薄暗いラボに不似合いな、かん高い着信音が響く。
没頭していた作業から目を上げ、モニタを見ると、表示されているのは予想通りの名前。
クク、と笑って、
そのまま何回かメールを交わす。相手が彼なら内容は依頼か連絡でしかありえず、この時ももちろんそうだったが、それでも俺の笑みは消えなかった。 |
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……では、よろしく頼む。
そちらが大変なときに俺だけスマンが……明日も早いのでな、先に眠らせてもらうぞ。
おまえもちゃんと休むんだぞ? |
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ああ、分かってるよ。
それより一人で寝れるかい?添い寝に行きてェけど、この仕事だけはオロソカに出来ねぇからな。オヤスミ先輩、俺の夢を見るんだぜェ?クック〜。 |
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ば、馬鹿にするな!ガルルのようなことを言うんじゃない、おまえは俺よりも年下なんだぞ!?
おまえこそ、一人で眠れば都合のいい夢を見られるのではないか?夢の中の俺がせいぜい優しくしてくれればいいがな!(語るに落ちています) |
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馬鹿はアンタだ。寝る前にあんなムラサキの名前なんか口にすんじゃねェ。アンタは俺の夢だけ見てりゃイーんだよ。
ってか、そりゃいいな………………………………………………ク〜クックックッ@
俺の夢の中のアンタはスゲェぜ〜? |
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む、ムラサ……前から思っていたが、おまえはどうしてそこまでガルルと仲が悪いのだろうな??無理に仲良くしろとは言わんが……
それに、俺はあまり夢を見ないから大丈夫だ。見ても忘れてしまうし、眠っていても他人の気配がすれば目を覚ますからな。
何の心配をしているのか知らんが、問題ない。
追伸。
妙な夢は見るな! |
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「……マジかよ」
思わず、そんな独り言が口をついた。
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……先輩、アンタなぁ……イヤ、やっぱりいい、覚えてねェんなら。
いいか、あのムラサキの前では寝るなよ。貞操の危機だぜ? |
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???なんだ……俺が何かしたか?
しかしガルルの前で寝るな、と言われてもな……戦場へ行けば休まないわけにはいかんし……ああ、その、たいてい寝袋は別だから構わんだろう? |
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…………………………
イヤ、いい。先輩、とりあえず明日朝イチでラボに来な。ってか来い。絶対来い。来なきゃムリヤリ鉄パンツ履かすぜ? |
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て、鉄パ……!?なんの話だ!?!?
よく分からんが、明日はもともと様子を見に行くつもりでいたから……邪魔すると思うぞ。
ではな。きちんと休め。 |
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なんだよ、ヤッパ寂しいんだろ?(笑)
明日、ゼッテエ来いよ。じゃあな。 |
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通信を終了して、シートに深く身を沈める。
コイツ……自分がいつもどんだけぐうぐう寝てごちゃごちゃ寝言言ってるか、気づいてないってか?
あンだけ破壊力のある寝言もそうそうないぜぇ〜。あの変態ムラサキが小耳に挟みゃ、その場でエジキになるくらいヤバいもんだ。ヤッてる最中に比べても約65.2%のエロさ具合だぜぇ?(当社比)
こりゃマジで注意した方がいいのかもな……。戦場で雑魚寝してるときにそんなことされたら、誰に手ェ出されるか分かんねえし。ソルジャー失格だぜ、全くよ。
「……待てよ」
ふと思いついて、俺は口元に手をあてた。
あまり夢を見ない、は、忘れてるだけにしてもだ。人の気配で起きるってのはなんだ?
そう思いこむ程、よく目を覚ましてるっつーことか?けど、夜中に起きてるセンパイなんぞ見たコトねえぞ?
俺は眠りが浅いから、隣でよくセンパイを見てるが……ジットリ眺め回しても、多少ちょっかいを掛けても、気にせずぐうぐう寝てるがなァ。……クク、手ェ出したときの寝言がまた、エロいんだよなァ〜。
『や…クルル…』とかって、蕩けそうな声出しやがって。寝てるくせになんの疑いもなく俺だと信じてるトコとか、可愛すぎんだよ。あのヤロウ。
「ん? “なんの疑いもなく”………?」
もしかして。
もしかしなくても。
「……俺以外の人間がいたら、目が覚める…ってコトか……?」
呟くと、自分で意識しないままに、喉の奥から笑いがこみ上げてくる。
クッククックと止まらない衝動に少し困りながら、俺は手早く作業中データのバックアップを取り、コンピュータのスイッチをオフにした。
急ぎの仕事だが、
無理をすれば彼が眠ったあと、モバイルで作業できないこともない。そんなことよりも、今は確かめなくては。
長年つきまとってやがるムラサキすら『他人』と言い切るオッサンが、なんで俺の傍では起きねえのか。
『熟睡』っていう文字の見本みてぇに、ぐっすりおネンネしてんのか。
それを、はっきりと言葉にして白状させねえとな。どうせすぐには口を割らねーだろうから、とりあえず狼狽えた顔を楽しんで……あとは涙ぐむまで追求してみっかな??
「これは、なかなか楽しくなりそうなプランだぜェ……?ククク」
いつも彼が眠るベッドをちらりと横目で見てから、俺はラボのメイン電源を落とした。
END.
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突発2。やはり昨日の妹とのメールより。
妹んちの猫が出産で、妹は徹夜だーってときに交わしたメールです。その後もクルギロ口調でやりとりしたんですが、いくらなんでもクルルが猫の出産に立ち会うってどんな状況……?と思ったので、その点は省いてみました。
どうでもいいがこの突発メール劇場、ギロの台詞は天然だからやりやすいけど、クルの台詞はいつも難しいですね。スマン妹よ。
とりあえず、リアルのその後メールを↓に置いときます。創作の設定とは違うけど、クル台詞が可愛かったので……!
【おまけ:猫出産次の日】
「クルル、子供たちはどうなった?」
「あぁ、母子共問題ないぜぇ?姫育ちで育児が出来るのかちょいと心配だったが今のとこ順調だ。
そぅいや先輩、ザンネンだったなぁ。生まれた子供は黒とトラだ…白いのが欲しいんダロ? 」
「育児…しているのか?…あの箱入り娘が、か?それは……なんというか……奇跡、だな。
ああいや、悪い意味ではないぞ。しかし……女性というのは分からないものだ」
「ロマンチストだねェ先輩は。ありゃ出産と授乳でホルモンが分泌された事による条件反射だ…DNAに刻まれた本能ってヤツだな。
まぁアンタが奇跡とやらを信じたいんならそれでもいいさ……チッ、ちゃんと食いついてろよチビ共、まだ見えねーんだからよ。
イチイチ唸るんじゃねぇ、テメエのガキを飯にありつかせてんだろが……全くメンドクセーぜ…」
「ふふ、おまえもいつになく面倒見がいいんだな?それは本能ではないだろう?
おまえがそばにいれば、彼女も安心だろう。表向きはそう見えんかもしれんがな。
存分に構ってやることだ……ただし、おまえもきちんと休むんだぞ。おまえが参ってしまったら、彼女も哀しむ。いいな?」
「か、構っ…構ってなんか!ただ、生まれたばかりの生命体は初見だから珍しいだけだ。
余計な知識が入ってない方が実験体として優秀だからな…もとい観察対象、だ。」
「ああ、分かった分かった。俺と同じく実験対象、だな。ふふ。
では無理をしないよう、実験に取り組めよ。あとで昨夜の記録を送るからな。じゃあな。」
クル か わ い す ぎ (゚∀゚)
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