MANA's ROOM〜トップへ戻る
Total    Today    Yesterday   拍手メールサイトマップ
更新記録リンク掲示板日記
ときメモGS別館 アンジェ・遙時別館 ジブリ別館 ごちゃまぜ別館
 
 


    白き最終兵器    

 

「クルル?いないのか?」

シュ、とかすかな音を立ててラボの扉が開き、ギロロが顔を覗かせる。
中はいつも通り薄暗いが、見えないほどではない。きょろきょろと探すと、奥の実験室の方で明るい体色が動くのが見えた。

「クル……」
ああ、ダメだって。おまえ、まだまともに動けねぇだろ」
「……?」

何の躊躇いもなくそちらへ歩いて行きかけるけれど、自分が来たことに彼が気づく前に、ギロロの方がその声に気づいた。

「とにかく、その濡れた身体をなんとかしねえとな。風呂に入れたいとこだが、他の奴らに見つかるとうるせーしなぁ。
 あーあ、こんなに汚しちまって……ククク」
「……!?」

ごそごそと布か何かを取り出す気配がして、少しだけ見えるクルルが熱心に拭う動作をしている。
ギロロは目を見開いた。

「……や、だ」
「やだじゃねえよ。そんなワガママ、どこで覚えたんだ」
「ううう……」

クルルの呼びかけに返事をするのは、か細い女の子のような声。明らかに、知っている誰の声でもない。

「そっちの手も出せ。手間掛けさせんなよ?」
「うう。くる、る?」
「なんだよ。呼び捨てにすんなよ、おまえは俺のモンなんだからな」
「なま、え?よぶ……」
「ああ。そうだな、俺のことはなんて呼ばせようかな。ご主人様?旦那様?マスター?クック〜」
「ごしゅじん、さま……?」

「……………。」

きゅ、と握った手のひらが、少しだけ熱い。
聞いたことのない女の子の甘えた声。
それに応えるクルルの言葉も、優しげで。
自分の知らない者にも、クルルはこんなふうに話すのだと思ったら、なんとなく息苦しくなった気がした。

「おら。後ろ向いて、足開け」
「あい」

いつもの調子で、勝手にずかずか入り込んだのが悪かったのかもしれない。
こんな会話を聞いてしまうなんて、思ってもみなかったから。
状況は分からないが、ただ一つ、自分が立ち聞きしていることだけは分かる。ギロロは音を立てないようにそっと踵を返し、部屋を出ようとした。
その時。

「くるる。だれかいる」
「はぁ?」
「……!」

その声に驚いて、振り向こうとした一瞬の隙に、彼の身体はなにか小さい物に捕らわれていた。
いつの間にか、としか言いようのない素早さで肩に乗る小さな物体。そこから延びた紐のようなものが利き腕を抑えている。そして、こめかみに押しつけられる、固い感触。
前線にソルジャーとして派遣されている以上、ギロロは基地にいても油断しているつもりなどない。なのに、いつそれがそばに来たのか、まったく分からなかった。
ぞく、と背筋に寒気が走るのと、慌てたようなクルルの声が聞こえるのが同時だった。

「せ、センパイ!?おいこら、やめろ!」

クルルの言葉に従うように、頭と腕の拘束がするりと外れ、それが肩から降りる。
一呼吸置いてからそちらを見ると、そこにはギロロの背丈の半分以下しかない、小さな白い『なにか』がいた。

 

◇     ◇     ◇

 

「すまねぇな、センパイ。来てんの気づかなくてよ」
「……いや……それは、構わんが」

ラボのソファに移動したギロロは、渡されたカップに礼を言いながら、ちらりと視線を走らせた。
件の生物は落ち着かない様子で、クルルの周りをうろうろしている。
あんな小さな生き物、踏んでしまわないだろうかとはらはらしてしまうが、クルルは全く気にしていないようだった。

「で。何の用だったんだ?」
「い、いや…その、特に用、ということはなかったのだが……」
「はん?武器の修理かよ?それとも……俺に会いに来ただけ、とか?」
「な……!」

