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  超あまあまゼフェルさま 

「……?どうしたのですか、こんな夜更けに」

陽も落ちた公園で、ルヴァは走ってきたに出会った。

「ルヴァ様、こんばんは!実は自分の部屋に忘れものをしちゃって…」

明日いる書類なのにバカですよね、と頭に手をやる彼女の言葉じりを、ふとルヴァがとらえる。

「『自分の部屋に』? …あのー、それはどういう……」

とたんに、少女はしまったという顔で赤面する。その様子を見て、ルヴァはなるほどと微笑を浮かべた。

「相変わらず仲がいいですねぇ。最近忙しくてゼフェルには会っていませんが、元気でしょうか」
「………………はい」

耳まで真っ赤にした少女を、ゼフェルに向けるのと同じ暖かな目で見つめる。

本来なら、試験中の女王候補が夜に外出、しかも特定の守護聖の部屋に行くなど、許されることではない。あのジュリアスなどが知ったら、何日間かの説教とそれなりの処罰は免れないだろう。
ただ、女王からは試験中の候補について極力干渉しないように言い渡されており、二人がこれ幸いに試験に対して不正を行うはずもないことは分かりきっていたので、ルヴァや一部の人間は若い二人の行動を見守る立場にあった。

それにルヴァには、少女の存在がゼフェルにとって必要なものであるとも思える。
反抗的で、粗野で乱暴。誰にも心を開かず反発するだけだった彼が、と共にいるようになって不器用ながらも気持ちを表現することを覚えた。
ルヴァはそれだけで、少女の秘められた力を感じる気がするのだ。春風のように穏やかで、暖かな天使の力を。


「………でも」

ルヴァと共に噴水のほとりを歩き始めてから、彼女は顔を曇らせた。

「ゼフェル様、この頃何だか落ち着かなくて…ちゃんとノックして入ったのにいきなり入ってくるなとかおっしゃるし、どこかそっけないし……」

本気で心配そうに眉をひそめる。ルヴァは何となくそら可笑しいものを感じて苦笑した。

「大丈夫ですよ、ゼフェルがそっけないなんていつものことじゃありませんか。
 あのゼフェルが笑顔でなついてきたら怖いでしょう」
「え…でも、私といる時はいつも……」
「怖くて悪かったな」

そのとき前方から声がして、当のゼフェルが現われた。今の会話を聴いていた様子で、頬のあたりがひくひくと動いている。

「あ……ル、ルヴァ様、ではこれで」
「は、はい、気をつけて帰ってくださいね〜」

さっさと先に行ったゼフェルを追いかけ、は駆け出した。

 

◇     ◇     ◇

 

「………………」
「………あの……ゼフェル様?」

館につき、部屋に入っても、ゼフェルは口を開こうとはしない。
はいつ雷が落ちるかと気が気ではなかった。が、ゼフェルはボスンとソファに座ると、少女をじっと眺め見た。

ゼフェル」
「え?」
「ゼフェルって呼べって言っただろうが。なんで呼ばない?」
「え…だって……」
「なんでオレに黙って外へ出たんだ。独りじゃ危ないって言わなかったか」
「あ…面倒かけちゃいけないと思って……」
「そんでルヴァに送られてきた訳か」

どうやら、ゼフェルはその辺のもろもろのことに対してごちゃまぜにすねているようである。
は込み上げてくる微笑を隠して、少しうつむいた。

「ごめんなさい…でも、ゼフェル様はお忙しそうだったし、私がじゃましててその上……」
「ゼフェル!」
「ゼ、ゼフェルも疲れてるんでしょう?もうお仕事はやめて休んだほうがいいと思います」
「別にやりたくてやってる訳じゃねぇよ」

ゼフェルはそっぽを向いて、小さくつぶやいた。

「……ただ、オレがさぼってておまえのせいになると、駄目だからよ。しょうがねえだろ」

紅い瞳が所在なげに動いている。不意に、彼はすっくと立ち上がった。

「あーっもう! ぐじぐじ悩んでんのは性に合わねえ!!」

言うが早いか、ポケットから可愛くラッピングされた小箱をとりだし、に向かって投げつけた。

「きゃっ! …ゼフェル様、これ…?」

それは、ゼフェルにしてはかなりハイセンスの、銀色に光る指輪だった。

「ヒマだったから。それだけだかんな、それだけっ!」

ゼフェルの造ったに違いないそれとゼフェルを、ははじめ何度も見比べて、それから極上の笑顔で応えた。

「ありがとうございます、ゼフェル様!」
「ヒマだったからだっつってんだろうが。…うわっ、泣くなよこんなことで!
 ったく…おら、こっち来い!」

うっすらと浮かんだ涙を拭う間もなく、はゼフェルの腕の中に抱き寄せられていた。

「ちゃんとオレの言いつけを守らねぇやつは、知らねぇからな。……」

言葉とは裏腹に、ゼフェルの表情は優しかった。

……」


「………だーかーらー、なんでおまえはいつも目ぇ閉じねーんだよ。こっちが恥ずかしいだろぉー!? 」
「だ、だって、ゼフェル様いつも突然……」
「うっせぇ、文句言うまえに様やめろ!やめるまではこの手を離さねーからなっ!」
「…………」

だったら一生いわない、と言ったら、ゼフェルはどんな顔をするだろうか。
きっと真っ赤になって、ばかやろうを連発するに違いない。
くすくす笑うの唇を、ゼフェルの指が軽くふさいだ。

「その指輪…好きな指にはめて構わねぇからな……」

FIN.

あとがき