「………? 落ち着きましたか?」
「はい……。ごめんなさいルヴァ様、服が汚れてしまいました」
は恥ずかしそうに顔を赤らめて、涙で濡れた私の服をタオルで拭いています。そんな仕草が何とも可愛くて、私はつい顔をほころばせました。
「いいんですよー。それにしても、人間ってこんなに泣けるものなんですねぇー。
少しはすっきりしましたか?」
は私を見つめ、いつもの元気な笑顔を見せました。
「はい! …忘れることは出来ないけど、あしたはちゃんといつもの私に戻れます。
大丈夫ですルヴァ様、私、がんばって女王を目指しますから!」
「…………え?」
うんうんと頷きかけて、私は思わず問い返してしまいました。
「あ、あのー……、?」
……これはひょっとして、暗に断られている…ということなんでしょうか。それとも私の表現がまずくて、気持ちが伝わっていないのでしょうか?
混乱する私を後目に、はベッドを降り窓のカーテンを開けました。
「必ず、立派な女王になってみせます。それがあの人との、最初で最後の約束なんですから……」
私は、その言葉に胸の痛みを感じました。彼女の気持ちはまだ、彼に向けられているのですね……。
以前同じ痛みを感じたとき、私は彼女の質問に一般的な視点で答えました。自分自身の想いに気づいていなかったのです。
あれがのためになったかどうかは判りませんが、あのことがあって以来、私はから目を離せなくなりました。
ひたむきな目をして、必死で私に問うてくる、栗色の髪の少女……。
……しかし。やはり私などでは、彼女の心はつかめないようでした。
「ですから。ルヴァ様?」
「……はい」
窓を背に振り向いたの表情は、射し込む陽の光でよく判りません。
が、これから何を告げられるかと思うと、その方がいいような気さえしました。
「……追いかけて、くださいね?」
「は?」
微かに見える彼女は、聖母のような微笑みを浮かべています。
「私のことが好きなら、女王になったって聖地を去ったって追いかけてきてくださいね。私を好きにさせる気が…あるのなら」
私はその時、優しげな運命の女神の横顔をかいま見たような気がしました。
「………え、ええっと。…わ、私のような者でよかったら……あの、その、
あなたを……支えることができるように、努力しますから。……」
何が言いたいのか、何を言ったらいいのか自分でもさっぱり判りませんでしたが、
ただ一つ、が私にチャンスをくれたことだけは理解できました。
輝く天使が織りなす天国への扉を、開けることができたのでしょうか……?
FIN. |