別に、気になんかしていないわ。
少女はむかむかする胸をなだめながらそう思った。
オスカーに複数の恋人がいることは知っていたし、だいたい自分にはなんの関係もないこと。むしろ、わがままを言ってほかの約束を破らせそうになった自分が悪いのだ。
少女がどんなお願いをしても、彼はいつも苦笑しながら叶えてくれる。
だから、それに甘えている自分が悪いのだ。守護聖として女王に仕える身であることを逆手にとって、無理を通している自分が……。
守護聖として彼はいつもそう言っていた。彼女が彼に惹かれるたびに、それを察したかのように。彼女の気持ちに釘をさすように。
少女が女王候補であったときも、そうでなくなってからも。
そして彼女が困った笑顔を見せると必ず言うのだ、『お嬢ちゃんはまだまだお子様なんだな』と。
だから、ポーカーフェイスばかり上手くなった。どんな事があっても決してうろたえず、にこっと笑って話を外す。
女王が決まり、どうしたらいいのかわからず相談しに行ったオスカーに突然『おめでとうございます陛下』と言われてさえ、少女は取り乱しはしなかった。
ただ、オスカーが自分をなんとも思ってなくて、女王として即位することを喜んでいて、これからは自分に仕えるのだということに違和感を覚えた。
哀しくはなかったけれど、もう今までみたいに会えないのがさみしくて。
平然としているオスカーを見るのがせつなくて。
どうしても、他と同じには扱えなかったわがままだと分かっていても。
「ごめんなさい」
小さく、少女は呟いた。
「名前は言えないんです。あの、ちゃんとした訳はあるんですけど……」
「それも言えない、ということですか」
「……はい」
兵士は彼女を持て余したように眺め、指で机を叩いた。
その気持ちは分かる。客観的に見て、自分はどうにも対処しようのない客だった。
名前も言えない、身分も言えない、おまけに何の用事で来たのかも確かではない。そんな状態で信じろという方が無理な話だ。
「……とにかく、あなたの身元を保証できる人はいませんか。きちんと素性の知れた人で、ですよ」
「あ…それなら」
少女は顔を上げ、兵士を見返した。
「もうすぐ来ると思います。もともと一緒だったんですけど、私は一足先に」
あれ、と自分の言動に疑問を感じる。彼は今ごろ先約を果たしているはずだ、来るはずがないではないか。
来るはずが、ない。自分は彼の恋人でもなんでもない、ただの職務上の上司にすぎないのだ。なのにどうしてこんなに信じ切っているのだろう。
他の約束を捨てて来てくれなんて……言う権利なんかないのに。
「たぶん軍には知られている方だと思いますので、少し待ってもらえますか」
「本当でしょうね。素性が確認されるまでは解放できませんよ」
疑わしげな兵士にはい、とうなずいて、少女はドアの方を見た。
わがままなのはよく分かっている。彼が守護聖としての使命感で自分に付き合っているのだということも。
でも、それがこの地位のためだというんなら、女王の座だって捨てたものでもないじゃない?
うふふ、と思わず漏れた笑いが、兵士の目を奪った。
おわり。
うふふ……片想いが二人ですか。
オスカーを思い通りにできる、という点にのみ女王の価値を見いだしているところがスゴイです。ここまで来たらあっぱれだアンジェ!
でもオスカー、マヌケですね。自分が仕掛けた罠に自分でハマってやんの(笑)
まあ自業自得でしょう、アンジェを他の女性と同じ手で落とそうというのがまず不見識なんだよ……自分がアンジェを特別視してることに気づいてないんですね。ただ落とせなかったんで気になってると思ってる。
女の子になつかれて悪い気はしないよな、しょうがない、とか。
他の約束を破棄してまで、という疑問は今んとこ持たないようです。おボケ……。
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