タイトル (コンコン) 年配の店員 ソフィーさん、お店閉めました。 ソフィーさんも行けばいいのに。 ソフィー これ仕上げちゃう。楽しんできて。 年配の店員 じゃ、行ってきますね。行くわよ。 店員 あっ、待って。 店員 これおかしくなーい? 店員 ねえ見て、ハウルの城が来てる! 店員 えっ、ハウル!? 店員 どこどこ!? 店員 ほら、あんなに近くに! 年配の店員 やぁねえ。 店員 ハウル、街に来てるのかしら。 店員 ……逃げちゃった。 店員 隠れただけでしょ、軍隊がいっぱい来てるから。 店員 聞いた?隣町のマーサって子、ハウルに心臓取られちゃったんだってね! 店員 怖いねー。 店員 大丈夫、あんたは狙われないから! 一同 あははは、あはははは! 年配の店員 はやくして! 一同 あはははは…… (街に出て行くソフィー) ソフィー はっ! 兵隊1 やあ、何かお探しかな?子ネズミちゃん。 ソフィー いえあの、ご心配なく。 兵隊1 ではお茶などいかがでしょう。お付き合い願えますか? ソフィー 結構です、用事がありますので。 兵隊2 ほんとに子ネズミちゃんだぜ。 兵隊1 ねぇ、君いくつ?この街の子? ソフィー 通してください! 兵隊1 ほぉら、お前の髭面のせいだぞ! 兵隊2 怒ったとこも可愛いじゃないか。 ハウル やぁ、ごめんごめん。探したよ。 兵隊1 なんだお前は! ハウル この子の連れさ。君たち、ちょっと散歩してきてくれないか。 兵隊 あっ、えっ?おっ?あれっ、おい、お…… ハウル 許してあげなさい、気はいい連中です。 どちらへ?私が送って差し上げましょう。 ソフィー いえ、チェザーリの店へ行くだけですから。 ハウル 知らん顔して。追われてるんだ。歩いて。 ハウル ごめん、巻き込んじゃったな。 ソフィー あっ! ハウル こっち!……このまま! ソフィー ああっ! ハウル 足を出して、歩き続けて。 ソフィー あっ、ああっ…… ハウル そう、怖がらないで。 上手だ。 ハウル 僕は奴らを引き付ける。あなたはちょっと待ってから出なさい。 ソフィー はい。 ハウル いい子だ。 ソフィー あっ……! レティー はい、ありがとう。 客 レティーっていうチョコはないのかい? 客 俺もそっちが欲しいな。 客 レティー、散歩に行かないか? レティー ……お姉ちゃんが!? 客 レティー、早く戻ってきてくれよ! レティー お姉ちゃん!? ソフィー レティー……。 レティー どうしたの!?ベランダに降りてきたって、天使にでもなっちゃったの!? ソフィー あたし……、夢見てるみたいなの。 店長? レティー、オフィスを使いなよ。 レティー でも、仕事中ですから。ありがとう! 店長? いーや。 レティー えーっ、それ魔法使いじゃないの? ソフィー とってもいいひとだった……。私を助けてくれたの。 レティー それでお姉ちゃん心を取られちゃったってわけ? その魔法使いがハウルだったら、お姉ちゃん心臓を食べられちゃってるよ!? ソフィー 大丈夫よ。ハウルは美人しか狙わないもの。 レティー またそんな。あのねぇ、世の中物騒になってるんだから!荒地の魔女までうろついてるって言うよ。 お姉ちゃん? ソフィー ……ん? レティー もう! お菓子職人 レティー、マドレーヌがあがったよ。 レティー はーい、ちょっと待ってねー。 お菓子職人 いいよ。 ソフィー あたし、帰るね。レティーの元気な顔見たら安心したから。 仕入業者 やあレティー。 レティー ごくろうさまー。……ねえお姉ちゃん。ほんとに一生あのお店にいるつもりなの? ソフィー お父さんが大事にしてたお店だし……、あたし長女だから。 レティー 違うの!帽子屋に本当になりたいのかってこと! ソフィー そりゃあ…… 仕入業者 レティー、またね。 レティー 今度お店に来てね。 仕入業者 ああ。 ソフィー あたし行くね。 レティー お姉ちゃん。自分のことは自分で決めなきゃダメよ! ソフィー うん。 (店に帰ってくる) ソフィー ……? あの、お店はおしまいなんです。すみません、鍵をかけたつもりだったんですが…… 荒地の魔女 安っぽい店……安っぽい帽子。あなたも十分、安っぽいわねえ。 ソフィー ……ここはしがない下町の帽子屋です! どうぞ、お引き取り下さい! 荒地の魔女 荒地の魔女に張り合おうなんて、いい度胸ね。 ソフィー 荒地の魔女?……あっ! 荒地の魔女 その呪いは人には話せないからね。ハウルによろしくね、フフフフ…… ソフィー ……? ……んん……あっ!? あっ、あ…… ……ほんとに私なの!? 落ち着かなきゃ……んん、ああ〜…… ……ああっ! 落ち着かなきゃ〜……慌てるとロクなことはないよ、ソフィー。 ああ……なんでもない、なんでもない……落ち着かなきゃ……あああ落ち着かなきゃ……ううう…… (ガチャッ) ソフィーの母 ただいま〜! 店員 奥様! 店員 お帰りなさい! ソフィーの母 どう、これ!キングズベリーで流行りはじめたのよ! 店員 わぁ、きれい! 店員 お似合いですよ。 ソフィーの母 これ絶対いけると思わない?ソフィー、ソフィー……あら? 店員 奥様、ソフィーさんは今日は下りてきていません。 ソフィーの母 まぁ、どうしたのかしら。 ソフィーの母 ソフィー、ソフィー。 (トントン) ソフィーの母 ソフィー。 ソフィー 開けないで、ひどい風邪なの。移っちゃ大変よ。 ソフィーの母 すごい声ね。90歳のおばあさんみたい。 ソフィー 今日は一日寝てるわ。 ソフィーの母 そぅお?じゃあね。 ソフィー よいしょっと…… 大丈夫よおばあちゃん、あなた元気そうだし、服も前より似合ってるわ。 階下の店員 (あははは、うふふふ……) ソフィー でもここには居られないわね。 ソフィー あいた!年寄りって大変ね。 (食料を持って裏口から出て行く) 街の若者 おばあちゃん、手を貸そうか? ソフィー 親切だけは頂くよ、ありがとさん。 藁運びの御者 構わねえけど、ばあちゃんどこ行くの? ソフィー あんたの行くとこの、その先だよ。 藁運びの御者 やめときなよばあちゃん、この先には魔法使いしかうろついてないぜ! ソフィー ありがとよー! 御者の家族 これから中折れ谷へ行くの? 藁運びの御者 末の妹がいるんだって。 ソフィー まだいくらも来てないね。歯だけは前のまんまで良かったよ。 ん?杖に良さそうだ。よっ……あいたたっ。 ちょっと太いかしらね。ん……うんん……! ふう、ふう……頑固な枝ねえ……。ソフィーばあちゃんを甘く見ないで! うんん……! ソフィー かかしか。また魔女の手下かと思ったよ。 でもおまえ、なんで一人で立ってるの? 頭がカブね。あたし、小さい時からカブは嫌いなの。 逆さになってるよりましでしょ。元気でね。 ソフィー うぅ、寒い……。まだ街があんなとこにある。……んん? ついてくるんじゃないよ!恩返しなんかしなくていいから! あんたも魔法のなんかだろ、魔女とか呪いとかもうたくさん! どこでも好きなとこに立ってなさい! ソフィー はあ、はあ…… これはぴったりの杖だね。ありがとさん。 今夜泊まるうちも連れてきてくれると、いいんだけどねえ。 ……年を取ると悪知恵がつくみたい。 ソフィー 大きな軍艦。 あぁ、年寄りがこんなに体が動かないなんて思わなかった。 ……煙の匂いだ。山小屋でもあるのかね? ふう、ふう…… ソフィー カブ頭、あれハウルの城じゃない!? あんた、うちを連れてこいって、まさか……! ソフィー まあ、これ。これでお城なの? ソフィー そこが入口なの? ちょっと待ちなさいよ、はあっ、はあっ……これ、ちょっと! 乗せるの乗せないの、どっちかにして……うわあっ! 肩掛けが……! ソフィー カブ、中はあったかそうだからとにかく入らせてもらうわ。ありがと! いくらハウルでもこんなおばあちゃんの心臓は食べないでしょ。 今度こそさよなら。あんたはカブだけどいいカブだったよ! 幸せにね! ソフィー はぁ……。あいててて……よいしょ。 