ぼやけた頭が最初に認識したのは、綺麗にネイルケアされた指だった。
私、こんなにきれいな爪してたっけ・・。
程良く整えられた爪と肌の白さが美しい。いつもよりきめも細かい気がする。
指輪の広告にも出られそうよね、と、いささか変なことを考えたとき、その指が妙な動きをした。
自分では動かしたつもりはないのに、ぴくりと身じろぎをすると、そのままするっとブランケットを抜け出たのである。
それで、アンジェリークは一気に目覚めた。
「〜〜っ!セイラ……!」
藍色の髪を頬に流し、枕に半分顔をうずめて眠る彼。それに加えて、布片の端からのぞく裸体に、アンジェリークは目を見開いた。
「なっ…なっ……」
言いかけて、自分も裸なのに気づく。思わずブランケットを引き寄せると、それにつれてセイランの身体が露出した。
「きゃっ」
あわててそれを隠し、また自分の方に焦る。それを数回繰り返したあとで、やっと少女はブランケットの端を掴んで落ち着いた。
なんで…なんでセイラン様が、私の部屋に……!?
体は落ち着いても、頭はパニクったままである。周りの風景が違うことすら気づかない。
えっと、なんだっけ。昨日……どうしたんだっけ?
ふるふると頭を振ると、腰の辺りが僅かに疼いたが、そんなことには構っていられない。アンジェリークはどきどきしながらそっとセイランを見た。
長いまつげと、整った容貌。枝毛ひとつないようなサラサラの髪。
いつもは冷たさを感じるそれぞれが、今はあどけなくまどろんでいる。
少女は一瞬状況を忘れ、くすりと思わず微笑んだ。
「セイラン様……眠ってると、なんか可愛いなぁ」
「何か言ったかい?」
突然かけられた声に、アンジェリークはびくりと肩を揺らして竦んだ。
セイランが不機嫌そうに起きあがり、少し乱れた髪をうざったげに掻き上げている。
「セ……っ」
「何か、不愉快な言葉が聞こえたけど」
「い、いえっ。なんでもありません」
素早くアンジェリークは否定した。すでに条件反射になっているのかもしれない。
そんな彼女に、セイランはいつもよりきつい笑みを向けた。
「ふうん。君は起きて寝言を言う癖があるみたいだね。それともまだ寝ているのかい?」
言いながら、少女の方に手を伸ばす。その時になってやっと自分が裸であることを思いだした少女は、はっとブランケットを持つ手を握りしめた。
「やっ……、セイラン様……っ」
強い力で引き寄せられ、青年の胸に寄りかかった途端、背中と腰に細い指の感触を覚えた。
「やだ、っ…あ…!」
ついっと撫でられた肌が、過敏に反応する。アンジェリークの叫びに昨夜の名残を感じ、セイランは薄く微笑んだ。
「……ずいぶん……敏感になったみたいだね。背中に触れられただけでそんなイイ声をあげるなんて」
瞬間、アンジェリークはかあっと顔を赤らめ、セイランにぎゅうっとしがみついた。
まだ記憶ははっきりしないが、この雰囲気は覚えている。逆らえない。
アンジェリークがそれ以上抵抗しないのを見ると、セイランは彼女のあごを片手で持ち上げ、深く口付けた。
進入してくる舌に答える術を、すでに少女の身体は覚えてしまっている。
「ん…む、……んん……」
瞳を閉じた裏に、藍色の輝きがまたたく。
横たわった自分の上で、白い肌に散っていた髪あられもなく広げられた両足にかかり、裏返しにされた背中をくすぐり、幾度となく頬に落ちたそれ。
思い出して、アンジェリークはぴくんと背を反らせた。
「……うっ……ん、…セイランさまぁ……」
わずかに唇を離されると、熱い吐息が漏れてしまう。
セイランは満足げに表情をゆるめ、今度は触れるだけのキスをした。
「どうやら、君も理解したようだね。もう逃げられないって」
「……セイラン様から逃げるつもりなんて、ありません……」
恥ずかしげに頬を染めながら、アンジェリークは答えた。
「わたしは、セイラン様のものです」
青年が少女を眩しく思うのは、こういう瞬間である。
信頼されていながら、強引に少女を犯したのは昨夜のこと。その後もなかば無理矢理に行為を続ける彼に、少女は涙をこぼして許しを請うた。
苦しい、もうできないと泣きつかれても、彼は決してやめようとしなかった。
彼女がとうとう気絶してしまうまで。彼女の体に自分が刻み込まれるまで。
それはつい数時間前まで続けられていたというのに、今はもう笑ってそんなことが言える。
以前なら媚びとしか取れなかっただろうその態度は、しかしセイランの心を安堵で満たした。
「……ふぅん」
見た目は面白くもなさそうに呟いて、セイランは再び少女を抱き寄せた。
するりと指が滑って、胸の膨らみに触れる。
「あっ……!」
「君は、僕のもの、か。じゃあ僕の好きにしていいんだね」
汗の痕が残る肌をひねるように刺激すると、アンジェリークはぎゅっと瞳を閉じた。
「んっ……あ…ああっ!」
先端をこねくり、きつく摘むかたわら、耳に舌を這わせる。
「そんなに叫ぶほど気持ちいいの? いやらしい子だね」
くすくすと笑いながら、吐息とともに囁かれる陵辱の言葉。
それが何よりも少女を追いつめることは、彼女自身が一番よく知っている。
「はぁ……あ、セイラ…さま…、あぅ……」
「なに? 脚をもじもじさせて、どうしてほしいんだい?」
「……っ!」
言われて、無意識にすり合わせていた膝を離す。
その間隙をついて、セイランの手が脚の間に滑り込んだ。
「ひああっ! ……あ、ああっ、やぁ……!」
くちゅくちゅと粘った音が聞こえる。しかし指は入り口を浅く撫でるだけで、内部にも尖りかけた突起にも触れようとはしなかった。
「あぁ……ん、はあっ……だめ…そこっ……」
「ちゃんと言わないと、このままだよ」
「いやぁぁ………」
中途半端に煽られる快感に、アンジェリークは泣きそうな声をあげた。
普段の彼女には決して見ることのできない、甘えた媚態。
「いや、……あう…あ……はやっ、……ああっ!」
一度だけ深く突き上げられる手応えに、少女の喘ぎが嬌声に変わる。
指が元の動きに戻っても、彼女にはもう我慢することができなかった。
「言ってごらん。いやらしい君は、僕にどうしてほしいんだい?」
「んんっ……あ、……っそ……もっと、…つぃっ……あっ!」
顔を背けて小さく呟くと、指がまた一度だけ差し込まれた。お仕置きの印だ。
荒い息をしながら、アンジェリークは仕方なく彼の耳に唇を寄せた。
「は、あっ……もっ…と、強く……突い……てっ………おねが……っ」
「……もっと強く、して欲しいの? こんなに恥ずかしいことをされてるのに、もっと虐めてほしいんだ?」
「やっ、あっ、……ひうっ……ああ、あっ、ああっ!!」
ずぶっずぶっと貫かれる快感に、アンジェリークの身体は仰け反っていく。
セイランの手首まで汚すほど潤った体液が、卑猥な音を立てながら溢れた。
「あっ、あああっ………んぁ、ダメ……セイランさま、もうっ……!」
ひくひくと中を震わせて、限界を告げる。
しょうがないね、と青年に呟かれたのもそっちのけで、シーツを巻き込んだ少女が意識をとばしかけた、瞬間。
ドンドンドン、と派手にドアを叩く音が、執務室の方から聞こえてきた。
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