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    accomplice.    

 

独特のメール着信音の後に、コンピューターが差出人の名を告げる。
いつもなら聞こえていないかの様にキレイに無視するのに、この日クルルは珍しくモニターの前に立っていった。

『こんな時間に、おやすみの所申し訳ありません』
「寝てたら出ねェ。どうした?不具合か?」
『はい、βブロックG-156番回路の事で………』
「156番…消耗してたから全取っ替えしたぞ?」
『そうなんですけど、一部起動してないので、前の回路のPからTを移植してみようかと思いまして』
「あ〜、分解しようと思って持って帰ってきちまってる……んだけど、今、転送装置が故障中だわ。急ぐか?」

ベッドのギロロには話の内容はさっぱり分からなかったが、転送装置という言葉に狼狽えて少し身を起こした。
つい二日前、クルルが任務から帰って来た日に、それを壊したのはギロロだったからだ。
遠く離れた恋人へ密かに宛てたメール。
世話女房の様な内容に女々しい追伸。
故意でないとはいえそれを他人に公開されたのを知った時、彼は暴れる事でしか身がよじれる様な恥ずかしさに立ち向かう術が無かった。
湯気を立てながらマシンガンと手榴弾を持ってクルルを追い回し、いくつかの機械も巻き添えにしてしまったのだ。

『いえ、特別急ぐ訳ではないのですが……その……もしお邪魔でなければ、取りにお伺いしては…?』
「ハ、ん?」
『あぁっ!スイマセン、ダメですよね!?侵略部隊の最前線基地にノコノコと貴方のラボが見たいなどという理由で僕なんかが……』
「そりゃ土産次第だな。けど、ベイベのメンテ急ぎじゃねぇのか?」
『あ、いえ。クルル曹長が正式に俺に任すって上層部に報告してくれた日から一度も急かされません…やっぱり僕じゃダメなんでしょうか…』
「チッ…やっぱり嘘か……俺に急ぎだ急ぎだ騒いでやがったのは、次の開発に取りかからせたかっただけだな。オマエが使えねえ訳じゃねぇよ。俺様が天才なだけで」

誉めた。……あのクルルが……同種の人間を。
ギロロは唖然としてモニターの中の人物を見つめた。

若いのにハキハキと自分の意見を言う、頭の回転の早そうな女性。
軍属だからか甘えた様子は少しも見せず、唯一女性らしい色素の薄いクリーム色の体色もツナギにすっぽり隠してしまって。
女性が扱うには少し重そうなスパナやジャッキが転がるガレージルームで、こんな時間まで一生懸命仕事している。
それを苦にせずむしろ楽しそうな様子は、ギロロも好感が持てた。
クルルもそうなのだろう……いや、彼と普通に会話している時点で、クルルが彼女を気に入っている事が分かる。

「別に来ても構わねぇよ、タママの後輩だっつーオタマのガキも来たしな……なぁ、いいよなセンパイ?」
「な、なんだ?何故俺に聞くんだ?……まあ、戦闘状態にあるわけじゃないし、軍属の人間ならばいいのではないか?」

急に振り返られて聞かれ、焦ってギロロの声が上擦る。
動揺を隠すようにそう答えると、クルルは嬉しそうにモニターに向き直った。

「……おk、じゃ来たら連絡入れろ。いいモン持って来いよ?」
『ハイ!じゃあ僕用意がありますのでこれで!遅くまでありがとうございました!!』

クルルの肩越しに彼女を見るのが、何故か息苦しかった。

 

◇     ◇     ◇

 

「あ、センパイ今日暇?」
「特に予定はないが……何だ?」
「今日さ、この前話してたアイツ来んだけど、俺ちょっと用があんのよ。午後には帰るから相手ヨロシク♪」
「…な!?俺は一面識も無いんだぞ!」
「適当に基地内を連れ回しててよ。多分何見ても感激すっから無問題」
「し、しかし…」
「……あれ?なんか予定あんの?…隊長は家事だしガキは来ねえし、他にいねぇんだけど…」
「う……いや…」


