【主劇】小娘
「よっし、と!」
パンパンと前掛けを叩きながら、わたしは勢いをつけて立ち上がった。
目の前には、洗濯盥。洗濯機のないここでは、みんなこのタライで手洗いしている。
わたしは慣れてないし、布を傷めずに洗濯することもできないので女中さんのお手伝いはできないけど、せめて自分の服くらいはと思って時々これを借りてる。
服、って言っても、着物は洗えないから下着と足袋とタオルくらいしかないんだけど。
「……あ!そういえば」
ふと思いついて、腰から下げていたポーチを出す。
着物ってポケットがないから、持ち物は帯とか懐とかに入れろって言われたんだけど、どうもなかなか慣れない。
ポケットになる!と思って一回袂に入れたら、女中さんにすごい勢いで止められた。袂に何か入れるのははしたないんだって。
だから、わたしは男の人と同じように根付を使って、ポーチを帯から下げるようにしてる。これも女中さんはいい顔しないんだけど、袂にものを入れるよりはまし、だそうだ。
そこに、ハンドタオルやティッシュ代わりに使ってる懐紙、手鏡やリップと一緒に、藍色っぽい色の手ぬぐいが入ってる。
「これ、洗って返さなきゃ」
この間、お茶屋さんでごはんを食べた時に半次郎さんから貸してもらった手ぬぐい。
すぐ洗わなきゃと思ったけど、洗濯道具を借りる機会がなくて今まで延び延びになってた。
タライに溜まった水を流して、もう一回井戸から水を汲む。まさか下着を洗ったのと同じ水では洗えないし!
「よー、い、しょっ!」
水を汲むのはかなりの重労働だ。何メートルも下から水の入った重い桶を引き上げるのは、本当に大変。
だから、水汲みも洗濯もお半下仕事っていって、幼い女中さんや下男さんの仕事らしい。
最初は『お嬢様がお半下仕事など!』って止められたけど、大久保さんが『自分のものを洗う分には好きにさせろ』と言ってくれたので、しぶしぶ許してくれた。
ほんと、お嬢様ってことになってると、いちいちやることにも困る。でも、ただの迷子だったらなんで薩摩藩邸にお世話になるの?って言われちゃうから、さる武家のお嬢様を事情があって預かっている設定なんだって。
大久保さんがそうした方がいいって判断したのなら、それが一番いいんだろう。もともと、ただの迷子なのにお世話になってるわけだから、わたしが文句を言う筋合いじゃない。
その中で、できるだけわたしのやりたいようにさせてくれる大久保さんに感謝しなきゃ。
「必要以上に恐縮してたら、毒舌が数倍になって返ってきそうだけどね」
想像すると、笑いが漏れた。
大久保さんは頭がよくて優しくて情に厚い、細やかな気遣いのできる人だけど、それを指摘されることをすっごく嫌がる。
甘く見られてるって思っちゃうのかなあ?とにかく、自分は何もしていないが勝手にお膳立てができていた、仕方ないから乗ってやろうってことにしたがる人だ。
ああいうの、偽悪主義って言うんだろうか?それに気づいちゃうと、毒舌も子供っぽく見えてくるから不思議。
そんなことを考えながら一生懸命水を汲んでいると、後ろから知った声がかかった。
「こんなところにいらしたのですか」
それと同時に、桶をつるした縄がぐいっと引かれる。
「わ、!?」
「また、こんなことを……」
「今津さん?」
後ろから縄を取り上げているのは、今津さんだった。
藩邸で輸入関連のお仕事をしている人だ。偶然わたしがある程度の英語を読めると知られてから、こっそり文書の和訳を持ってきたりして、藩士さんの中では仲良くしてもらってるほう。
「自らの手で水を汲むなど、あなたのような方がされることではありません」
今津さんは澄ました顔でそんなことを言う。
う、うーん。この人ってちょっと何考えてるか分からないところがあるんだよね。今だって、お嬢様って設定の通りにしゃべってるのに、それを信じてる感じがしない。
そういうことにしておきましょう、という、なんというか暗黙の了解みたいなのが感じられる。
もしかして大久保さんが何か話してるのかとも思うけど、そんな話は聞いたことがないから、わたしはそれには触れずに返した。
「でも、わたしの家では自分でやっていましたから」
「水汲みまでしていたわけではないでしょう?」
