「寝ている千のもとへ、ハクが忍んでくる。」 ハク様 橋の所へおいで。お父さんとお母さんに会わせてあげる。 「部屋を抜け出す千。」 千 靴がない。 ……あ。ありがとう。 「ススワタリに手を振る千。」 「橋の上でカオナシに会う。」 ハク様 おいで。 「花の間を通り畜舎へ。」 千 ……おとうさんおかあさん、私よ!……せ、千よ!おかあさん、おとうさん! 病気かな、ケガしてる? ハク様 いや。おなかが一杯で寝ているんだよ。人間だったことは今は忘れている。 千 うっ……くっ……おとうさんおかあさん、きっと助けてあげるから、あんまり太っちゃだめだよ、食べられちゃうからね!! 「垣根の下でうずくまる千。ハクが服を渡す。」 ハク様 これは隠しておきな。 千 あっ!……捨てられたかと思ってた。 ハク様 帰るときにいるだろう? 千 これ、お別れにもらったカード。ちひろ?……千尋って……私の名だわ! ハク様 湯婆婆は相手の名を奪って支配するんだ。いつもは千でいて、本当の名前はしっかり隠しておくんだよ。 千 私、もう取られかけてた。千になりかけてたもん。 ハク様 名を奪われると、帰り道が分からなくなるんだよ。私はどうしても思い出せないんだ。 千 ハクの本当の名前? ハク様 でも不思議だね。千尋のことは覚えていた。 お食べ、ご飯を食べてなかったろ? 千 食べたくない…… ハク様 千尋の元気が出るように呪い(まじない)をかけて作ったんだ。お食べ。 千 ……ん……ん、んっ………うわぁああーー、わぁああーーー、あぁああーーん…… ハク様 つらかったろう。さ、お食べ。 千 ひっく……うぁあーーん…… ハク様 一人で戻れるね? 千 うん。ハクありがとう、私がんばるね。 ハク様 うん。 「帰り際、空に昇る白い竜を見つける。」 千 わぁっ。 「釜爺が水を飲みに起き、寝ている千を見つける。座布団を掛けてやる。」 「湯婆婆が戻ってくる。」 リン どこ行ってたんだよ。心配してたんだぞ。 千 ごめんなさい。 「名札を掛けるのに手間取る千。」 湯女 じゃまだねぇ。 リン 千、もっと力はいんないの? 兄役 リンと千、今日から大湯番だ。 リン えぇーっ、あれは蛙の仕事だろ! 兄役 上役の命令だ。骨身を惜しむなよ。 「水を捨てに来る千。外に立っているカオナシを見つける。」 千 あの、そこ濡れませんか? リン 千、早くしろよ! 千 はーーい。……ここ、開けときますね。 湯女 リン、大湯だって? リン ほっとけ! リン ひでぇ、ずーっと洗ってないぞ。 「転ぶ千。」 千 うわっ!……あーっ。 リン ここの風呂はさ、汚しのお客専門なんだよ。うー、こびりついてて取れやしねえ。 兄役 リン、千。一番客が来ちまうぞ。 リン はーーい今すぐ!チッ、下いびりしやがって。 一回 薬湯入れなきゃダメだ。千、番台行って札もらってきな。 千 札?……うわっ! リン 薬湯の札だよ! 千 はぁーい。……リンさん、番台ってなに? 湯婆婆 ん?…なんだろうね。なんか来たね。 雨に紛れてろくでもないものが紛れ込んだかな? 「街を進んでくるオクサレさま。」 番台蛙 そんなもったいないことが出来るか!……おはようございます!良くお休みになられましたか! 湯女 春日様。 番台蛙 はい、硫黄の上!……いつまでいたって同じだ、戻れ戻れ!手でこすればいいんだ! おはようございます!……手を使え手を! 千 でも、あの、薬湯じゃないとダメだそうです。 番台蛙 わからんやつだな……あっ、ヨモギ湯ですね。どーぞごゆっくり…… 千 あっ…… 「背後にカオナシを見つけて会釈する千。」 番台蛙 んん? 「リリリリリ」 番台蛙 はい番台です!…あっ、……うわっ!? 千 あっ!ありがとうございます!! 番台蛙 あー、違う!こら待て、おい! 湯婆婆 どしたんだい!? 番台蛙 い、いえ、なんでもありません。 湯婆婆 なにか入り込んでるよ。 番台蛙 人間ですか。 湯婆婆 それを調べるんだ。今日はハクがいないからね。 リン へぇーずいぶんいいのくれたじゃん。 これがさ、釜爺のとこへ行くんだ。混んでないからすぐ来るよきっと。 これを引けばお湯が出る。やってみな。 千 うわっ!…… リン 千てほんとドジなー。 千 うわ、すごい色…… リン こいつにはさ、ミミズの干物が入ってんだ。