なんだろねえ、ただのボロ屋にしか見えないけど…… ま、年を取っていいことは、驚かなくなることね。 カルシファー ……こんがらがった呪いだね。 ソフィー んん!? カルシファー その呪いは、簡単には解けないよ。 ソフィー 火が喋った! カルシファー おまけに人には喋れなくしてあるね。 ソフィー あんたがハウル? カルシファー 違うね。おいらは火の悪魔カルシファー!……っていうんだ。 ソフィー ならカルシファー、あんたあたしに掛けられた呪いを解けるの? カルシファー 簡単さ、おいらをここに縛り付けている呪いを解いてくれれば、すぐあんたの呪いも解いてやるよ。 ソフィー 悪魔と取引をするってわけね。 あんたそれ約束できるの? カルシファー 悪魔は約束はしないさ。 ソフィー ……他を当たるのね。 カルシファー おいら、可哀想な悪魔なんだ。契約に縛られて、ここでハウルにこき使われてるんだ! この城だって、おいらが動かしてるんだぜ! ソフィー そぅ……大変なのねぇ…… カルシファー ハウルと、おいらの契約の秘密を見破ってくたら呪いは解けるんだ。 そしたら、あんたの呪いも解いてやるよ! ソフィー 分かったわ……取引ね……んん…… カルシファー ……ばあちゃん。ばあちゃん! ソフィー グガガガ…… カルシファー ……大丈夫かなあ。 (ドンドンドンドン!) ソフィー うん……んん…… ……?……ぐがー、ぐがー マルクル あれっ、誰だろう? カルシファー 港町ー! マルクル いつ入ったのかなあ。……待たれよ。 マルクル これは町長殿。 町長 日はすっかり昇りましたぞ。ジェンキンス殿はご在宅か。 マルクル 師匠は留守じゃ。わしが代わりに承りましょうぞ。 町長 国王陛下からの招請状です。いよいよ戦争ですぞ。 魔法使いも呪い(まじない)師も魔女ですら、皆国家に協力せよとの思し召しです。 必ず出頭するように。では。 ソフィー やだねぇ、戦争なんて。 マルクル 其許は何者じゃ。 ソフィー カルシファーが入れたんだよ。 カルシファー 俺じゃないよ、荒地から勝手に入ってきたんだよ。 マルクル 荒地から?うーむ…… まさか魔女じゃないでしょうね。 カルシファー 魔女なら入れるもんか。 ……また、港町ー。 マルクル お客かな?……待たれよ。 何用かな? 女の子 母さんの代わりに来たの。 マルクル またいつもの呪い(まじない)じゃな? 女の子 うん。 マルクル 大人しくしておれよ。 ソフィー あれ……?荒地じゃない。 女の子 おばあちゃん、おばあちゃんも魔女? ソフィー ん?そうさ、この国一こわーい魔女だよ? 女の子 うふふ。 マルクル この粉を撒けば船に良い風が吹く。 女の子 うん。 マルクル ご苦労。 困るんじゃ、デタラメを言いおって。 ソフィー あんたその変装やめた方がいいよ。 マルクル 変装じゃありません、魔法です! カルシファー キングズベリーの扉ー! マルクル 待たれよ。 侍従 魔法使いペンドラゴン氏のお住まいはこちらか。 マルクル 如何にも。 侍従 国王陛下の招請状をお持ち致しました。ペンドラゴン氏には必ず宮殿へ参上されるよう、お伝え願いたい。 マルクル ご苦労様でござる。 ソフィー まるで王様のいる都だね。 マルクル 引っ込まないと鼻がなくなりますよ。 もう、うろうろしないでください! マルクル ……いい加減にしてください!怒りますよ! ソフィー ここは魔法のうちなんだね。 マルクル もーう。 ソフィー この黒い所はどこに行くの? マルクル ハウルさんしか知りません!僕は朝ごはんにします! ソフィー ベーコンに卵もあるじゃない。 マルクル ハウルさんがいなければ、火は使えないんです! ソフィー あたしがやってあげる。 マルクル 無理ですよ、カルシファーはハウルさんの言うことしか聞かないんです。 カルシファー そうだ。料理なんかやんないよ。 ソフィー あらあら、帽子がこんなとこに。 さぁカルシファー、お願いしますよ。 カルシファー やだね。おいらは悪魔だ。だーれの指図も受けないよー。 