「それはそうですけど……でもお世話になってるんですから、余計な手間はなるべく掛けたくないです」
「ご立派な考えだとは思いますが。あなたはもっと、頼って良いんですよ」
そう言うと、今津さんはするすると桶を上げて、水をタライに移してくれた。
「だ、だめです!今津さん、えらい人なんでしょう?水汲みなんてしちゃダメ!」
「それは、お嬢様であるあなたも同じでしょう?同じ駄目なら、男が汲んだ方がまだ見場がいい」
「うっ」
それはそうか。お嬢様が水汲んで洗濯なんて、周りから見たら不快なのかもなあ。
考えている間に、今津さんは二度、三度桶を落として、あとからすすぐ分まで水を確保してくれた。
「ありがとうございます!」
「女性の力では大変ですからね。お役に立ててよかった」
「すっごい、助かりました。二回目だったんで、ちょっと手首が疲れてきてたんです」
「二回目?」
不思議そうに、洗濯盥の辺りを見回す。
わたしも同じようにそこを見下ろして、ようやく、まずいものが置いてあるのに気づいた。
───ぎゃー!パンツ洗って置いたままだった!!!
「あ、わわ、これは!」
「……?」
「み、見ないでくださいっ!」
絞ったままでは形も分からないし、そもそもここにはパンツがないから分からないんだろうけど、やっぱり恥ずかしいよ!
慌てて敷いていた布でくるむと、察したらしい今津さんがくすくすと笑った。
この人も大久保さんと一緒で、相手の考えに聡い人だ。
でも、大久保さんが政治的というか、お仕事としてそういう能力を身に付けたっぽいのと比べて、この人は女性の扱いに長けてるって感じがする。
はっきり言ってしまえば、遊び人な感じ。たぶん、西洋人と接する機会が多いってこともあるんだろう、男の人が絶対的に偉いらしいここでは珍しく女性を立てる言動が目立つ。
そう。
わたしが最初に今津さんと会ったとき、今津さんの態度に思わず『レディファーストなんですねえ』とか言っちゃったから、英語や西洋の文化を知ってることがバレちゃったのだ。
まあ、和訳のお仕事はそんなに苦じゃないし、やることがあるのはうれしいんだけど……。
「あ、あの。なにかご用ですか?昨日お願いされた分は、まだいいんですよね」
「ああ、はい。昨日のものは次の取引までで構いません。そうではなくて」
「そう、じゃなくて……?」
「これを」
そう言って渡された包みを開けてみると、焼き色のついた四角いお菓子が出てきた。
こ、これは!これはどう見ても!
「クッキー?というか、ショートブレッド?」
バランスな栄養食で有名なあれとほとんど見た目は同じ。ちなみにわたしはチョコレート味が好き。
こんなものもあるのか!と驚いていると、今津さんも驚いた顔をした。
「いつもながら、あなたは異国の文化に造詣が深いですね。見ただけで名前まで当てるとは」
「あ、いえ、造詣というわけでは……」
「仕事関係で手に入ったので差し上げようと思ったのですが、あなたには珍しくもない菓子でしたか?」
「いえっ!確かに食べたことはありますけど、今は手に入らないからすっごくうれしいです!」
「それはよかった」
せっかくの厚意を無にしちゃったかと慌てたけど、優しい答えが返ってきたので、ほっとしてもう一度それを見る。
とたんに、渋い顔をするイヤミ大魔王の顔が浮かんだ。
「あ……でも。大久保さんに内緒でもらったら、怒られちゃいます」
大久保さんは、わたしが他の人から何かもらうのをあまり歓迎しない。
よくわからないけど、預かっている武家の娘が簡単に心付けを受け取るようでは、示しがつかないんだって。
お菓子ももらえないなんてお嬢様って辛い、と内心しょんぼりしながら返そうとしたら、それを見抜いたらしい今津さんが小さく吹き出した。
「大丈夫。大久保様には許可をもらってありますよ」
「えっ!本当ですか!?」
「はい。だから遠慮などせずに」
「あ、ありがとうございます!」
うれしくて跳ねるように頭を下げると、もう一度声を立てて笑った後、今津さんは少し声を潜めた。
「しかし。前からお聞きしたかったのですが、あなたは大久保様の許嫁、もしくは恋仲なのですか?」
「……は????」
い、いいなずけ?それってあれだよね?フィアンセってやつだよね??
