「俺の部屋でマターリ過ごすハズだったのによ〜ベッドとかベッドとかベッドでよォ」
「休暇はちゃんと取ったから、交渉は成立しているだろう」
「そんな〜〜…先輩、見てたろ?俺頑張ったんだぜェ?」
「当たり前だ、任務には持てる力を全て注ぐのが当然だ」
まだ戦闘の跡が残る町並みを不満たらたらのクルルと歩く。
戦争が終結した後は平和そのもので、功労者として勲章受賞だの凱旋帰還パーティだのという肌に合わないものが開かれる事もなく、休暇もすぐ取れたので、俺の強い希望でここに舞い戻ってきた。
地図を見て、もうすぐ目的の家があるはず、と辺りをきょろきょろ見回していると、覚えのある高い声が聞こえてきた。
「うそじゃないもん!ほんとうだもん!だっこしてくれて、うさぎのお人形プレゼントしてくれるって言った!」
「アカツキの英雄がァ?そんなわけないじゃん!」
「やぁい、うそつき!うそつきミルリ!」
「ほんと…だもん……ほんとうにっっ…………あーーっっ!!」
囃し立てる男の子達に、必死に涙をこらえていた少女が、ふとこちらを見て。
手を挙げて合図すると、歓声をあげゴム鞠のように抱きついて来た。
「ミルリ、元気にしていたか?」
抱き留めて頭を撫でると、くすぐったそうに首をすくめた。
隣のクルルはさも面倒くさそうにぬいぐるみをひとつ差し出す。
「……ほら、コイツでいいんだろォ?」
「うわぁ、うさぎ!!………これ、しゃべるよ!?ミルリ、ミルリって言ってるよ!?」
「あァ、俺様は天才だからな」
「ありがとう、おじちゃん!」
「……………………モノ貰った時くらい気ィ遣えよ、これだからガキは…」
「ほう、お前が俺を初対面からオッサン呼ばわりなのはガキだからなんだな」
「……オッサンをオッサンて呼んで……あん?何見てんだガキ共」
いつの間にか、少女を囃し立てていた男の子が自分たちをぐるりと取り囲んでいる。
「スゲー…スゲーよ!本物のアカツキの英雄だ!!オレ、ブロマイド持ってるもん!」
「オレも!」
「オレも持ってる!ねぇサインして!!」
「……暁の英雄だってさ、先輩にピッタリじゃん?どら見せてみな〜」
我先に差し出される写真カードに、クルルが手を伸ばす。
「……って俺じゃねーか!何でだよ!?暁のイメージって赤だろ!」
「アカの英雄とツキの英雄でアカツキだよ?自分の事なのに知らねーの?ダセー」
「うるせークソガキ!」
「大人気ないぞ、ツキの英雄。サインくらいしてやってもいいじゃないか……名前書けばいいんだろう?」
「それで呼ぶな!……チッ…メンドクセー何で俺がこんな一文にもなりゃしねェ事を……」
差し出されたカードにコードネーム”G66”と書き込み、目を輝かせた子供達に渡す。
クルルが渋々子供達からカードとペンを受け取りながら、ふと思いついたように聞いた。
「………おいガキ、これどこで買った?人の写真で誰が儲けてやがんだ………ク、ククク……こりゃ、た〜っぷり頂かねーとなァ…」
END.
P.S 壱
戦争は終結し、諸悪の根元は連邦裁判所で即時処刑と宣告された。
功労者であるクルルは、名誉の勲章恩賞を全て断り望むものを手に入れた。
その処刑を彼に一任するというお墨付きを。
自らが設計し搭載された循環システムにより、水も空気も百年は保つシャトルの小部屋。
内部はどんなに身体をぶつけても痛みさえない特殊樹脂にコーティングされ、必要な栄養素が全て溶かされた水が一日一回噴霧され皮膚から吸収される。
あらゆる事態に対処できるように作った医療マシン完備で、もし何かあれば手術もされ、精神的に不安定になれば薬も水の中に処方される。
つまり、死ねない。
水もエサも拒否出来ず、舌を噛んでも治される。
それらを懇切丁寧に説明し尽くした後、裸で壁を力一杯叩いて吠える男に、クルルが最後の一言を投げた。
『………俺の先輩を泣かせた事を、その狭いカプセルの中で寿命が来るまで後悔しなァ?……ク〜ックックック…』
っと、まァこれくらい、俺はアンタを愛しているんだぜェ?
P.S 弐
五年後
「先輩遅ェな〜……しかしイマドキ公園で待ち合わせなんてガクチューかっての」
「……………………」(じぃぃぃ)
「……………………」(じぃぃぃ)
「……………………」(じぃぃぃ)
「……ってか、さっきからナンだよコイツら同じ顔して……まあ一卵性なら遺伝学的にもDNA配列は殆ど同じだから同じ顔してんだけど……」
手をつないでしゃがみ自分を見上げているのは、お揃いの服の三人の女の子。
しっしっ、と犬を追い払う様に手を振ると、顔を見合わせて内緒話を始めた。
「………あかいおじちゃんこないねー」
「せっかく、さんにんいっしょにうまれたのにね」
「きいろいおじちゃんにいっとけばいいんじゃない?」
「……………は?……お前ら、一体……」
その会話の内容に呆気に取られていると、遠くで母親が呼んだらしく、同時にスックリ立ち上がった。
「おはな、ありがとー」
「うさぎも、ありがとー」
「あかいおじちゃんにもいってね?」
「……………クックック…………マジかよ?」
三人はにっこり笑ってそう言うとぱたぱたと母親の元に走っていく。
くつくつ笑いながら後ろ姿を見送っていると、その方向から入れ違いでギロロが走って向かってきた。
「遅れた、スマン!」
「……イヤ、お陰で面白いモン見れたぜェ?」
「面白い物?……そういえば珍しく子供と話していた様だったが、知り合いか?」
「あぁ、ちょっと昔な」
「おかしなヤツだ。あのような年端のいかぬ子に昔はないだろう?」
「いんや〜そうでもナイみたいだぜェ?クックック……」
いつかの戦場。
悲惨な事件で少女達が散った、三つの基地跡に、今でも。
ギロロの蒔いた四季咲きの花と、それに埋もれているぬいぐるみが在るらしい。
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