かっ、と顔に血が上るのが自分でも分かった。
慌ててコーヒーを飲む振りをして顔を隠すと、クルルが楽しそうにククッと笑った。

「なんだよ〜それならそう言ってくれりゃ、俺も喜んでお応えしたのに」
「別に、そう言うことではない!」
「またまた。センパイって、ごまかす時はぜってー俺の顔見ねえからバレバレなんだよな」
「なにっ!?……あ!」

うっかり反応してしまった恋人を、クルルは抗う間もなく抱き寄せる。
唇を寄せてくる体を押しのけようと思ったが、手の中にあるコーヒーがこぼれてしまいそうで、ギロロは避けることができなかった。

「ん、…ぅ、や、やめろクルル!おまえという奴はっ……!」
「なんだよ、今更なに嫌がってンの?」
「今更とか言うな!他人の目がある時にこういうことをするなといつも……!」
「他人?……って、ああ」

不思議そうに首を傾げたクルルは、ソファの前でじいっと二人を見上げている『それ』に、目を向けた。

「アレのこと?」
「そ、そうだ!どこの星の人間かは知らんが、言葉が通じるなら意思の疎通はできるのだろう!」
「アレは人間じゃねえよ」
「は?」
「もっというと、生物でもネエな〜、厳密には」
「……え?」
「なんせ、俺様が“作った”んだからよ」
「……………???」

疑問符をいくつも飛ばしている様子にまた笑って、クルルはもう一度、その唇を奪った。


ひとしきりキスをされた後、怒ったような顔のギロロに説明を求められた彼の回答は、簡潔だった。

「ちょいと軍備開発の依頼が来ててよ。どーもメカだけじゃ上手くいかねえから、生体組織を組み込んでみたんだよ」

兵器としての機械に生体組織を組み込むことは、そう珍しいことではない。
ギロロ自身も、クルルの開発したそれらを使用したことがあった。どんなに技術が発達しても、『意志』や『感覚』を全く持たない無機物の塊には、どうしても超えられない壁があるという。
それをカバーするのが、有機物の持つチカラだった。性能だけなら完全に機械化した方が良いはずなのに、生体組織を加えただけで調整能力や照準のつけやすさが格段に変わる例を、ギロロは何度も目にした。
しかし、これは。

「まあ、気がノッてどんどん構造を変えちまったから、半分以上は生物の域になってるんだけどな」
「き、機械……なのか?これが」

ギロロは信じられないという目で、『それ』を凝視した。
ケロン人より随分小さい体長、大きな瞳、あどけない外見。白い体は毛に覆われているわけでもないのに、何故か猫のような耳としっぽがついている。

「俺がプログラムしたのは性能だけなんだが、培養液から出てきたら自然にこうなっちまってた。
 多分なんか原因やら理由があんだろうけど、尻尾だけでセンパイを抑えられるなら飾りじゃねえよな」

研究対象の出来が嬉しいのか、いつもより饒舌な言葉を聞きながら、ギロロは逆にじっと考え込んだ。
こんな機械が量産されたら、それこそ宇宙中の戦局が変わってしまうだろう。
小さく機動力に優れ、悪魔と呼ばれるギロロの背後を取るほどの速さと、抑え込む力を持つ。並の兵では太刀打ちできまい。
それを見透かしたように、クルルはすっと手を伸ばしながら言った。

「ああ、でも、さっきのは違うからな」
「?……違う?」
「たまたま完全機械モードにスイッチしてただけ。性能は飛び抜けるんだが、状況判断するアタマが無くなんだよ。
 そこをカバーするのが生体組織なんだけど……生物モードにすると、今度は性能が落ちちまう。
 妥協点を見つけても、『戦闘能力だけで評価したアンタ』と比較してまあ、最大70%いくかどうかってトコかねえ」
「しかし、70%でも量産できれば」
「あー、無理無理。こいつは俺にしか作れねえよ。金も希少資源も死ぬほどつぎこんだし、量産は無理だ。
 俺が掛かりきりでやりゃあ何体かは作れっけど、そんな気ぜんぜんねえし」
「……そうなのか」

