4.
「…………。」
「…………。」
沈黙は長く続いていた。
にこにこと、彼は機嫌良さそうに彼女を腕に抱いているが、彼女の方は『何もせずただ抱きしめられているだけ』という状況に耐性がなかった。
やがて、彼女は我慢できなくなったように後ろ向きのまま、おずおずと呟いた。
「あの……銀?」
「はい、なんでございましょう」
返事はすぐ、明確に返ってくる。
「あの、そろそろ……」
「はい」
「…………。」
「…………。」
だが、それ以上続かない。
離して、というのも蛇の尾を踏みかねないし、彼のことだから彼女がやらなければならない家事などとっくに終わらせているだろう。からかって、などと怒ったらそれこそ思うつぼだ。
しばらく考えて、彼女は名案を思いついたかのように目を輝かせた。
「あ!えと……あれだね、人がいると部屋って暖かくなるよね」
「そうですか?」
「うん。体温って結構影響あるんだね。わたし、ちょっと暑くなってきたかも」
確かに、彼女は顔どころか耳まで赤くなっている。
それが部屋の温度のせいかはさておき、彼女が暑さを感じているのは嘘ではなかった。
「そうですか……それでは」
少しだけ残念そうな声音で、彼が腕をほどきかけたので、彼女は思わず心の中でガッツポーズをした。
こうやってくっついてるのは好きだけれど、あまり続くと心臓がもたない。
それに、家に帰ってきたばかりなのでやることもある。食事をして、お風呂に入って、宿題もしなくてはならない。この心地よい甘さに興じているわけにはいかないのだ。
だが、その考えこそ、甘かった。
「では、お召し替えをなさいますか?」
「え?」
半ば自由になった体で振り向くと、彼は相変わらずにこにこと微笑みながら、彼女の頬に落ちた髪をかき上げた。
「湯殿を整えておきましたので、どうぞ汗をお流しください」
「え???えっと……まさか」
ひく、と頬がひきつるのが分かる。
彼は天使の笑顔でうなずいた。
「ええ、僭越ながらお背中をお流しいたします」
「!?し、し……っ」
「では参りましょうか」
問答無用でひょいと抱え上げられ、彼女は悲鳴も上げられないままに連れ去られていった。
エロに行きそうな雰囲気(笑)
銀エロは想像できなさそうでものすごい想像できます(→物腰柔らか命令形)
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