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    Cradle song    

 

「…ク〜ックックックッ……そんな事言いに来たのかよ…ちょいと野暮用でね、あいにく今は侵略どころじゃねぇんだよ。」
「野暮用だと!?任務遂行以外に何がある!お前の態度は日頃から目に余るぞ!!」
「……俺ァここン所徹夜でな。オッサンの話聞いてるヒマがあるなら、さっさと終わらせて寝てェんだがな…」

湯気を立てて怒鳴るギロロにヘラリと笑い、彼はコンソールパネルに足を投げた。

「貴様ァ…ここは戦場だぞ!?ケロロは玩具に夢中!ドロロは生ぬるい!タママ二等に至っては遊び半分だ!
ここは俺とお前がしっかりせねばとこうして足を運んでいるのに、少しは真面目に話を聞いたらどうだ!」

朝の作戦会議がいつも通りのほほんと終わり、業を煮やしたギロロ。
人を食った様な態度が苦手と言えば苦手だが、一番任務に近い事をしている彼に、何か妙案は無いものかと持ち掛けるべくクルルズ・ラボを訪れたのだった。

それと四、五日前から全く姿を見せていない彼を、少しだけ心配して。
なのに、何故会議に来なかった、と聞いても当の本人からはのらりくらりとした返事が返るだけ。

「興味ねぇな〜…もう出てってくれよ。…コレ仕上げちまわねぇ…と………」

いつも以上に気怠げな声。
くるりと背を向けて再び画面に向かったクルルの身体が、次の瞬間グラリと傾いた。

「クルル……?おい……クルル!!どうした!?」

グニャリと突っ伏してしまった彼を見て、ギロロが慌てて駆け寄る。
助け起こそうとした身体の、不自然な熱さ。
それにもかかわらず、小刻みに震えて息が荒い。

「…馬鹿者が!」

眉間の皺を一層深くして、吐き捨てるように…苦しげに。
ギロロはそう言って脱力したクルルの身体を抱え上げた。

 

◇     ◇     ◇

 

………冷てぇな…何だコレ……水?

朦朧とした意識の中、唇に触れた金属の感触、そこから冷たい液体が口の中を潤す。
先程までの寒さとは打って変わって、灼け付く様な熱さが身体を支配している今、それは何よりも甘露で。
様子を見るように少しだけ流し込まれたそれを飲み下すと、今度は少し多めにもう一度。
渇きは自然に彼の口を開けさせ、二度、三度とそれを求めた。

『………ルル…?……しっ……りしろ…』

…何……?あぁ…オッサンが呼んでんのか。…また怒ってんだろうな……

廻らない頭でも、微かに耳に届く声を認識し、重いまぶたをこじ開ける。
霞む視界の真ん中に、赤い物体。
それを見て、クルルは薄く笑った。

「クルル、俺が分かるか?…しっかりしろ。」
「…よぉ…先輩。……クックッ…何だよコレ、何プレイ?…身体動かねぇんだけど。」

少しはっきりしてきた画像に、憎まれ口を返してみる。
身体は鉛のように重く、頭痛も酷いが、思考は視覚聴覚と共にかなり回復したようだ。
ギロロは自分の意識が戻った事にあからさまに安堵の表情を浮かべていた。

「馬鹿者、お前は倒れたんだ。…かなり熱が高い。安静にしていろ。」
「ク〜ックックックッ……のんきにネンネしてる場合じゃねぇんだって。俺はアンタと違って忙しい身でね…」

そう言って身体を起こそうと試みたが、どうにも力が入らない。
氷水の入った器とスプーンを机に投げ出し、ギロロが少し声を荒げて肩を押さえた。

「寝ていろと言ってるだろう!本部に提出する報告書ならケロロやタママが基地でやっている。……その…悪かったな…」
「……あん?」
「ケロロが放ったらかしにしていた報告書の締め切りが明日で、お前が何日も徹夜でまとめてたなんて…知らなかったんだ。」
「強制送還…なんて事になると色々不都合があるんでねェ……ククッ…オッサンも、だろ?」
「あぁ…スマン、有り難う。」
「…気味悪ィ。俺だって無報酬ってワケじゃないんだからよ…後、添削して送るだけだからって言っといてくれよ。」