固まるわたしに、小さく首を傾げる。
「いつも、大久保様の顔を潰さないよう気を遣ってらっしゃる。大久保様も、あなたをとても気に掛けておられますし」
「そ、それは」
「正直に言うと、あの大久保様が女性に対してあのような丁重な扱いができるとはと、日々驚いているのです。
ああいえ、悪く言う訳ではありませんが、今までは……そう、女性を文鎮のように考えている節がありましたので」
「っ、!」
思いっきり悪く言っているそれに、わたしは思わず顔を背けた。
やばい、笑ってしまう。文鎮!ぶんちんだって!それ人じゃない、でも当たってそう!
「だから、あなたをあんなに大切にしているのが、目について仕方ないのです」
「そ、それは、そうでしょうね……」
肩が震えてしまいながら、わたしはようやくそう答えた。文鎮がツボに来ちゃって、まともな受け答えができない。
でもそうでなくても、大久保さんがどういう経緯でわたしの面倒を見ることになったか、とか色々説明できないこともあるし、第一なんであんなに面倒を見てくれるのかなんて本当にわからない。
しばらくしてようやく爆笑の衝動を収めたわたしは、今津さんに向き直った。
「許嫁なんかじゃない、ですよ?許嫁だったらお世話になっても不思議じゃないかもしれないけど、そうじゃないのに……
何の由もないのにあんなによくしてもらっていますから。迷惑にならないよう心掛けるのは当たり前です」
「親類縁者でもないのですか?それはそれは。ますます奇妙ですね」
「奇妙……でもないような?大久保さんって、実はすっごく気を遣いませんか?表向きはあんなイヤミ大魔王ですけど」
「そう、それですよ」
「それ?」
「普通、いくら良家の方でも、女性が大久保様をそのように遠慮なく語れません」
「……!」
「しかもあなたは、大久保様と口論されることも仕事部屋に入ることも、共に食事を取ることさえ許されていらっしゃる。
大久保様の立場が重要度を増しているこの時世、藩主や家老の姫君か内親王でもないとなかなか難しいことです。
ならばそうなのかと思えば、御位が高貴であられるような態度は全くありませんし」
「うっ」
内親王ってなんだっけ?藩主の姫君っていうのは、藩で一番えらい人の娘だよね。
やばい。なんかすっごいぼろが出てる……。
お、大久保さーん!
「───まぁ、実際そんなことはどうでもいいんですが」
「へ?」
おろおろと困り果てたわたしに、今津さんはあっさりと追求を止めた。
「大久保様に女性の大切さを教えたような方が、誰の許嫁でもないというのは、喜ばしいことです。
私にも……そう、『チャンス』があるのかと思えるでしょう?」
「チャンス?なんのチャンスですか?」
そう言うと、言葉の意味を分かってくれるのが嬉しいみたいに笑って、今津さんはするりとわたしの髪を梳いた。
「勿論、西洋の文化にも言葉にも詳しくて、私の仕事をも厭わない、可憐な妻を娶るチャンスですよ」
「はあ……」
よく分からないけど、お嫁さんを捜してるってことかな?
