うっすらと瞳を開けると、すぐ傍に彼の顔があった。
空が白む寸前の時刻。もともと朝の弱い彼は、今、まさに熟睡している時間だ。
気怠い腕を伸ばし、共有している掛け物をひっぱり上げて頭までかぶると、そこは二人だけの小さく暖かな空間になる。
「……平、知盛」
たった5日前には隣の自分を神経質そうに疎んじていた彼が、小さく呟いた声くらいでは目覚める気配はなくて。
刀の鍔でも鳴らせば起きるだろうか、と思って、私はくすくすと笑い声をたてた。
愛しいと思う。
もともと敵同士で、目的が同じだから同行しているだけ。とても仲間だなんて言えない。それどころか、私は今までに何度も彼を殺めている身だ。
この時空でたまたまこのような関係になってもそれは行きずりに近く、甘やかな恋愛という言葉には程遠い。
けれど。
恋しくも好きでもないけれど、いとしい、とは思う。
この先、もし戦地で出逢えば、私はやはり彼を斬るだろう。それぞれの護るものをかけて、刀を交わすだろう。
戦場で戦わない、という選択肢は、戦神子である自分の中にはなかった。
もしかしたら、それを変えることはできないのかもしれない。なにより知盛がそれを願っているのだから、それ以外の生を彼に教えるなど可能だとは思えなかった。
それでも。
「今、指で触れているこのあなたと、共に生きる道があるなら」
私は手を伸ばして、頬にかかった彼の髪を柔らかく掬った。
「それが、私の運命」
どこか別の時空の知盛ではなく、十日に満たない日々を共に過ごし、怒り、笑い、交わりあったこの男と生きる道を、私はきっと見つける。
自分も彼も、源氏も平家も犠牲にしない、唯一つの道をみつけてみせる。
それが、運命を切り拓く力を持った自分の使命だと決めたから。
「……バカな犬ほど可愛いっていうけど、あれって本当なんだ……」
堪えきれず笑いながら彼の頬をつねると、何も知らずにねむる知盛は少しだけ眉を寄せて、布団を手繰るように無造作にわたしを抱き寄せた。
END. |