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A long long time ago

昔々、闇の森のエルフの王子様は、1000歳の誕生日に古いしきたり通り、他の種族の王宮にしばらく滞在することになりました。
しかし、王宮に出入りするような貴族や王族の子供達はたいてい性格がよろしくないと相場が決まっているのです…。



「おまえ、エルフなんだってなー?耳みせろよ!」
「うわっ!ほんとにとんがってらぁー、へんなの!」
「いっ…!はなせ、無礼者!汚い手でわたしにさわるなっ!」
「お?なんだこいつ、逆らうのかぁ?おまえの国じゃないんだからよ、ここじゃ王子でもなんでもないんだよ、おまえは!」
「ぐ……っ…」
「こいつ1000歳なんだってよ、じーさんじゃん。やぁい、じーさんじーさん!」

囃し立てる子供達の輪の中、転ばされた王子は独り回りを睨みつけています。
そこへ植え込みの陰から一人の少年が顔を出しました。
漆黒の髪の、まだ見たことのない少年でした。

「なにやってんだ、お前ら。」
「あ、アル!このエルフ生意気だろ?見ろよ、この黄色いあたま!」
「へへへ、女みたいな髪の毛ちょんぎってやろうぜ!な、アル!」

アル、と呼ばれた少年は眉ひとつ動かさずに言いました。

「お前らは、バカか?これは黄色じゃなくて黄金色だ。わかっているだろうが、そのエルフは王の客人だ。そんな事をしているのが父上に知れてみろ、お前ら三日メシ抜きどころじゃすまないぞ。」
「な…なんだよ、アルおまえ告げ口する気かよ!?きたねーぞ!」
「三日も塔に閉じ込められてた、おまえなんかのゆうことをうちの父上が信用するもんか!いっつも言ってるぞ、あの王子はだめだってな!…行こうぜ、みんな!」

バタバタと走り去る子供達の悪態に目もくれず、黒髪の少年は王子の腕を持って立たせようとしました。
王子はその手を振り払います。

「…自分で立てる!」
「そうか。…けがはないか?」

声を掛けたアルを王子はキッ、と見返しました。

「助けなどいらない!わたしはエルフ族の王子だ!…人間という種族は、最低だ。あんな輩が国を治めるのか!」
「ハハハ、あいつらは近くの貴族の子だ。父親の爵位を継ぐのがせいぜいさ。…将来、国を治めるアル王子は目の前にいる。」
「…王子?おまえが?……園遊会では見なかった…」
「まぁ、ちょっとしくじって三日ばかり塔の上だったからな。…何をしたか教えてやろうか?」

声をひそめる少年につられて、王子が顔を近づけると。

ぱぁんっ!!

「なっっ!!!?」

耳元で破裂した紙風船に驚いて飛びのくと、少年がにっこり笑いました。

「……と、まぁこういうことをしたんだ。その他、父上のお気に入りの胴衣に王冠をかぶった馬の絵を描いたり、園遊会に使う皿を運んでいた召使いの脇をくすぐったり、剣の練習をしていた衛兵に葡萄をぶつけたり……」

指折り数える少年の話を聞くうち、いつしか王子も声を立てて笑っていました。

「アル、やめてくれ!おなか、おなかがいたい!!くっくっくっ…」
「それで、ちょうど衛兵が剣でなぎ払った相手の胸に葡萄があたったもんだから、そいつ腰抜かしちゃってさ。真剣だぁ!ひっ、ひっ、人を斬ってしまったぁ!なんて叫びながら這ってんの。斬る練習してたんじゃねえのかっつーの。」
「やめてったら!あは、あはっ…くくくっ……はぁ、はぁ、はぁー……」

こみあげてくる笑いが幾分収まった後、王子はやっと美しい微笑みを浮かべた。

「……礼を言う。わたしはエルフ族の王子、レゴラス。ここへ来てからとても憂鬱だった…でも、君のおかげで心が晴れたよ。」
「……それには及ばない。俺は徒党を組んで一人を囲む奴等が一番嫌いなだけだ。…余計なことをしたな、守ろうとしたわけじゃないんだ。」
「いや、助かった。わたしのわがままでいさかいを起こしたくなかったし……でも、君はいいのか?わたしの為にあんなことを言ってしまって…」
「気にするな、友達なわけじゃない。…友達になりたいなどと思った奴はいない。」
「……わたしでは駄目か?」

少し怪訝そうに首を傾げた王子に、少年は笑いました。

「今まで、の話だ。俺はアラゴルン、アルでいい。…お前は美しいな。」
「えっ……。」
「付いて来いレヴィ!馬に乗りに行こう!!」
「えっ、あっ……待って、アル!!」





「………………アル……」

その言葉に、アラゴルンは焚き火に薪をくべていた手を止めて振り返った。
レゴラスは呟いたきり、ピクリとも動かない。

そっと近づいて毛布を掛け直し、美しい髪をすいて焚き火の灯りにかざして見て。

「…俺は…今も、黄金色がこの世でいちばん好きだよ…レヴィ…」

アラゴルンは酒瓶を取って立ち上がり、ぶらぶらと歩き出した。



昔々、闇の森のエルフの王子様は、人間の王子様と出会って………それから

FIN.

あとがき