両手を拘束されるのには、もう慣れた。
「……ぅ、っ……」
クックッと嘲笑う声が、静かすぎるラボに反響する。
そのいつもとは違う響きにも、慣れた。
「ぁ……クルっ……」
無意識に名前を呼ぶと、ほんの少しだけ目を上げて、上目遣いにこっちを見る。
多分自分では気づいていない、この俗悪な状況に似合わない瞳で笑う男に。
一瞬で溺れてしまう自分にも慣れた。
「ひ、んっ……あ、あぁ、クルル……!」
「イイコだ、センパイ……もう、我慢できねェんだろ?」
強請ってみろ、と言外に命令される。
わずかに残っている理性が、それを拒否して首を振るけれど。
「毎度毎度、懲りないねぇ……アンタは」
「……あっ!あ、だめ、だ……クルルっ……!」
それが、男の嗜虐心に火をつけてしまうのも、知っているのに。
どうして。
カチリ、と小さな音がした。
挿入されたままでも、動きを止められれば、少しだけ現実味が戻ってくる。
「……今日は、どんなことをされると思ってんのかね?その顔は」
「し、知るか……っ」
がくがくと震える体を隠すように語気を強めると、男が悪魔のように薄く笑った。
普段はモバイルより重い物を持たない腕で、強引に身体を裏返される。
シーツに押しつけられた息が苦しくて、必死で足掻いてなんとか顔を上げると、ラボ内に先程とは違う明るさが満ちていた。
ボケた頭で、光源を探って。
一瞬、目を疑った。
「…………夏…美……?」
ラボの入口に立って、扉に縋るように掴まりながら、こちらを見ている少女。
口元に当てた指が震えているのが、暗い中でもよく分かった。
弛緩していた身体に、電気が走ったような気がした。
「は、離せッ!!」
「おおっと」
がばっと起きあがって、あられもない姿を隠そうとするけれど、そんなことが許されるはずもなく。
もう一度力任せに押さえつけると、男は耳元でまた、笑った。
「悦い声で、啼いてみな」
「は!あ!あぁっ、やめ、あ、嫌だ……!」
粘着質の体液を、めちゃくちゃに掻き回される音が響いて、思わず我を忘れる。
必死で逃げようと足掻いても、叫んでも、頑丈な手枷が外れることはなく、手加減されることも絶対になかった。
「嫌、だ、あっ、それだけはっ……クル、ル!」
駄目だ。
自分がどれだけ利用されようと、拷問されようと、そんなものは別にいい。
けれど、それだけは駄目だ。
だって、あのひとは自分たちとは違うから。
まだ穢れも業もない、戦争も殺戮も知らない、純粋で無垢な天使。
そんなひとの前で、武器を振り回して争いの真似事をするのが、辛くなる時もあるけれど。
それでも、堕ちた自分たちを彼女らに見せてはいけない。
自分たちのいる場所を、
血塗れた手を、
空虚な行為を、
見せないでいることしか、できない
「や…め…ろ、……ク、ル、ルっ……!」
息も絶え絶えで後ろを振り向くと、離れていた唇が近づいて。
「絶対、やめねェ」
「ひ……っっ!!」
噛み付かれる感触と、前を握り込まれる衝撃に、ついに頭の中が真っ白になった。
「……………。」
汗と涙で顔をぐしゃぐしゃにしたまま、気を失ってしまったギロロを横たえてから、クルルはそばのコンソールに手を伸ばした。
小さな擦過音を残して、入口のホログラフィーが霧散する。
「……こんな喋りもしない子供だましで、よくも騙されるもんだ……感心するぜぇ」
呟いて、ギロロの頬を親指で拭う。
「アンタは、地上にいりゃイーんだよ」
天上に憧れることもなく。
天と地の違いを憂うこともなく。
ただ、堕ちた先の地上で、自分の天賦と運命を誇るといい。
「なんたって、ココにゃ俺がいるんだからな」
そう言って、クルルはブランケットを引っ張り上げると、ギロロの隣にもぐりこんで目を閉じた。
END. |