ソフィー 言うこと聞かないと、水を掛けちゃうよ。 それとも取引のことをハウルにばらそうか? カルシファー うっ……こ、こんなばあちゃん入れるんじゃなかった! ソフィー さあ、どうする!? カルシファー う、うう…… ソフィー そうそう、いい子ねー。 カルシファー チェ、チェッ、ベーコンなんか焦げちまえ! マルクル カルシファーが言うことを聞いた…… ソフィー お茶も欲しいね。ポットもあるの? マルクル うん。 マルクル ハウルさん、お帰りなさい! 王様から手紙が来てますよ、ジェンキンスにも、ペンドラゴンにも! ハウル ……カルシファー、よく言うことを聞いているね。 カルシファー おいらを苛めたんだ! ハウル 誰にでも出来ることじゃないな。あんた、誰? ソフィー あ、あたしはソフィーばあさんだよ。ほら、この城の新しい掃除婦さ。 ハウル 貸しなさい。 ソフィー ええっ…… ハウル あとベーコン二きれに、卵を六個ちょうだい。 ソフィー あ、えっ……。 カルシファー うまい、あむっ、うまっ…… ハウル 掃除婦って、誰が決めたの? ソフィー そりゃあーあたしさ。こんな汚いうちはどこにもないからね。 ハウル ふーん。……マルクル、皿! カルシファー うー、皆でおいらを苛めるんだ! マルクル ソフィーさんもどうぞ。こっちに座って。 選んで!汚れてないのこれしかないんだ。 ソフィー ……仕事はたくさんありそうね。 ハウル マルクル。 マルクル はい。 ハウル ソフィーさん。 ソフィー あ、ありがとう。 ハウル 諸君、いただこう。うまし糧を。 マルクル うまし糧!久しぶりですね、ちゃんとした朝ごはんなんて! はぐ、むっ……むぐ…… ソフィー ……教えることもたくさんありそうね。 ハウル で。あなたのポケットの中のものは何? ソフィー へ?……何かしら。 ハウル 貸して。 マルクル ああっ!焼き付いた、ハウルさん、これ……! ハウル とても古い魔法だよ。しかも強力だ。 マルクル 荒地の魔女ですか!? ハウル 『汝、流れ星を捕らえし者 心なき男 お前の心臓は私のものだ』…… ……テーブルが台無しだね。 ソフィー ああっ! マルクル すごい、消えた! ハウル 焼け焦げは消えても、呪いは消えないんだ。 諸君、食事を続けてくれたまえ。カルシファー、城を100キロほど動かしてくれ。 カルシファー むっ、むぐ、うまっ…… ハウル それに風呂に熱いお湯を送ってくれ。 カルシファー えーっ、それもかよう! マルクル ……ソフィーさんて荒地の魔女の手下なの? ソフィー バカを言うんじゃないよ!あたしこそ荒地の魔女に……むぐぐ…… ほんとはあたしは……わ、ん、わ、ん…… ……荒地の魔女め!今度会ったらただじゃおかないからね!! さっさと食べちゃおう! ソフィー 虫どもー、さっさと出ないと掃き出しちゃうよー!どいつもこいつも人をバカにして! 老人 呪い(まじない)を頼みたいんじゃが…… マルクル 後にして!中で魔女が暴れておるんじゃ。 カルシファー ソフィー!消えちゃうよ!薪をくれなきゃ死んじゃうよー! わ、何するんだ、あー!落ちる、落ちる!危なーい! ソフィー 灰を掻くのよ。すぐだからね。 カルシファー やばいよ、あ、危なーい!あぶなっ、う、落ちる、う、あ、やばい…… あ、お、落ち……あー! ハウル ふうーっ…… ソフィー ……? ハウル 友人をあまり苛めないでくれないか。 マルクル ハウルさん、お出掛けですか? ハウル マルクル、掃除も大概にするように、掃除婦さんに言っといて。 マルクル ……ソフィー、何かやったの? ソフィー ん? カルシファー おいらを苛めたんだ!おいらが死んだら、ハウルだって死ぬんだぞ!ううう ソフィー あたしは掃除婦なの!掃除をするのが仕事なの! マルクル あ、だ、だだ、だめっ!二階はだめ!! ソフィー あたしなら大事なものを急いでしまっとくけど? マルクル あっ!……僕んとこ後回しにして! ソフィー ふふふ。腹を立てたら元気が出たみたいね。 