俺には…無理だ。
それがギロロの正直な所だった。
軍属とはいえ向こうは技術職で、しかも女性で……クルルのお気に入り。
いや、正確には最後の一つだけが引っかかっていた。
技術者でも、女性でも、きっとこんなに複雑に考え込んだりしない。
それが、滅多に人を寄せ付けない彼の気に入りだからだ。

自分だけに与えられていると思っていた場所。
自分だけが許されているのだと思い上がっていた事を突きつけられるから。
だから会うのが嫌だなんて、彼女には何の関係も責任も無くて、自分勝手も甚だしい。
そんな気持ちでいるのに、いけしゃあしゃあと案内役など

どう言えばいいのか分からないまま拳を固めていると、クルルのヘッドフォンがピピ、と微かな音を立てた。

「あ、ヤベ。マジで遅れるわ。…んじゃセンパイ、頼むぜー?」
「待っ……オイ!!」

来た時同様、突然壁に出来た空間に潜り込んでいく彼に手を伸ばすも、それは一瞬でかき消えてしまった。
握り込んでいた手のひらはじっとりと嫌な汗をかいて気持ちが悪く、ぐっぱーしながら大いに落胆する。
いっそケロロに替わってもらおうか、と思い、けれども頼まれたのは自分なのだから、と思い返したり。
いやしかしこればっかりは…了解した訳でもないし…などと悶々と考え込むうち、他に適任が誰かいたような錯覚さえ起こってくる始末に頭を抱えていた時。

どごおおぉぉんん!!!

派手な落下音と地震が庭の方から響いてきた。



一応、愛用銃を構えて白煙に包まれた謎の飛行物落下地点に照準を合わせる。
げほげほ、と咳き込む声と共に白煙から姿を現したのはやはり、初対面だが見知った同胞だった。

「…うわぁぁ!コレってギロロさんのテントじゃ!??イヤァァどうしよう直るかな?」

銃口を向けられているというのに気づきもせず、大騒ぎしながら宇宙艇につぶされたテントの残骸を拾い集め、次元転送した工具箱とクルルが持っているようなモバイルを開いて五分。
折れ曲がった支柱も溶けたザイルも焦げて大穴が空いた帆布もついでに吹っ飛んだ庭の草花も、全てが元通りになっていた。

「………これは、すごいな…」
「ミョッ!!!?」

魔法のような一部始終に思わず呟くと、背中を向けて座っていた彼女がビックン!と飛び上がった。

「しし失礼しましたッ!!自分はケロン軍本部特殊研究部所属コードナンバー0078466シムム上等兵であります!!自分の操舵技術不足の為第一線である第一地球侵略基地をお騒がせし真に申し訳ございませんっっ!!」

膝に額がつくかと思うほど頭を下げた姿に不覚にも吹き出してしまい、慌てて取り繕い名乗り返す。

「……失礼、した。宇宙侵攻先行軍特殊工作部隊所属ギロロ伍長だ」
「ギロロ伍長殿!?申し訳ありませんテントの上に宇宙艇を不時着させてしまい…」
「いや、シールドを張ってなかった俺も悪い。…それにこれは」

しげしげとテントを見ると、厳寒や灼熱の天候下でも内部温度を調節する防弾機密性の高い帆布や、宇宙艇の操縦席に安全装置として使われている最強最軽量の素材が支柱になっていたりと、以前の軍支給の物とは比べ物にならない。

「色々グレードアップしてるな。いいのか?これは高くつくだろう?」
「あ、あのっ、研究部の廃棄物置き場にたくさんあって…だからタダというか、あゴミとかではないんです!ゴミになる前に持ってきて…せっかくいい素材なのに勿体なくて」
「そうか、では有り難く貰っておこう。…しかし、本当にすごいな…庭が元通りだ。物干しの位置も、俺の焚き火の跡も…」
「あ…えと、落ちるときに見たので出来るだけ再現したんです…本当にすみません…」

