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    ただいま    

 

一目で、何かひどいことがあったのだと分かった。

伝令と手早く何かを打合せながらこちらに歩いてくる王子は、歩調こそしっかりしていたけれど、全身に違和感を纏わせていて。
少し後からついてくる副軍師は、明らかに憔悴した顔をしている。
言われずともおおよそは予想できる、事の成り行き。

思わず立ち竦んだ彼女を見ることなく近づいてきた彼は、すぐそばに来て初めてそれに気づくと、歩を止めた。
瞳を見返した途端、王子の表情が微妙にゆがんだ気がした。

「……ただいま、……ルセリナ」

似合わないやつれた笑みを浮かべ、静かに手を伸ばす。
周りに大勢の兵士や将がいるのを気にも留めず、王子は彼女の肩に顔を埋めた。
彼らの多くは、初めて見るそんなリーダーの姿に驚いた顔をしたが、幾人かは同じように目を伏せて理解を示した。
ルセリナは一瞬戸惑って周りを見回した後、彼の体が震えていないことを確認して息をつき、その腕にそっと触れて言った。

「……おかえりなさいませ、殿下。……戦勝、おめでとう…ございます」

人々が息をのんだ振動で、ザワリと空気が波打つ。
その無言の圧力に屈せず、ルセリナは昂然と顔を上げて前を見つめている。
彼女の肩に顔を伏せたまま、王子は少しだけ唇の端をゆるませた。



それをルセリナではない人間が言ったなら、きっと平静ではいられなかっただろう。
親愛。憎悪。義務。悲哀。苦悶。寂寥。使命。
様々な感情を向けて対峙した叔母は、もういない。
彼女の命を奪ったのは、他でもない自分自身なのだから。

しかしそれでも、自分にはやらなければならないことがある。迷ったり振り向いたりすることは許されなかった。
ルセリナの言葉は、ともすれば目的を忘れ感傷に走ってしまいそうになる自分を、あるべき姿に引き戻してくれる。
彼女の前で弱音を吐くたびに、それを克服して強い自分になれるような気がした。



ありがとう、ルセリナ」

そう言って顔を上げ、王子は綺麗な笑みを浮かべると、次の戦いのために彼を待つ軍師の元へと歩いていった。
その背にはもう、一筋の揺らぎも表れてはいなかった。

 

END.

 

 

 

 

サイアリーズとの戦い直後、戦争イベント連戦前。
もうこのころの王子はこんなかんじで、ルセリナにめちゃめちゃ依存していればいいと思います。依存というか、かけがえないというか。「どうしてルセリナは特別なんだろう」とふと自分で考えても、答えがよく分からないくらい特別。
王子が弱ったときはルセリナがなんでもないように支えて、ルセリナが弱ったときは王子が同じように支えるカップルだと思います。二人とも責任があって苦しいのにそれを放棄するなんて考えない、ある意味似たもの同士。だからこそラブで。