こんだけ濁ってりゃこすらなくても同じだな。 いっぱいになったらもう一回引きな、止まるから。もう放して大丈夫だよ。おれ朝飯取ってくんな! 千 はぁーい。……あっ。 「カオナシを見つける。風呂の縁から落ちる千。」 千 うわっ!……いったぃ…った…… あの、お風呂まだなんです。 わ…こんなにたくさん…… えっ、私にくれるの? カオナシ あ、あ、…… 千 あの……それ、そんなにいらない。 カオナシ あ、… 千 だめよ。ひとつでいいの。 カオナシ あ…… 千 え…あっ! 「釜から水があふれる。」 千 うわぁっ!! 父役 奥様! 湯婆婆 クサレ神だって!? 父役 それも特大のオクサレさまです! 従業員 まっすぐ橋へ向かってきます! 従業員達 お帰り下さい、お帰り下さい! 青蛙 お帰り下さい、お引き取り下さい、お帰り下さい! うっ……くっさいぃ〜…! 湯婆婆 ぅう〜ん…おかしいね。クサレ神なんかの気配じゃなかったんだが…… 来ちまったものは仕方がない。お迎えしな! こうなったら出来るだけはやく引き取ってもらうしかないよ! 兄役 リンと千、湯婆婆様がお呼びだ。 千 あ、はいっ! 湯婆婆 いいかい、おまえの初仕事だ。これから来るお客を大湯で世話するんだよ。 千 ……あの〜…… 湯婆婆 四の五の言うと、石炭にしちまうよ。わかったね! 父役 み、見えました……ウッ… 湯婆婆・千 ウゥッ……!! 湯婆婆 …おやめ!お客さんに失礼だよ! が・が・……ヨク オコシクダしゃいマシタ…… え?あ オカネ……千!千!早くお受け取りな! 千 は、はいっ! (ベチャッ) 千 うゥ…! 湯婆婆 ナニ してるんだい…!ハヤク ご案内しな! 千 ど どうぞ …… リン セーーーン! うぇっ……くっせえ…あっ、メシが! 湯婆婆 窓をお開け!全部だよ!! 「大湯に飛び込み、千に何かを促すオクサレさま。」 千 えっ?ぁ、……ちょっと待って! 「上から見ている湯婆婆と父役。」 湯婆婆 フフフフ、汚いね。 父役 笑い事ではありません。 湯婆婆 あの子どうするかね。 ……ほぉ、足し湯をする気だよ。 父役 あぁああ、汚い手で壁に触りおって! 千 あっ……あっ! 「札を下げようとして落とす千。他の札を取って釜爺に送る。」 湯婆婆 んん?千に新しい札あげたのかい? 父役 まさかそんなもったいない…… 千 わっ! 「湯の紐を引きながら落ちる千。ヘドロにはまる。」 父役 あああーっ、あんな高価な薬湯を! 「オクサレさまに引っ張り出される千。何かに手を触れる。」 千 ……?あっ? リン セーーーン!千どこだ!! 千 リンさん! リン だいじょぶかあ!釜爺にありったけのお湯出すように頼んできた!最高の薬湯おごってくれるって! 千 ありがとう!あの、ここにトゲみたいのが刺さってるの! リン トゲーー?? 千 深くて取れないの! 湯婆婆 トゲ?トゲだって?……ううーん…… 下に人数を集めな! 父役 えぇっ? 湯婆婆 急ぎな! 千とリン、そのお方はオクサレ神ではないぞ! このロープをお使い! 千 はいっ! リン しっかり持ってな! 千 はいっ! 湯婆婆 ぐずぐずするんじゃないよ!女も力を合わせるんだ! 千 結びました! 湯婆婆 んーーー湯屋一同、心をこめて!!エイヤーーーーソーーーーレーーーー 一同 そーーーれ、そーーーーれ! そーーーれ、そーーーーれ! 千 自転車? 湯婆婆 やはり!さぁ、きばるんだよ! 「オクサレさまからたくさんのゴミが出てくる。」 河の主 はァーーー…… 千 うっわっ……わあっ! 「水の流れに包まれる千。」 リン セーーーン!だいじょぶかあ!? 河の主 ……佳き哉…… 千 あっ…… 「千の手に残る団子。」 湯婆婆 んん……? 従業員 砂金だ!! 砂金だ!わあーっ! 湯婆婆 静かにおし!お客さまがまだおいでなんだよ! 千!お客さまの邪魔だ、そこを下りな! 大戸を開けな!お帰りだ!! 河の主 あははははははははは…… 神様達 やんやーーやんやーー!! 湯婆婆 セーン!よくやったね、大もうけだよ! ありゃあ名のある河の主だよ〜。みんなも千を見習いな!今日は一本付けるからね。 みんな おぉーー!! 湯婆婆 さ、とった砂金を全部だしな! みんな えぇーーっ!そりゃねえやな…… 「仕事が終わって、部屋の前でくつろぐ千。」 リン 食う?