変なうちねぇ……。 ……ん?うわっ……わあーっ……! すごーい!カルシファー、カルシファー!この城あんたが動かしてるの!? カルシファー うるさいなあ、当たり前じゃないか。 ソフィー すごいよカルシファー、あんたの魔法は一流だね、見直したわ! カルシファー そうかなあ?……そおぉうかなあぁあ!? マルクル あー!ま、まだ駄目だよ! ソフィー ふわわ……わあー! ソフィー きれいだねえ。 マルクル 星の湖(うみ)って言うんだよ。 ソフィー ん?……なにか穴に挟まってる。何かしら。マルクル、手を貸して。 マルクル うん。 二人 んー、うーん…… マルクル かかしだ! ソフィー カブ頭のカブって言うの。あんた、逆さになるのが好きだねえ。 マルクル あっ! ソフィー 妙なものになつかれちゃったねえ。あたしについてきたんだよ。 マルクル ……ソフィーってほんとに魔女じゃないの? ソフィー そうさ、この国一番のきれい好きな魔女さ。 マルクル カブー、引っ張りすぎだよー! マルクル 洗濯物が気に入ったみたいだね。 ソフィー おかげで早く乾くでしょう。 マルクル カブって悪魔の一族じゃないかな。カルシファーが怒らないもの。 ソフィー そうね。死神かもしれないわね。でも……こんなところに来られたんだから…… マルクル ソフィー。洗濯物、しまったよ。 ソフィー あぁ、ありがと。もう戻らなきゃね。 不思議ね、こんな穏やかな気持ちになれたの初めて…… (ハウルが敵を蹴散らし、戻ってくる) ハウル はあ…… カルシファー くさい。生き物と……鉄が焼ける匂いだ。 ハウル はあ、はあ……うっ!……は、はあっ…… カルシファー あんまり飛ぶと、戻れなくなるぜ。……すごいだろ、ソフィーが置いてくれたんだ。 ハウル ひどい戦争だ。南の海から北の国境まで、火の海だった…… カルシファー おいら火薬の火は嫌いだよ。奴らには礼儀ってものがないからね。 ハウル 同業者に襲われたよ。 カルシファー 荒地の魔女か? ハウル いや。三下だが、怪物に変身していた。 カルシファー そいつら、後で泣くことになるな。まず人間には戻れないよ。 ハウル 平気だろ。泣くことも忘れるさ。 カルシファー ハウルも国王に呼び出されてるんだろ? ハウル まあね。……風呂にお湯を送ってくれ。 カルシファー えっ……またかよ。 (カーテンの隙間から、寝ているソフィーを見る) ソフィー んっ!?ああっ!?……ハウル? カルシファー そ。お湯の使いすぎだよ。 マルクル ハウルさん、絶対食べないと思うよ。 ソフィー いいの! 街人 おはよう。 ソフィー おはよう。……朝の市場なんて素敵じゃない。あたし海初めてなの。 きれいね、きらきらしてて。 マルクル いつもと同じじゃ。 マルクル わしは芋は嫌いじゃ。 ソフィー 払って。ありがとさん。 野菜売り まいど! 魚売り どれもさっき揚がった魚だよ。うめえぞ。 マルクル わしは魚嫌いじゃ。 街人 艦隊が帰ってきたぞ! マルクル ん? 街人 ひといくさあったらしいんだ。 魚売り ほんとかよ!奥さん、後にして! 街人 がんばれ、がんばれー! マルクル ソフィー、もっと近くに行ってみようよ! ソフィー いや、あたしこういうのだめ!戻ろう! ……マルクル、ゴム人間よ! マルクル え? ソフィー 動かないで!荒地の魔女の手下よ! ソフィー ……行ったわ。あんなお化け、他の人には見えないのかしら。 街人 ……あそこだ! 街人 あいつだ、あいつが落としたんだ! マルクル ソフィー、あれ敵の飛行軍艦だよ!ソフィー、ビラだよ!ソフィー! 軍人 拾うな!そのビラを拾うな! マルクル はぁ、はぁ…… マルクル ソフィー、大丈夫? ソフィー はぁ……はぁ……お水を一杯お願い。 マルクル うん。 ソフィー はぁ……はー……。 ハウル わあぁああああーーっ!! 二人 わっ!? ハウル ああああ、あー、あぁあー! ……ソフィー、風呂場の棚いじった!?見て!