったので、ハルディアも同じように返した。

「いえ。エルロンド卿は信書に、娘が行くと書いて遣わしました。裂け谷の殿のご息女であれば、当然の扱いです」
「エルフですらない私が、ロリアンの高位の方に敬称で呼ばれるのは変でしょう?」
「むしろ、あなたが人間であるということの方が不思議に思えますが……」

言いながら、エリの姿を改めて眺める。

彼女の言う通り、その外見にエルフの特徴はない。耳も尖ってはいないし、どちらかというと小柄で華奢だ。
黒い髪はエルロンドやアルウェンと同じだが、瞳も黒く、顔立ちは麗しいというイメージからは程遠い。
しかし、そんないかにも人間らしい彼女がエルフの中へ入ると、目立つどころかすんなりと馴染んでしまうのだ。
裂け谷でエルフと共に暮らしていたせいなのかもしれないが、それにしても、彼女の纏う雰囲気はただの人間のものではなかった。
だからこそ、彼もあのように執心するのかもしれないが。
考えてから、ハルディアは思い出したように眉を顰めた。

「そういえば、姫君」
「エリ」
「……緑葉の君はどちらに?」
「レゴラスですか?さあ、今日は会っていませんけれど」
「お探しした方が良いのでは……」
「え、別に用事はありませんよ?」

小首を傾げる彼女に、そうではなくて、と言いかけたとき。

ひどいな、それは」
「ひゃっっ!?」

背後からぬっと腕が現れて、彼女の首と腰に巻き付いた。

「レ、レゴラス!」
「私に用はないって、そんな言い方はひどいと思うよ」
「そういう意味じゃないもん。それよりいきなり抱きつかないで!」
「どうしてさ。何か不都合がある?」
「びっくりするでしょう」

「……………」

なおも軽快に言い争う二人を、ハルディアはじっと見た。
やはりというかなんというか、彼女ある所に彼あり。裂け谷から同行してきたレゴラスは、まるで一時も惜しいと言わんばかりにエリの傍にいる。
聞けば、裂け谷で彼女と出逢ってから、一度も森へは帰っていないらしい。故郷に拘るような彼ではないけれど、それにしても一人の人間のためだけにエルフの王子が心を尽くすというのは、ハルディアからすれば信じられないことだった。

「大体、エリはおかしくない?」
「?なにが?」
「どうして私のことは呼び捨てなのに、ハルディアは様付きなのさ。私は王子で、いずれは国を治める身なんだよ。
 私の国に来てくれれば、エリにだって私の偉さがわかるのに」
「王子様だから偉いってことはないと思うわ。王子として何が成せるかの問題でしょ」
「それはそうだけど、私は自分の国を治める以外に何も成そうとは思っていないし」
「だから、今のあなたはただの居候。私と同じ。ハルディア様はきちんと職務を勤めていらっしゃるでしょう。
 もう、子供みたいなことばかり言って、ハルディア様の邪魔をしないで」
「ハルディアハルディアって、どうしてエリはそんなにハルディアが好きなのさ」

げほ、と咳き込みそうになって、ハルディアは慌てて平静を保った。
くすくすと笑うレゴラスの言葉は、彼女よりも自分をからかうためのようで、ちらりと向けられた視線にも気づかないふりをしなくてはならなかった。
ただ、その言葉にこめられた苛立ちは本心なのだろう。この分では、従者の言う『裂け谷ではエルロンド様やグロールフィンデル様とも取り合いをされておりました』という言葉もあながち嘘ではなさそうだ。
私には関係のないことだ、と、いつになれば分かってくださるのか……。
極力そちらを気にしないようにして、ハルディアは離れた所に立っている別の歩哨の様子を確認した。
何も異常はなく、輝ける森は今日も平和だ。それに越したことはない。

「なんでって……ハルディア様は警備隊長をなさっているから、ロリアンのことならハルディア様に聞くべきかなって」
「それだけ?」
「共通語を話せる人って、ここにはあんまりいないし。私シンダール語ってさっぱりだから」
「それは知ってる。もう少し熱心にやれば、エリもエルフのように上手に話せるようになるけどね」
「だから、この美しいロリアンを楽しむには、ハルディア様にお話を聞かせてもらうのが一番だって思わない?」

にこにこと無邪気な笑みを向けられて、レゴラスはふーんと返事を返した。
不機嫌な空気が弛んで、ハルディアが内心ほっと胸をなで下ろした時。

「それに、ハルディア様はとても優しくて、誰よりも誠実で、お話ししてると楽しいの。だから大好き!」
「……!」

ロスロリアンは今日も平和だった戦がないという意味に於いては。

 

END.

 

 

 

 

最近なぜか指輪の創作夢を見るようになったので書いてみた。ベタなものを書いてしまった……。
なんつーか、二次!創作!!ってかんじですね。設定とかキャラに無理が。あああ。
とりあえず楽しけりゃいいんだという思いで書きました、後悔はしてない。楽しかった。

これが指輪戦争の前の話なのか後の話なのか決めてないし、それによって各々矛盾があったりしますが、その辺もスルーでお願いします。
主人公がだれとくっつくのかも決めてない。まあハルディアなのかな。でもエルロンドでもグロールフィンデルでもいけそうだw
レゴラスは多分……彼女にとって兄弟か幼なじみみたいなものぽい……(哀れ)

色々ネタあるんで、また書きたいです。ハルディアが動いてくれないのが一番問題w ちょっとこう朴念仁なりにアクションしていただきたい。
それ以前にハルディアのキャラが掴めてないっつーか映画ではほぼ喋らなかったからドリームです、うん。レゴラスもちょっと違うと言われたけどよくわからん、私にはこんなイメージだ。

主人公の素性とか名前とかも一応設定あるらしい(創作夢内にて)。ちなみに名前に通称「エリ」をつけたのは、みんな同じような名前でうっとおしかったからです……。だって意味からしたらこの名前なんだけど(「星の姫君」だから)、エルロンドやらロスロリアンやらエルリアンやら混ざって!ウゼエ!


■作中用語解説■

ロスロリアン:ロリアンとも言う。ロスは「花の」という意味。ガラドリエル様が持つ「水の指輪」の力で守られた美しい花の国。
カラス・ガラゾン:ロリアンの中にある都。指輪の仲間がガラドリエル様と謁見したところ。
シンダール語:エルフの口語。普段使われるエルフ語で、エルフ以外にはアラゴルンも使える。ビルボも使えたんだっけ?

たぶんこんなかんじ。間違えてたらこっそり教えてください。