ふぅ、と息を吐いてベッドに沈むと、額のタオルを替えながらギロロが小さな声で聞いた。

「辛いか?肝心のお前がいないと…俺達には何も出来ないんだ。治療法はおろか、何の病気なのかさえも……」

その声音に、クルルは驚いたように目を見張って、椅子に項垂れるギロロを眺めた。

初めて見る、顔。
優秀な戦闘能力に裏打ちされた過剰なまでの自信。
『戦場の赤い悪魔』と謳われた最強の機動兵が。
無力感に肩を落としている……自分の為に。

面白ェ…笑っちまうよな、たかがこんだけの事でガックリ来やがって


「……俺は天才だからよ、地球の空気感染する大概のウィルス・病原菌には免疫をつけてある……クックッ…感染したとすれば疲労から[風邪]っつーのにかかったんだろう……コレはなんせ菌の種類が多くてねェ。致死性もないし、面倒くさかったからヤメた。」

熱が下がれば何てことはないし、特製の解熱剤もある、と。
説明してやるとギロロは顔を上げ、力が抜けたような、とても安心したような声でそうか、とだけ呟いた。

何言ってんだ俺は?重病にしといた方が後々都合イイのによ〜…
そう思いつつも、何故か自分の気分も落ち着いて。
在処を聞いて解熱剤を探す後ろ姿を見ながら、らしくねェー…、と自嘲する。

人に優しくした記憶など、ひとつもない。
表面上そう見えることはあっても、それは、その裏の見返りの為。
徹底した利己的、自分主義が信条だったのに。

バッカみてぇ。何悲痛な顔してんだか……

倒れるまで気が付かなかった事、直前に怒鳴っていた事、一人で仕事をさせていた事、…多分、その間の自分が武器を磨くか、猫と遊ぶかしかしてなかった事も。
それは思った通り、ギロロの両肩に重くのしかかっていて。
大丈夫だと聞いて、安堵感にため息が漏れた。

オッサンに傅かれるの超気分いいし、特別に貸し借りナシっつー事にしといてやるかな?

目の前に差し出されたアンプルのラベルを確認し頷くと、頭を支え起こされて口に入れられる。
そんな状況が楽しくて、そのうち面白い事を思い付いた。

「先輩、そこのiPod取ってくれよ。…音量MAXで頼むぜェ?ク〜ックックッ…」
「駄目だ、そんな物。…もう夕方だ、このまま眠れ。一番いい薬だ。」

予想通りの反応と台詞。
クルルは内心ほくそ笑みながら、用意していた言葉を投げる。

「…じゃァさ〜、子守歌歌ってくれよ、先輩。」
「なっっ!貴様いくつだと思ってるんだ!?そんなもの、知らん!」
「眠るのが一番イイんだろ?俺に治って欲しくないのかい?……三日徹夜は正直キツかったぜぇ…」
「なら、そんな事しなくても寝れるだろう!?」
「………じゃ、頼まねェ。自分で取ってきて聴くよ。…あいにく今、音が欲しいんだからよ…」

行く気などさらさらないクルルがよろよろと身を起こしかけると、椅子を鳴らしてギロロが立ちはだかった。

「……………待て。」
「…ク?」
「………この部屋は盗撮してないだろうな?」
「自分の寝姿見ても何の得にもならねぇよ。」
「防音は完璧か?」
「なんせ機密が入ってるコンピューターがあるからな…防護壁はかなり厚いぜェ。」
「……貴様、誰にも言わないと誓えるか?」
「面白い事は大好物だからな〜…でもオッサンのそんな笑える場面が見れるんならオフレコにしといてやるよ。」

ギロロはそれだけ聞き終えると、諦めたように椅子にどっかりと腰を下ろした。

「……チッ…分かった。笑いたければ笑え。その代わり大人しく寝るんだぞ。」

マジで歌うのかよ……何だ?軍歌か?軍歌なのか?(笑)


Love me tender love me sweet Never let me go
You have made my life complete And I love you so
Love me tender love me true All my dreams fulfill

For my darlin I love you And I always will
Love me tender love me long Take me to your heart……………


………は……マジかよ……?