しゅんと俯くシムムの肩にぽんと赤い手が乗る。

「誉めているんだ、もう謝るな。一瞬見ただけの庭を数分でここまで…優秀だな」

ぼわっと耳まで赤くなるシムム。
自分の赤面症をからかわれるのをいつも忌々しく思っていたが、こうして見ると…成る程楽しいかもしれない。

「さすがクルルの気に入りだ」
「…いぃえ!そんな、僕なんかっ全然っっ…!!」

楽しい。
しかしされる側の気持ちも痛いほど分かるので止めにして、後に付いてくるように促した。



基地の中を一つずつ案内しながら歩く。
会う前までの憂鬱が嘘のように、至って普通に基地の説明したり他愛のない話をする中、ふと湧いた疑問を口にする。

「…そういえばシムム上等兵の話し方は男の様だが、何か理由でもあるのか?」
「いいえギロロ伍長殿。研究職には女性は少なくて、周りから特別扱いされるのが嫌だったというだけです。…でも話し方を変えたって同等に見てくれる人は少なかったし、仕事で成果を出しても昇進も遅れていました。……だからクルル曹長が仕事を任せてくれた時は本当に嬉しかったんです!」
「………………」

休憩室でコーヒーカップの取っ手をいじりながら、そう言ったシムムの表情は無邪気で本当に嬉しそうだった。
それなのに自分は何故目を細めて『良かったな』と言ってやれないのだろう。
仕事に潔癖なクルルがそれを他人に任せるなど稀だ。
それだけの能力があるのは先ほど庭で垣間見たし、人当たりも良くとても好感が持てる人物だ。
自分は彼女より階級は上だけれど、彼女よりクルルにふさわしい所がどこにあるのか。

「………ギロロ伍長殿?」

小首を傾げて真っ黒いつぶらな瞳でまっすぐに見つめてくる、その容姿は異性として見ても魅力的だ。
クルルが帰ってきて、自分と彼女を並べて見たら、どう思うんだろうか?

「ギロロ伍長殿!?コーヒーこぼれてます!ギロロさんっっ!!」
「……うぉっと!!?す、すまない少し考え事をしていて……何をしているんだ?」
「……あ…すいませんつい、ムービーを……」
「クルルといいお前といい、一体何が楽しくてこんなオッサンを撮るんだ…理解に苦しむ…」
「えぇ!かっっ……格好良いギロロさんの意外な一面って感じで、つい…」

軽く頭を振って不毛な考えを追い出しつつ、ふきんでテーブルを拭いて席を立つ。

「まあいいが、あまりおおっぴらに公開してくれるな……さて基地は一周したしそろそろクルルも帰ってくる頃だから、ここで待ってればいい。すまんが俺はパトロールがあるのでな」
「あ、ハイ。ありがとうございまし」

頭を下げる彼女の横をすり抜け、なるべく早くそこを離れたかった。
クルルが帰ってこないうちに。
自分と彼女を見比べてしまわないうちに。

「た」
「う、わっっ!??」

焦っていたのだろうか?
何故か足元にあったコードに足を取られて、正面に居た彼女もろとも床に倒れこんでしまった。

「!!す、すまん、大丈夫か!?」
「……あ、はい大丈夫、です…ごめんなさい、ボーっとしてて」
「いや、俺が悪い。…ここは時々隊長が趣味のプラモデルを作るのに使うんだ。こんな物に躓くとは…」

