長い髪がさらさらと音を立てて流れるのを、私はぼうっと見つめていた。
本当に綺麗としか言いようがない、絹糸のような髪。薄く青みがかった藍白色のそれは朝日に透けて白銀に輝き、物語の王子様が戴く王冠を思わせた。
「ほんと…、王子様、みたい」
きしりとベッドをきしませて頬杖をつきながら、独り呟く。
すうすうと軽い寝息を立てる彼を起こさないように、私はそっとその髪をすくい上げた。
つややかで長い髪、今は隠されている琥珀の瞳、気品のある顔立ち。俗気ない所作。
元は神様なのだから当たり前かもしれないけれど、人となった今でも、彼は十分に神々しい気に包まれている。
雑踏の中で手を離してしまった時でも、彼の姿はすぐに見つけることができた。輝くような神気が見えるから。
「もと龍神と神子だから、……なのかもね」
くすくすと笑いながら梳いた髪をシーツに落とすと、その弾みで彼が小さく身じろぎをした。
起こしてしまったか、と首を竦めたが、それ以上動き出す気配はない。
深い眠りに落ちている姿に、一緒に床に入っても眠ることはなかった頃の彼を思い出して、私は笑いが止まらなくなった。
あの頃は、朝起きると必ず、柔らかく笑う彼が自分を見つめていて。
瞳を開いた途端、優しい言葉と口づけが額に降りていた。
夢路の禍気を清めるためと聞いてはいたけれど、儀式のようなそれにも紛うことのない愛情が感じられて、いつも嬉しくて少しだけ切ない気持ちになったものだ。
あの時の彼は、私ひとりだけの王子様ではなかったから。
「……こんな寝顔が見られるようになったのは、すごく嬉しいけど。でも、いくらなんでも寝過ぎかなぁ」
しばらくそうやって想い出に耽った後、私は壁の時計を見上げて首を傾げた。
無理に起こすのは可哀想だけれど、そろそろ起きないと外出する時間がなくなってしまう。
せめて気持ちよく起きられるように、窓をいっぱいに開けて紅茶を用意してから、私はそっと彼の額にキスをした。
ゆっくりと開く瞳に、あの時の自分のような幸せを感じてくれているだろうか、と考えながら。
「おはよう、わたしの王子様」
END. |