こんな変な色になっちゃったじゃないか!! ソフィー き、きれいな髪ね。 ハウル よく見て!! ソフィーが棚をいじくって、呪い(まじない)をめちゃくちゃにしちゃったんだ! ソフィー 何もいじってないわ、きれいにしただけよ。 ハウル 掃除、掃除!だから掃除も大概にしろって言ったのに!! 絶望だ……何という屈辱……うっ、うっ……うううっ…… ソフィー そんなにひどくないわよ。 ハウル ううっ……うっ…… ソフィー あ、あたしはそれはそれできれいだと思うけど? ハウル もう終わりだ……美しくなかったら生きていたって仕方がない……うっ…ううう…… ソフィー ……ええっ!? カルシファー やめろー!ハウル、やめてくれ! マルクル 闇の精霊を呼び出してる!前にも女の子にふられて、出したことがあるんです! ソフィー えぇ!? ……さあハウル、もうやめなさい。髪なら染め直せばいいじゃない。 え?ひっ!? ……もう!ハウルなんか好きにすればいい! あたしなんか美しかったことなんて一度もないわ!!こんなとこ、もういやっ! ソフィー ひっ、っ…… うわーあああん、あーああーん、あー……うわーん…… (カブが傘を差し掛けてくれる) ソフィー ……ありがとう、カブ。あなたは優しいかかしね。 マルクル ソフィー!お願い、戻って来て!ハウルさんが大変なんだ!! カルシファー ハウル、やめろー!消えちゃうよう!あー、うー!ソフィー!早くしてー! ソフィー 派手ねえ……。 マルクル 死んじゃったかなあ? ソフィー 大丈夫よ。癇癪で死んだ人はいないわ。マルクル、手伝って。 マルクル うん。 二人 うん、うーん! ソフィー マルクル、お湯をたっぷりね! マルクル うん! ソフィー ほら、自分で歩くのよ! (タオルが落ちる)(尻) ソフィー マルクル、あとお願いね! マルクル うん! ソフィー ……またお掃除しなきゃ。 (トントン) ソフィー 入りますよ。 温かいミルクよ。飲みなさい。 ハウル (首を横に振る) ソフィー ここに置いておくから。冷めないうちに飲みなさいね。 ハウル ……行かないで、ソフィー。 ソフィー ……。ミルク飲む? ハウル (首を横に振る) ……荒地の魔女が僕の家を探しているんだ。 ソフィー えっ、あっ……港で手下を見掛けたわ。 ハウル 僕は本当は臆病者なんだ。このがらくたは、全部魔女よけの呪い(まじない)なんだよ。 怖くて怖くてたまらない…… ソフィー ハウルはどうして荒地の魔女に狙われてるの? ハウル 面白そうな人だなーと思って、僕から近づいたんだ。それで逃げ出した。恐ろしい人だった…… ソフィー ふぅーん…… ハウル そしたら今度は戦争で王様に呼び出された。ジェンキンスにも、ペンドラゴンにも。 ソフィー ハウルって一体いくつ名前があるの? ハウル 自由に生きるのに要るだけ。 ソフィー ふうん。 王様の話断れないの? ハウル あれ。魔法学校に入学するとき、誓いを立てさせられてる。 ソフィー ……ねえハウル、王様に会いに行きなさいよ! ハウル えぇ!? ソフィー はっきり言ってやればいいの。くだらない戦争はやめなさい、私は手伝いません!って。 ハウル はあー……。ソフィーはあの人達を知らないんだ。 ソフィー だって王様でしょ?みんなのことを考えるのが、王様でしょ。 ハウル ……そうか!ソフィーが代わりに行ってくれればいいんだ! ソフィー えぇ!? ハウル ペンドラゴンのお母さんってことでさ。息子は役立たずのろくでなしですって言ってくれればいいんだ! マダムサリマンも諦めてくれるかもしれない! ソフィー マダムサリマン? ハウル ……その帽子かぶるの?せっかく魔法で服をきれいにしたのに。 ソフィー 行ってくるね。 マルクル うん。 カルシファー いってらっしゃーい。 ソフィー あっ…… ハウル お守り。無事に行って帰れるように。 ソフィー ……。 ハウル 大丈夫、僕が姿を変えてついていくから。さあ、行きたまえ! ソフィー 絶対うまくいかないって気がしてきた。