今津さんみたいな人だったら、奥さん候補なんて掃いて捨てるほどいるんじゃないのかなあ。
顔がよくて女の人を立てるってだけでモテそう。藩邸でもえらい方みたいだし。
「今津さんなら、選び放題なんじゃないんですか?」
そう訊くと、今津さんはちょっと苦笑して、口元を手で覆った。
「遠回しな求愛は、通じない……か」
「??なにか言いました?」
「いえ、なんでもありません。ところで、気になっていたのですが……それは半次郎くんのものですか?」
「え?なんで分かるんですか?」
わたしの握りしめている手ぬぐいを指した今津さんに、驚く。
色とか柄でなにか分かっちゃうんだろうか?あ、どっかに紋とかあるのかな。
広げて見ても、それらしいものはないみたいだけど……?
「前に見たことがありますから。それは彼が故郷から持ってきたもので、お姉さんが染めたものだそうですよ」
「ええっ!?」
ちょ、故郷のお姉さんが染めたって!それすっごい大事なものなんじゃ!?
思わず青くなる。そんな大事なもので、鼻冷やしちゃった!
「や、やばい……早く洗って返さないと!」
「ああ、それを洗おうとしていたのですか」
「そうなんです。そんな大事なものとは知らなくて……えっと、普通に洗って大丈夫なのかな?」
「これなら大丈夫だと思いますよ。干す時は陽に当てない方がいいですね」
「陰干しですね!分かりました、ありがとうございます!」
きりきり洗うぞー!と気合いを入れて洗濯盥に向かおうとして、ふとあることを思いついた。
そうだ、これ返す時にクッキー持っていって、半次郎さんと一緒に食べよう。
きっと食べたことないよね?おいしいって言ってくれるかなあ。それとも、微妙な顔をして『もそもそしもそ。不思議な味やっが』とか言うのかな。ふふ。
「あ、今津さん。このクッキー、他の方と一緒にいただいてもいいですか?」
そんなことを考えながら訊くと、今津さんは肩をすくめて頷いた。
「ええ、構いませんよ。楽しんでらっしゃい」
「ありがとうございます!……ん、楽しんで?」
「では、私はこれで。英文訳の方、お願いしますね」
「あ、はい!」
手を振って、わたしは優雅に歩いていく今津さんを見送った。
「なるほど。どちらかというと、敵は大久保様ではなく半次郎くん……ですか」
笑いを含んだ小さな呟きは、わたしの耳には入らなかった。
◇ ◇ ◇
「よし!やっと乾いたー!」
その後、洗った手ぬぐいを陽に当てずに乾かすのに、意外なくらい時間がかかった。
家にいれば乾燥機とかアイロンで一発なんだけど、そうもいかない。……実はこの藩邸にもアイロンはあるんだけど、それは炭火を入れた鉄のお鍋みたいなもので、当然温度調節とかはできない。
人様の大事なものを高熱にさらすのはちょっとあれだし、慣れない道具で失敗するのも怖かったので、手持ちのタオルで挟んで板でぎゅうぎゅう押したり、うちわで扇いだりしてみた。
うん、しわもかなり取れていい感じ。
これなら安心して返せそう。
そう思って、わたしはきれいにそれを折りたたむと、お菓子の包みと一緒に持って部屋を出た。
「えーと。この時間だと、もう庭にはいないよね」
もうだいぶ日が傾いた時間で、鍛錬するには暗い。
この時間でも半次郎さんならなんなく見えてしまうんだろうけど、暗くなると藩邸の警備が厳しくなるから、普通は鍛錬はしないみたい。
今日は稽古を見逃しちゃったな、と考えながら廊下を渡って、半次郎さんの部屋まで行く。
外から声を掛けると、すぐに半次郎さんが出てきた。
「こんばんは!今お時間ありますか?」
「お嬢さぁ?いかがされもした」※お嬢さん?どうなさいました
「ちょっと、渡したいものがあって。入ってもいいですか?」
そう訊くと、半次郎さんは少しだけ戸惑ったような顔をして、でもわたしが疑問に思う前に部屋に入れてくれた。
「えっと、これなんですけど」
下げてきた風呂敷から手ぬぐいを出して、ぺこりと頭を下げる。