かっぱらってきた。 千 ありがとう。 リン あー、やれやれ…… 千 ……ハク、いなかったねー。 リン まぁたハクかよー。……あいつ時々いなくなるんだよ。噂じゃさぁ、湯婆婆にやばいことやらされてんだって。 千 そう…… 女 リン、消すよー。 リン あぁ。 千 街がある……海みたい。 リン あたりまえじゃん、雨が降りゃ海くらいできるよ。 おれいつかあの街に行くんだ。こんなとこ絶対にやめてやる。 「ふと、団子をかじってみる千。」 千 ヴッ…うぅっ…… リン ん?……どうした? 「人気のない大湯に忍び込む青蛙。」 青蛙 ん?んんーーっ…… ……砂金だ!……あ。 おぬし!何者だ。客人ではないな。そこに入ってはいけないのだぞ! ……おっ!おっ、金だ金だ!こ、これをわしにくれるのか? カオナシ あ、あ…… 青蛙 き、金を出せるのか? カオナシ あ、あ、…… 青蛙 くれ〜っ!! 青蛙 わあっ!!! 「カオナシにひとのみにされる青蛙。」 兄役 誰ぞそこにおるのか?消灯時間はとうに過ぎたぞ。 うっ……? カオナシ 兄役どの、おれは腹が減った。腹ぺこだ! 兄役 そ、その声は…… カオナシ 前金だ、受け取れ。わしは客だぞ、風呂にも入るぞ。みんなを起こせぇっ! 千 お父さんお母さん、河の神様からもらったお団子だよ。これを食べれば人間に戻れるよ、きっと! 「たくさんの豚が一斉にこっちを見る。」 千 お父さんお母さんどこ?おとうさーん…… 千 ハッ!……やな夢。 ……リン?……誰もいない…… 千 わぁっ、本当に海になってる! ここからお父さんたちのとこ見えるんだ。 釜爺がもう火を焚いてる。そんなに寝ちゃったのかな…… 兄役 お客さまがお待ちだ、もっと早くできんのか!? 父役 生煮えでもなんでもいい、どんどんお持ちしろ! リン セーン! 千 リンさん。 リン 今起こしに行こうと思ったんだ。見な! 本物の金だ、もらったんだ。すげー気前のいい客が来たんだ。 「大湯に浸かってごちそうを食べまくるカオナシ。」 カオナシ おれは腹ぺこだ。ぜーーんぶ持ってこい! 千 そのお客さんって…… リン 千も来い。湯婆婆まだ寝てるからチャンスだぞ。 千 あたし釜爺のとこ行かなきゃ。 リン 今 釜爺のとこ行かない方がいいぞ、たたき起こされてものすごい不機嫌だから! 女たち リン、もいっかい行こ! リン ああ! 「部屋に戻る千。」 千 ……おとうさんとおかあさん、分からなかったらどうしよう。おとうさんあんまり太ってたらやだなー。 はあ…… 「海の中を白い竜が式神に追いかけられていく。」 千 ん?……あぁっ! 橋のとこで見た竜だ!こっちに来る! なんだろう、鳥じゃない!……ひゃっ! ハクーっ、しっかりーっ!こっちよーっ!!……ハク!? ハクーっ!! 「部屋に竜が飛び込む。窓を閉めようとする千に、式神が飛びかかる。」 千 うわぁっ!わぁああーっ!!……あっ? ……ただの紙だ…… 千 ハクね、ハクでしょう? ケガしてるの?あの紙の鳥は行ってしまったよ。もう大丈夫だよ。……わっ! 湯婆婆のとこへ行くんだ。どうしよう、ハクが死んじゃう! 「竜を追って走り出す千の肩に式神が張り付く。」 兄役 そーれっ、さーてはこの世に極まれる♪お大尽さまのおなりだよ♪そーれっ みんな いらっしゃいませ!! 兄役 それおねだり♪あ、おねだり♪おねだり♪ 「騒ぎの中をエレベータへ駆けていく千。」 蛙男 おっ…と。こら、何をする。 千 上へ行くんです。 蛙男 駄目だ駄目だ。……ん?あっ!血だ!! 千 あっ…… 兄役 どけどけ!お客さまのお通りだ! 千 あ、あのときはありがとうございます。 兄役 何をしてる、早ぅど……うっ!? カオナシ あ、あ、あ…… 「千に両手いっぱいの金を差し出す。」 カオナシ え、え、…… 千 ……欲しくない。いらない! カオナシ え、え…… 千 私忙しいので、失礼します! 「こぼした金に群がる群衆をすり抜けて千が出ていく。」 兄役 ええい、静まれ!静まらんか!!下がれ下がれ! これは、とんだご無礼を致しました。なにぶん新米の人間の小娘でございまして…… カオナシ ……おまえ、何故笑う。笑ったな。 兄役 ぇえっ、めっそうもない! 兄役・湯女 わっ、わっ、わああっ! 「丸呑みにされる兄役と湯女。皆がパニックで散っていく。」