「……あァ?なんだって?」
コンソールを叩きながら話半分に聞いていたクルルは、ふと肩を揺らして振り返った。
視線の先の、相変わらず赤い色をしたソルジャーは、床に座り込んだまま銃を磨く手を止めない。
「ただの噂だが」
何でもないように言うギロロに、クルルは少し苛立ったように眉根を寄せた。
「愛し子?なんだそりゃ」
「神の愛し子、と言われているそうだ。まあ無理もない。
俺は今まで数々の激戦地を渡り歩いたが、自分でも何故生きているのか分からない戦局も珍しくなかったからな」
「……前線に出もしねえ本部付きのエライさんが、妬み混じりに言いそうなこった」
パシ、とやや強くエンターキーを打ち込むと、メインコンピュータがコンパイルを始める。
流れていくプログラムをしばらく見やってから、クルルはシートごとギロロの方に向き直った。
「なんでそんな事言われて平気なんだよ、オッサン。てかちょっと嬉しそうじゃねぇか?
運だけでやってきたって言われてんだぜ、怒れっつーの」
押し殺したような声音に、初めてギロロが顔を上げる。
そして小さく首を傾げて、不思議そうにクルルを見返した。
「何を怒っているんだ?おまえが怒ることでもないだろうに」
「うっせーよ。俺はそういうコソクなやり方が嫌いなんだよ、自分がそうだからな」
「別に、おまえが姑息だとは思わんぞ、俺は」
「……………」
「それに、言った者がどういうつもりでも、悪い気はしないさ」
黙ってしまったクルルにもう一度笑いかけて、ギロロは手元のコッキングレバーを引いた。
空の薬莢がカチリと音を立てて転がる。
「戦場ではまず、実力だ。体力と技術が物を言う、それは確かだが、機運というものもやはりあるからな。
1ミリでも勝利の側に導いてくれるのならば、神でも運でも味方につけた方が良かろう?」
「……ケッ。見たこともネェ神とやらに愛されたって、ウゼェだけだろうがよ」
さも嫌そうにクルルが言い捨てると、今度はギロロが眉を顰めた。
「おい、おまえも軍人の端くれだろう。戦場でそういったものは決して馬鹿にできんのだぞ!」
「サァね〜。実力に自信がねえ奴が、そう言ってごまかしてんじゃねえの?」
「クルル!」
「あー、分かった分かった。……そんじゃこうしよう。神に愛されてるのはアンタで、そのアンタに愛されてるのは俺。
恩恵はアンタから受けて、アンタに返す。これでイーんだろ?」
「……?いい…の、か?」
「イーんだよ」
「……なんだかよく分からんが」
しきりに首をひねっているギロロに、クックッと笑いながら新しい麻布を投げてやると、彼の心はたちまち銃磨きに戻っていった。
それを、眺めながら。
たく、気安く運とか言いやがって。俺がどれだけ苦労してアンタのために動いてると思ってンのかね?
武器も、情報も、環境も。
おおよそ自分が手を伸ばしうるすべてのものは、悉くギロロのために在る。
ケロン一と讃えられる頭脳も、ずば抜けた叡智も、神懸かった直感も、すべてこのひとが戦うために。
そして生きて還るために。
「……あァ、もしかして」
そこまで考えてから、クルルはまた、おかしそうに肩を揺らした。
「神って、俺のコト?」
END. |