小さく囁くような、低い声。
彼が静かに歌い始めたのは、この地球の甘いバラード。
ラボの冷たい空気に溶け込むような歌声に、つい聴き入ってしまう。



絶対笑ってやろうと思っていた。
あの地球女にバラしたら、烈火の如く怒るだろう。
そうしたら『約束?熱が高くて憶えてねぇな…うわ言だろ?』とか言って。
そうやってバズーカ構えたオッサンと遊ぼうと思ってた。

でも、やめとこう。
オッサンと遊ぶネタはいっぱいあるし…これは二度と無いかもしれないし、な。

…ってオイオイ……変な実験しちまったなァ……。
…これからは怒らせたり……啼かせたりして、遊ぼうか?


うずまき印の薬が効いて、頭痛も熱も緩やかに引いていく感覚と柔らかい眠気がクルルを包む。
トロトロと眠りに落ちる前、何か変な事を口走った気がするが覚えていない。
きっと一文にもならない、愚にもつかない事なんだろう……………






何故そんなことを言い出したのか多分甘えているのだ。
通信参謀という仕事は殆ど一人きりで行うものであり、こいつは優秀なだけにその比率も高い気がする。
研究、開発、分析、医療、機の操縦…それらは本来、通信兵の仕事ではないのに。
好きでやっているのは勿論分かっているが、仕事ではラボにこもったり機体に残ったりしているのだから、暇な時はもう少し基地に出て来ればいいものをと常々思っていた。

昔、母親が寝る前に毎晩歌ってくれた歌。
ここ地球でこちらの言語でカバーされていると知ったのは最近の事だ。
眠るのに適切な歌などこれしか思い当たらず、そもそも歌なんぞ全然得意ではないが、仕事をしすぎて体を壊したひねくれ者の安眠の為なら歌ってやらん事もない。
前半しか覚えていなかったが、繰り返し歌っている内にどうやらその役目を果たしてくれたようだ。

『……ロロ先輩…手…』

歌い始めて数分経った頃、まどろみの中で彼はそう言ってシーツから片手を出した。
病気の時は精神的に弱くなるから、一人眠るのが怖いのかも知れない。
そう思って握ってやると、そのまま一気に眠りに落ちた。
規則的な寝息を聞きながら、片手で額に触れても先程までの熱さは無い。

こういう時には素直なんだな…普段からもう少しそうあって欲しいものだ
そんなことを考えながら、ギロロは少しだけ溜め息をつく。

「やれやれ……これでは動けん。」

屈強な戦士の無骨な片手は、ひねくれ者の天才の手にしっかり握られている。
元々眠りの浅いヤツだから、無理に解けば起きてしまうかもしれない。
少しの間思案して、ギロロはセミダブルのベッドの空きスペースにそっと寝転んだ。

「治ったら一緒に訓練だ。俺が鍛え直してやるからな……」

暗いラボの中、二つの寝息は朝まで途切れることはなかった。

 

END.

 

 

 

 

すいません、甘すぎましたね(泣)それと、書き終わった後、気が付きました。
『ケルベロスの肝、取ってきたら良かったんじゃないか?ギロロ君。』
『………あれは絶滅した。』
そういう事にしてやって下さい m(_ _)m

至らなさ満開で申し訳ないです…しかぁし!!
MANA姉が神台詞を連発していますので、がんばって欲しいです!
MANA姉のクルル、めっちゃくちゃイイ男ですよ!?
崇めますとも!拝みますとも!


<MANA>
このギロが私のベースなんだなあ。たぶん。
神台詞って何?愛し子?いや私はガンバルほど思い入れないですが、っつーかギロは好きだけどクルはおまけっつーか(笑)
まあ泰明さんの交換条件なのでいちおう頑張ってみます。んでこいつら何星人だっけ?地球のことなんていってたっけ?ケロポン?