画面の中の巨大な土偶型侵略兵器の内部で、莫大なエネルギー反応が一点に集中していく。
ロックオンされている標的には、自分を除く小隊員全員が搭乗しているのに。
そう思いながら一人、安全な所でスクリーンを見ている自分の後ろ姿。
攻撃開始予測時間のメーターはみるみる内に減っていき、人工音声が被害予想を繰り返すのを為す術なく聞いている。
『命中確率95%、予想被害ハ機体消滅オヨビ乗組員全滅』
皆が乗っているのに。
あのひとが……乗っているのに。
………ウォ…ン…ウォォ…ン
土偶の目が紅く光り、非常事態を知らせるアラームをかき消すように
不気味な音が辺りに響いた。
『ケ、ケロロ!バリアを!!』
ヘッドフォンを通して耳に届くあのひとの悲痛な声。
地下の温泉を掘り当てる目的で作った機体は地熱を考慮して熱には強い。
しかし推進力と岩盤の破壊力重視で作ったから、バリアはおろかちゃんとした攻撃装置さえ付いてない。
天才が聞いて呆れる何故この位の事を予測出来なかった?
俺の作った物に何の疑いもなく乗り込んでいったあいつらが死んで、どうして俺だけ生き残るんだ?
また失くすのか。
俺の居場所、俺だけのポジション。
やっと見つけたあの手を。
「オイ!起きろクルル!」
揺さぶられ、覚醒した自分に降ってくる大きな声。
思わず肩に置かれた手を必死で掴んだ。
「…大丈夫か?うなされていたぞ。」
「……んだ、夢かよ…」
寝室に一つだけあるモニターの微かな灯りを透かすようにこちらを見ているギロロ。
彼の手を掴んでいる自分の手が震えているのに気付き、慌てて離した。
「夢?…何だ、怖い夢でも見たのか?」
「……………。」
笑いを含んだ言葉に無言で、未だ肩に乗っている手に口づける。
「な、何をっ…!貴様、まだ……っ!」
「………まだ?……ククッ…何が?」
「な、ななな何でもない!離せ!」
「こんな夜中に起こすなんて、先輩も大胆だねェ…ク〜クックッ……」
振り払おうとする手首に吸い付きながら片手で背中をなぞる。
数時間前までさんざんいたぶられていた身体はすぐ反応して、抗う力が弱まった。
「ち、違うっっ!お前がうなされていたから俺は……っ…ん、ぅ…」
うるさい口を塞ぎ、そのままベッドに押し倒す。
クルルは口腔内を味わいながら、苦しげに顔を逸らそうとする彼の膝裏から内股をゆっくり撫で上げた。
「…ぅ…嫌、だっ……」
身をよじってキスから逃れたギロロが荒い息で思わずそう言うと、クルルの口端がすっと上がった。
背けた顔の視界の隅で捕らえたその顔に、全身の血の気が引く。
しまった!
逃げようと身を翻したが、その前にベッドの下から音もなく這い出た金属の手に上半身をガッチリ押さえ込まれてしまい動けない。
不覚にも、唇がガタガタと震えた。
「学習しろよなァ、先輩。それとも誘ってんの?」
前にも見た、この意味ありげな笑み。
嫌だと言った途端、コイツは嬉しそうに笑い、その後気を失うまで弄ばれた記憶がまざまざと蘇る。
今まで確信は無かったが、それを言わないように心がけてからは無茶をされる事もなかったのに。
「…ク〜ックックッ……今のでなけなしの理性が飛んだぜェ。」
厚い眼鏡の奥の瞳にゾクリ、と総毛立つ。
探るように動いていた手が足を掴んで持ち上げると、いきなり後ろに指が差し込まれた。
赤い躯が感電した様に跳ね上がる。
「ヒァッ!?」
馴らしもせずに突っ込まれた指が動く度、かなりの圧迫感と痛みが走って。
その後にじわり、と這い上る快感。
それを振り払うように頭を振って、声を堪える。
「………っ……く…っ…!」
「おやァ……どうか、したかい、先輩?」
嘲るようにわざわざ顔を覗き込んでくるクルルの瞳から逃れるように、固く目を瞑って。
荒くなってくる息と、漏れそうになる声を一緒に呑み込んで、音がするくらい唇を噛んだ。
「へーぇ……無視かよ?」
「……っ………っっ!」
「まぁ、せいぜい意地張ってな……クックック…」
含み笑いと共に下腹にスルリ、と冷たい手が降りる。
普段尋常じゃない早さと正確さでキーボードを叩いている細い指は、どんなに耐えようとしても瞬く間にギロロの生殖器を導き出し、起立させて。
膝に躯を割り込まれ、それを口に含まれる感覚に、押し殺した声が漏れる。
「…や……う、ァっ……!」
体内の指は的確にポイントを刺激し続け、同時に前を呑み込まれ、ギロロの足が小刻みに震える。
「…降参かい?ギロロ伍長殿…」
「…く……誰…がっ!」
無駄な抵抗なのは分かっている。
本気で抗おうと思えば、鋭い刃物のような言葉を投げつければ良いだけの事。
そうすれば、二度と任務以外で共に過ごす事は無くなるだろう。
最初はいけ好かない、軟弱なヤツだと思っていた。
でも彼のおかげで何度ピンチを免れただろう。
死線で背中を預けてもいい、と思える数少ない男。
自分のこの感情が何なのかは分からないけれど、嫌いじゃないんだ。
共に過ごす時間も、身体を重ねることも。
だから、無駄な抵抗はしない訳にもいかないが。
「ク……ルルっっ……!」
追いつめられ、自然に口を突いて出るその名前。
それを聞いた彼の躯が一瞬動きを止め、やがて小さな電子音と共に戒めが解かれた。
強く、強く繋がれる手はいつも最後まで離されない。
息が出来ないほどのキスと同時に訪れる、痛みと痺れるような快感が全身を蝕み彼の刻むリズムに感覚の全てを支配されていく。
「……アァっ!ふ…ァっ…!」
「………嫌、なんだろ…ォ?」
ふと至近距離で囁かれる声。
拗ねたような、嘲るような、焦らすような、甘い声。
羞恥と悔しさに涙を滲ませて首を横に振ると、彼は満足げに微笑って。
赤い首筋に顔を埋めて先程より激しく突き上げる。
「ひァっ…アァっ!も……ク……うアっ!」
「……そろそろ………いい…ぜェ…?」
「ふっっ、あァ!…ァアああーっっっ!!」
足元が崩れ暗闇に墜落するような感覚の中、必死に縋り付く彼の手。
安心して縋れる、絶対に離されない手。
それが欲しいなんて、コイツに話したらきっと馬鹿にされるに決まっている。
ギロロが泥のように深い眠りに落ちた後、クルルは疲れ切った躯を引きずって、一人ラボに向かった。
明日が出番の地底探査機『マグマ・スイマー』の設定を変更しなければならない。
強力バリアと超電子攻撃装置を取り付け、なおかつ出来るだけスピードが落ちないように。
いつも最前線に出動る、無骨なあの手は永遠に自分の物にはならないのに。
失くしたくないと思うのは何故なんだろうな。
END. |