「……ついにこの日が来たであります。襲撃予定時間はヒトマルちょうど!総員戦闘準備は良いか!?」
「いつでもこいですぅ!!」
タママが可愛らしい気炎をあげた。
日向家の庭はこの日のために緋色の布が敷き詰められ、あたかも戦国時代の様相を呈している。
「クルル曹長!機影は捕捉したでありますか!?」
「クックック〜さっきからレーダーに大型輸送艇がバッチリだぜぇ。予定時間変更無しっと」
「ギロロ伍長!日向家の防護シールド展開は完了でありますか!?」
「ああ、完璧だ。…夏美や冬樹には迷惑はかけられんからな」
ギロロがシールド越しに不安そうに見守る姉弟をちらりと見遣った。
その視線を辿ったケロロも遠くを見るような瞳で、これまでを思い返す。
「………我が輩は幸福者であります。みんな…死ぬんじゃないでありますよ」
一同を見渡してふわりと微笑み、一瞬後には指揮官の顔に戻る。
「時間だぜぇ」
「総員、構え!!!」
・
…
……
………
「ちわ〜宇宙宅急便で〜す。ハンコお願いしまっす」
「ゲロッ!ごくろ〜さま〜♪」
いつもの配達員の間延びした声と共に伸びてきた書類に、隊長がいそいそと捺印する。
同時に弾かれたように四散する隊員達。
日向家の庭には轟音と共に凄まじい量の荷物の山が積みあがっていた。
「……タママタママタママギロロギロロタママ…なんだよタママばっかりジャン!!我が輩のは〜!?」
「ぐんそ〜さぁん!軍曹さん宛のありましたよ〜」
「ゲロッ!マジで!?見せて見せて〜!幼年学校の子供達からでありますか♪…キィヤァァー!ハートがまっぷたつであります!くそう宇宙宅急便会社に謝罪と賠償を要求であります!!」
「仕方ないでござるよ隊長、量がある故ひとつひとつは手渡せないでござる」
「あれ?ドロロいつ来たの?」
「………最初からいたよ…ヒドイよケロロくん…」
「まあまあ、おっ?これドロロ宛だよ、カードが付いてる…お元気ですか?」
「あっ、勝手に読まないでよぅ」
「イイジャン。…今月は昔の貴方を目標に暗殺百人斬り達成しました♪〜アサシン部隊後輩より〜……一日三人以上でありますか……オツトメゴクロウサマ…」
日向家の庭に積みあがったそれら達は片っ端から五つの陣地に割り振られていく。
今日は2月14日…St.バレンタイン ディ。
ケロンには無かった習慣だが、地球の「恋人達の祭り」と宇宙ニュースに取り上げられた数年前から、ケロンにも爆発的に広まり定着した。
そして日向家の人間は、去年のこの日までは全く想像できず信用もしていなかったが、彼らは祖国では一個小隊わずか五人で星を侵略しようとしている英雄なのだ。
ケロン全土から贈られたチョコレートは、もはや4トントラックなどというものさしでは測りきれない量であった。
「んだよ、センパイの男からばっかじゃん。……何々…陸軍第十八連隊内ギ66ファンクラブ一同?代表者の名前があったら即(公には言えない物を)三倍返ししてやったのに…去年で懲りたら匿名かよ。送ってくんなっつーの」
「む、これもクルルか……あいつ宛の物はどうしてこうおかしな物が多いんだ。これなんか包装紙にビッシリと小さい字が書き込んであるぞ?…クルル愛クルル死クルル愛クルル死……この世の物とは思えない禍々しさだなオイ」
両端では恋人に宛てられた物の中に不穏な物がないかチェックに余念がない二人。
厳重にスキャンと成分解析にかけられる為、爆発物や薬品、毒物が微量でも入っていれば普通便では送れない。
その点では大丈夫なのだが、やはり自分の恋人宛に愛の贈り物が届くのを気にするなというのが無理らしい。
そうこうしている間に時間は経ち、全部を宛名別に選別し数を数え終わった頃には陽はすでに落ちかけていた。
「みんな〜バレンタインウォーズ初日の作業はこれで終わりにするであります!お疲れ〜」
