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 黄金色の花束を抱いて 1 

青年は、守護聖になるべくしてなった人間ではなかった。


「新女王万歳!!」
「女王陛下に栄光あれ!」
「宇宙に永遠の平和と幸福を

即位の祝典を目前に控え、主星の広場に集まった大勢の民は口々に女王を讃えあっていた。
叫びは奔流となり、宮殿の奥で瞑想していた彼の元へも届く。

「…………」

彼はうっすらと目を開け、暗い室内で闇を見つめた。そして不意にそばの水晶を引き寄せ、ためらいつつ手をかざした。
ポゥ…と柔らかな光が彼を照らす。
そこには、新しくこの宇宙を統べることを定められた少女がいた。
その表情は硬く、試験開始時よりわずかに大人びてはいたが、明るく輝く瞳と不思議な暖かさはそのままの少女。

「…………」

今さらに、青年はその映像に引き込まれた。

彼が、試験の行われた飛空都市の湖畔で告げたことについて、彼女はついに答えを返してはくれなかった。
それが何故なのか自分には判る。だからこそ即位の儀も式典も、何も言わずに参列してきたのだ。重く沈んだ心を抱えて、相反する光の守護聖が声高に即位を宣言するのを聞きながら。
このまま黙っていてもよかった。いや、そうするべきなのかもしれない。
ひとりの人間としてではなく守護聖としてなら、気持ちを押し殺して振る舞うこともできるだろう。

……もうずっと昔の、あの時と同じように。

青年は小さくため息をつき、ゆっくりと席を立った。

 

◇     ◇     ◇

 

そのころ宮殿の最奥では、女王補佐官が祝典の準備に追われていた。

「祝典自体は形式的なもので、実際は民へのお披露目ですから、そのつもりでいて下さいね」

明晰な声が、目の前の少女をうながす。

「うん…でも、その方が緊張するなあ。トチったりしたら大ハジよね」

友人でもあった補佐官に対して、少女は未だに言動が改まらない。
補佐官はやれやれといった風に肩をすくめた。

「女王陛下がそんな弱気でどうするんです。もっとしっかりしていただかなくては困ります」

その言葉に少し力なく頷きかけて、少女は突然弾けたように立ち上がった。

「陛下?……どうされたんですか!?」
「ごめん、ロザリア! ちょっとだけ、少しの間だけひとりにして!」

言い捨てると、少女は後ろも振り返らずに部屋を飛び出した。
彼女には予感があった。試験中何度も何度も交わされた、祈りと願いの波動。
女王となったいまでもそれはかつてと同じ、いやそれ以上の強さで彼女の心を惹きつけた。


少女は振り返らなかった。それがただ一つ残された希望であるかのように。

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