足に絡まったドライヤーのコードを忌々しそうに引きちぎり、彼女を起こそうと手を差し出した瞬間。

「何やってんだよ」

目の前の空間が突然開き、鼻先五センチの距離にクルルが顔を出した。

「う、わっっ!!?」
「何やってんだよ、って聞いてんの」

ずるり、と空間から出てくるクルルから黒いオーラが吹き出したような気がした。

「何って、何がだ!?躓いて、不覚にも彼女の上に倒れ込んでしまっただけだ!!」
「何そのドラマ設定。ありえねーだろ?やっぱ、あれか?生身の女がいりゃそっちの方がいいってか?」
「何の話をしてるんだ!?本当にこれが絡まって…」
「あーあーハイハイどうせ俺なんて間に合わせにもなりゃしねえ」
「クルル!!」
「アンタが欲しがってた限定品のレーザースコープ買ってる間に、赤い悪魔さんは手がお早いこって」
「……!!お前はどうなんだ…!?俺が居ないところでずっと彼女と一緒だったんだろう?」
「は?仕事場じゃねえか。他に何人も居たよ、使えねえのが」
「彼女は特別なんだろう?お前が仕事を任せるほど優秀で、いつもは出ない夜間の通信に出るほど魅力的なんだろう?間に合わせにもならないのはこっちの方だっ!」
「何言ってんだよ、あれはアンタが早く帰ってこいっていうから…」
「そんな事言ってない!!」
「あのう〜〜痴話喧嘩中すみません」

殺気立つ二人の間にシムムがのんびり割って入った。

「僕、結婚してるんですけど」
「「………は!!!?」」

殺気もそのままの二人がすごい勢いでこちらに向いたのにたじろぐ様子もなく、ニコリと笑う。

「ですから、僕結婚してるんです。あ、子供も居ます♪」
「な、なっっっ!???」
「お前…母親のくせに徹夜で仕事とかしてんじゃねぇえー!!」
「旦那が育児休暇取ってるんで家のことは任せてるんです。クルル曹長にA63─817─9000SPの精密メンテナンス任されたって言ったら頑張れ、家のことは心配するなって」
「…………」
「…………」
「ですから喧嘩しないでください。どちらにせよ、万が一にも有り得ませんからwあ、子供のムービー見ます?可愛いんですよ。テヘ」
「……………………」
「……………………」

すっかり疲れ果てた二人は、戦略会議用パノラマスクリーンに映し出されるシムムの子供スライドショーを断る気力も無く、何故か強い敗北感に包まれながら延々二時間の時を過ごすことになったのであった。

〜終わり〜



「じゃあコレ貰っていきますね。移植の不具合等ありましたらまた連絡します」
「あ〜ハイハイ…ってそういえばお前土産は?いいもん持ってきたんだろうなァ?」
「あ〜それならもうすぐ出来ると思いますが…ちょっと待っててくださいね」

シムムを迎えに来た宇宙艇から降りた、赤子をバッテンおんぶした男が、ギロロに握手してもらって感涙している。
その横を通り過ぎ、動かない墜落機のコクピットに入るシムム。
やがてピンクの包装が施された箱を持ってクルルの元に戻った。

「はい、どうぞ♪」
「何だこりゃ……ってそれより先に旦那何とかしろよ!!」

赤子を抱かされてバシャバシャ激写されているギロロを指さしてクルルが怒鳴った。

「すいません、うちのギロロさんの大ファンなんですよ。」
「……ちっ…んで!?これは何だ!??」
「チョコレートです。バレンタインも近いですし」
「ぁあ!?んなもん要らねー…」
「ギロロさんの原寸大顔型、口唇紋もバッチリですが?」
「……んなもんどうやって…!!?コード引っかけたってテメエの仕業か!」
「…しかも、考え事をしてコーヒーをこぼす『萌え萌え映像特典』付きですが?」
「……………」
「喜んで頂けて良かった♪それでは僕はこれで…」

にこやかに去っていく後ろ姿を脱力しながら見送る。
あの、何故だか抗えない迫力はやはり母は強し、なのだろうか?

 

 

 

 

 

ええと、長らくお待たせしましてスミマセンm(_ _;)mヘコー
待ってくれている人がいるのかどうか謎ですが。
もう既に愛想をつかされているのかも?
まあMANA姉は待っていてくれたのでいいか。

いやぁシムムが女で既婚、子持ちとは…書いててもビックリです。
そしてやはり黒かった(笑
いや黒というか、したたか?
ギロロにはドジッ子強調、クルルには通用しない事が分かっているので無駄な事はしない、みたいな所が。
最初は天然ドジッ子モアちゃん系で行くつもりだったのですがそれでクルルと渡り合うのは至難の業ですので…モアちゃんがもうやってるしさ…

まだ続けそうな感じですね、このキャラw