隊長の終了の声で、各々が同時にため息をついた。
シールドを解除すると、日向家の姉弟が積みあがった五つの山を見ようと庭に下りてくる。
「うわぁ〜すごいね軍曹!去年より多いんじゃない?」
「まぁね〜1.5倍はありますなぁ。我が輩人気者でありますから〜」
「全体ではそうですけど軍曹さんのは去年より少ないですぅ。僕のが二倍になってるだけですぅ」
「こんなたくさんのチョコレート、どうすんのよ!?各自が食べるの!?」
夏美の言葉に、クルルがイヤミに笑った。
「こんなもん食えるかよ…クックック…おかしなモン入りまくってんだぜェ?」
薬物でも毒物でも危険物でもなくスキャンされても分からない“おかしなモノ”はいろいろある。
特に愛などと銘打たれた日の贈り物なら当然だ。
主におかしなまじないによる自分の様々な部位を混入するなんて事はザラにあることだが、爪や指先、髪の毛など形のあるものが入っている場合はスキャンではじかれる。
しかし液体なら混ぜてしまえば分からない。
「うわ……じゃあこれ……どうすんの?」
「全部混ぜて味を均一にしてから、戦争終結したばかりの貧しい星や孤児院なんかに寄付すんだよ」
「それ……いいの?人道的に」
「食っても害がなけりゃいいんじゃね?知らぬが仏ってヤツ?…ク〜ックックック」
不気味に笑いながら去っていくクルルの後ろ姿に、ギロロだけが何故か薄ら寒いものを感じていた。
◇ ◇ ◇
「クルル、いるか?」
インターフォンも押さずに扉に手をかけると、ラボの入り口が静かに開いた。
すでに指紋、声紋、網膜など、あらゆるセキュリティはギロロを登録済みだ。
誰もいないこの部屋に入れるのは、このラボの主と彼だけである。
「いないのか?」
部屋は静まり返っており、いつも聞こえるコンピューターの稼動音もコンソールパネルを叩く独特のリズムもない。
ギロロは、いつも彼が座っているメインスクリーン前の席に持ってきた紙袋をそっと置いた。
買ってきたそのブランドのチョコレートは、彼の数少ない好物のひとつである。
紙袋にはそれと、店をいくつもまわって見つけたとても肌触りのいいブランケットが入っている。
よく眠れるようにと思って決めたが、考えてみると意味深な気がする。
直接手渡すと、使い心地を試してみようとか、積極的だとか、絶対その方向で話が進んでしまうから。
留守で良かった、とほっとして踵を返した瞬間。
目の前の景色がブレて、浮き上がるような感覚が身体を包む。
しまった!
そう思った途端ギロロは床に空いた次元転送落とし穴に落ちて姿を消した。
「………う、わっっっっ!!!」
どぽ。
生暖かい液体の中に落とされたギロロがふちを見つけて必死で這い上がる。
突然、聞き慣れた声が妙に反響して耳に届いた。
「セ・ン・パ・イいらっしゃーいv」
「う、げほっっ!!く、ルル!?何だコレは!!げほっ…甘い!見えん!!」
「ほら、タオルタオル。今年は趣向を凝らしてベルギー産最高級クーベルチュールチョコ100%風呂だぜェ」
渡された濡れタオルで顔を拭うと、目の前には茶色のドロドロした風呂に半身浸かって煙草をくゆらせるクルルの姿。
「おまえ……バカだとは思っていたが…何の為にこんなバカげたことをするんだ?」
「モチロン、センパイと甘い時を過ごしたい俺様の為」
「俺は甘いのは苦手だと知っているだろう!?…暑い、出る!」
「クックック、温度は低めの37度だぜェ?暑いのは他に理由があるんじゃね?」
「なに?………お前、まさか酒を…」
目の前のクルルがニヤニヤと笑いながら煙草を消してギロロに近づく。
上気した顔をゆがめたギロロは、力が抜けていくのを浴槽のふちに手をかけて何とか踏みとどまった。
「こんなデカい浴槽に5ccしか入れてないから意識は大丈夫だろ。ちょうどいいカンジ?」
「…いいものか!…早く……ここから出せ…!…」