半次郎さんはああ、と納得したみたいに頷いた。
「お借りしてた手ぬぐい、お返ししますね。ありがとうございました」
「別に、いつでんよかじゃって」※別に、いつでもよかったのに
「そういうわけにはいかないですよー」
「そいに、こがん綺麗にあるってもろて……ごやっけさぁござした」※それに、こんなに綺麗に洗ってもらって……お世話を掛けました
「いえ、わたしこそ。大事なものをお借りしちゃってすみません」
「大事な?とは?」
きょとん、とした顔で聞き返されたから、わたしは今津さんから聞いた話をした。
半次郎さんが、途端に苦笑いする。
「今津さぁもやっけなこっゆど……お嬢さぁに気ぃ遣っせてどげんすっとか」※今津さんも困ったことを言う……お嬢さんに気を遣わせてどうするんだ
「あ、気を遣う、とかじゃなくて」
あわてて手を振って、わたしは適当な言葉を探した。
別に気を遣ってきれいにしたわけじゃない。確かに申し訳なくは思ったけど、埋め合わせのために洗ったんじゃない。
んー、この場合なんて言えばいいのかな?
「うーん……あ、そうだ!うれしかったんです!」
「うれ、し?」
「はい!半次郎さんがそんな大事なものを貸してくれたことも、それを雑に扱わないように今津さんが教えてくれたのも」
「…………」
「だから、一生懸命洗って、できるだけきれいに乾かしてきました!」
「……あいがとござおいもす」※……ありがとうございます
「どういたしまして!あ、それからこれ、さっき今津さんにもらったんですけど」
思い出して、わたしは風呂敷からクッキーを取り出す。
「これ、クッキーっていうんです。西洋のお菓子。実は、わたしの故郷にも同じお菓子があったんです!」
「じゃっとな。そいはよかした」※そうですか。それはよかった
「半次郎さん、一緒に食べましょう!」
そう言うと、半次郎さんはものすごく驚いた顔をした。
「お、おいと?ないごておいと?」※お、俺と?どうして俺と?
「ん?どうして、って。甘いもの苦手でしたか?」
「い、いや、きれじゃねが……じゃっどん、そげんたしねもんもろっ訳には」※い、いや、嫌いじゃないが……でも、そんなに貴重なものをもらう訳には
「たしねも?うーん、わかんないけど、大丈夫です!今津さんにはちゃんと許可をもらってきました」
「…………」
胸を張ってそう言ったんだけど、半次郎さんは目を丸くしたまま。
あれ。なんかまずかった?
ちょっと心配になって、わたしはおずおずと差し出した手を引っ込めた。
「あの、だめですか……?」
なにかまた、おかしいことをしちゃったんだろうか。
思わず肩を縮こまらせて見上げると、それを見た半次郎さんが、視線を横にそらしてため息をついた。
「まこてわいなもぜらしち困る……おいにどげんしょと……」※本当に君は可愛くて困る……俺にどうしろと……
「え?」
今、なんて言ったの?本当に、困る?どうしろと?
あ!もしかしてわたしから人にあげるのもダメだった?それとも、外国のものは食べられないとか?
「あ、あ、ごめんなさい。食べられないものでした?だったら別にっ」
「んや、そうじゃね。なら……一緒にたもっかい?」※いや、そうじゃない。じゃあ……一緒に食べようか?
「は、はい!じゃあ、せっかくですから大久保さんにもらった紅茶淹れて、ティータイムにしましょう!」
「てぃー、たいむ?」
「お茶の時間、っていう意味です!」
半次郎さんが一緒に食べようって言ってくれたことが嬉しくて。
わたしは弾かれたように立ち上がると、お茶を用意するために勝手処へ急いだ。
クッキーを一口で食べてしまって、口の中が大変なことになった半次郎さんが、『もそもそしもそ……』と本当に呟いて笑いが止まらなくなるまで、もう少し。
つづく?
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