「おまえは、あたたかいな、神子」
半ば独り言のように呟く。
彼の胸のあたりをつかんで何か言いかけた少女は、きょとんとしてそれを見た。
「なんですか?急に」
言おうとしたことも忘れて、首を傾げる。
「いや、意味はない。ただそう思っただけだ」
「そんなに体温高いですか?普通ですよ?」
「……そういう問題ではない。おまえは最初からずっと、あたたかかった」
「最初?」
問い返してから、ふと口をつぐむ。
彼が悲痛な過去を思い出しているのではないか、と、心配になったから。
けれど、そのときの言葉はそれを感じさせるものではなくて、むしろ穏やかな倖せを確認するような響きだった。
「……せんせいだって、あったかいですよ」
服に絡めていた指を軽く押すと、確かに感じられるぬくもり。
彼の表情が、わずかに綻んだ。
「私のもつ温みは、すべておまえからもらったものだ。
私がおまえの半分ほどの背丈しかなかったあの時から、ずっと」
音も立てずに頬に口づけられ、少女は頬を染めて俯いて。
それから、はっと気づいたように顔を上げ、不機嫌そうな表情をつくった。
「せんせい。それって、わざとですか?」
答えはない。
少女はむーっと頬をふくらませると、先ほどから抱き上げられたままの浮いた足をばたつかせた。
「どうせ私は背が低いです!だからってそんな、荷物みたいに片手でひょいひょい抱えないでください!」
「棚に届かないというから、持ち上げているだけだ。気にすることでもあるまい」
「うそだ、せんせい、わざとやってる!私の反応を楽しんでるんでしょう!?」
頬どころか顔まで赤くして、じたじたと足掻く彼女に。
彼は今度こそはっきりと笑みを浮かべて、小さな声で囁いた。
「答えられない」
END. |