「せっかく用意したんだから遊ぼうぜ〜?……ほら、舐めてみ?」
「やめっ……あまい、ものは…好きじゃないん、ぐ!」
両手でふちに掴まってイヤイヤしているギロロの口に指を滑り込ませてクルルが笑う。
「…美味い?……俺にも味見させて」
ギロロの唇に付いたチョコレートを舌先ですくい取ってそのまま深く口付ける。
アルコールで呼吸数のあがったギロロが苦しそうに身じろぎした。
「んん、はっっ!…馬鹿、者……こんな…うぅ!」
背中に廻ったクルルの指がついっと滑り下りると、ギロロの身体が僅かに仰け反る。
「ギロロセンパイ…すげえ可愛い」
「かわいく、などっ……ない!…はや、く……や、あぁ!」
「早く?クックック〜…早くして欲しい?」
背筋を下りきった指が深く体内に進入する。
一緒に入ったチョコレートの微量のアルコールが身体にじわりと広がった。
「う、く!……ちがっ…はやくだせって……」
「出せ?何を?……これかなあ?」
「っっっ!!んん…んくっ……く、るる…っっ…」
指をゆっくり出し入れされ微かに自己主張していたギロロのそれを、クルルが親指で押した。
短い呼吸に上下する胸に現れた突起も、すかさず口に含まれる。
「んんっ、うぁっ……!は、ぁっ……クルルぅ………」
「なぁにセンパイ?クックッ…ここすごいね、いつもより」
「うあぁっっ…!!」
クルルが再び胸の先端を吸い上げると、片手の中のそれは完全に体内から露出しビクリと跳ねた。
チョコレートと共にぬるりぬるりと上下に扱かれて、ついにギロロが白旗を揚げた。
「ク、るるっ……クルル、もうっっ……だめだっ…あぁっ!イ…れて…っっ…」
「へぇ、今日は素直でイイコだねェセンパイ…じゃあしっかり掴まってなよ?」
クルルは浴槽のふちにタオルを広げてギロロを掴まらせると、後ろからゆっくりとそこを貫いた。
「あ、あ…あぁっっ…!!…うっ……クル…ルぅ………」
「センパイ、すげぇ…っっ……なか、熱………動いて、イイ?」
「あぁっ…くっ……いまは…だめ、だっっ……ま、て………」
「…そんな締め付けたらっ…待てる、わけ、ないだろっっ…うぁっ…」
「あぁ!う、あぁ!!クル、だめっっ……イっっ……あぁぁ!!!」
ギロロがビクビクと背中を震わせるのと同時に、それがクルルの手の中で律動する。
果てた証をギロロの背中に塗りつけてから、まだ余韻に震える肩を掴んで更に奥へと腰を打ち込んだ。
収縮したそこに出し入れする度にチョコレートが卑猥な音を響かせる。
「〜っっっ!!…うぁっっ、あ、アぅっっ……くる、ルっっ…すき、だ…クル…ルっ!」
「…っ…俺も、アイしてるぜェ…ギロロ…センパ…うぁ……っっっ!!!」
愛の言葉を囁く恋人の欲情に濡れた涙目と、最奥の締め付けに為す術もなく、クルルも仰け反り証を解き放った。
イテェ…頭がイテェよ…寒いよ………
「……ル……クルル!しっかりしろクルル!!」
「……ほぇ?…いっっ…テェ!なんだコレ!?」
後頭部のビックリするような痛みにクルルが声を荒げる。
心配そうに見ていたギロロが盛大にため息を吐いた。
「おまえは頭脳は天才かもしれんが、ほんっっっ…とうにバカだな」
「なに?アレ?センパイ、ここどこ?頭イテェよ…」
「当然だ。近年稀に見る見事なたんこぶになってるからな」
「ええとー…センパイをクルル時空に引きずり込んでチョコ風呂でイチャイチャしてセックスしてー……」
「最後でお前が足を滑らせて浴槽に頭を打ち付けて気絶したんだ」
「………………」
「もう禁止だからな!」
「………ハイ。……センパイ、寒みィ……」
「当たり前だ!あれから二時間も経ってるんだ。さっさと帰らないと、お前熱が出てきてるぞ?」
それから三日間、クルルはギロロのくれたブランケットの感触を否応なく楽しまざるを得なかった。
END. |