もしかしたら自分のような歩兵は必要なくなるのかもしれない、と一瞬思ってしまったギロロは、無意識にほっとため息をついた。
改めて、クルルの腕に飛び乗る『それ』を、間近で見つめる。
白くて小さい『それ』が物珍しそうに見上げてくる様子は、ギロロが見ても愛くるしいとしか表現しようがなかった。

「むしろ俺の目的は、アンタの戦闘能力の70%を持ったままで、優秀な戦略能力を持てないか?ってコトなんだがな。
 ……俺様みたいな、なァ?」

クーックックッ、と笑うクルルの台詞に、何かを感じて。
ギロロは眉を顰めて視線を移した。

「おまえ……まさか」
「アンタの戦闘能力の7割と、俺様のアタマの7割がありゃ、マジで完全無敵だと思わねえ〜?」
「……人の遺伝子を勝手にいじったのか」
「ずいぶん苦労したぜぇ?遺伝子操作なんざ難しいことじゃねえが、思った通りに発現してくれなくてよ。
 研究を重ねて、まあこれが今んとこ一番の成功例、ってやつかな」
「……………」
「後は色々と学習させて、適応能力やら何やらを見ねえと。……おいチビ、二度とセンパイに手ェ出すんじゃねえぞ」
「あい」
「この人は、おまえのもう一人のマスターだ。俺とセンパイだけには絶対服従、いいな?」
「あい!」

ぴこ、と手を挙げて応えた『それ』は、ギロロを振り向くと、にこにこしながらぺこりと頭を下げた。

「……う、うむ……」

どう対応していいのか分からなくて、曖昧に返事をするギロロを抱き寄せて。
クルルは肩に『それ』を乗せたまま、おかしそうに囁いた。

センパイ。ところでコイツの名前、何にしよっか?」
「名前?そんなもの必要なのか?……別に、好きにつければいいだろう」
「んなひどいこと言うなよ。やっぱ、クロロ?それともギルル?」
「……はあ?」
「だってコイツ、いわば俺らの愛の結晶じゃねえ?ククク」
「!!!な、な、なななにを言い出すんだっっ!これは兵器だろう!!」
「センパイの遺伝子と俺の遺伝子が混ざり合い、一つになり……そして長い時間をかけて生まれてくる。ロマンだなぁ〜」
「妙な言い方をするな!気色悪い!!」
「よし!おまえ、センパイのことママって呼べ!俺のことはパパでいいぜェ☆」
「話を聞け!そもそもなんで俺がママなんだーーーー!!」
「まま。ぱぱ」
「貴様も呼ぶなっ!!」
「じゃあ早速、パパとママの仲のいいトコを見せてやらねえとな、センパイ!」
「や、やめ、……あ…!……離…せ、……っこ、この馬鹿者ッッ!!!!
「……………。」

抱きついて押し倒してキスをして、さらに体中を触ろうとして固めた拳でガゴン!と殴られるところまで、『それ』はしっかりと凝視していた。
にこにこと笑いながら。

 

つづく?

 

 

 

 

続いてしまうかも。
出しちゃったオリキャラ〜。あんまオリキャラは良くないよな と思いつつ。だってクルとギロだけじゃなくて他の人も絡めたいやん!でも知らんし!w
とりあえずそんな目的で書きはじめたんですが、意外と遺伝子とかパパママとかいうネタが出てきて楽しかったです。遺伝子化学は一応修論書いたくらい実験したけど、さっぱり分かっていませんが。
そういえば酵素の遺伝子同定だったな……AとTとGとCという文字はもう見たくないくらいシークエンスした。毎回実験結果が違うんだよくそ!クルルは遺伝子操作は簡単とか言ってるけど、私はそれ以前に解析の時点でだめだめだった!(゚∀゚)

次回、できれば赤いリボンをつけて小隊のみんなに可愛がられたりしようかと思います。小隊のみんなが分からないので出ては来ませんがw
いまいちこの子の姿形がはっきりしないんで、とりあえず好きに想像で〜。ケロン人の肩に物が乗るか?というのも含めて(笑)←あれだ、あの、テトのイメージで。肘のとこに乗ってるの。