2:

「ダメ!宿題が終わってから!」

キスしようとする彼の額にぴ、と指を突きつけて、少女は厳しく言い渡した。

「神子様……」
「だめったらだめ。来週私、これ当たるんだもん。やってなかったら先生に怒られちゃうよ。
 銀は知らないだろうけど、クラスメイトみんなの前で叱られるんだからね。恥ずかしいんだから」

哀しそうな上目遣いにも怯まず、きっぱりと言い切る。
彼はわざとらしく息をついて、力無く微笑んだ。

「それは……いけませんね。神子様をそのような場に立たせるわけには参りません」
「でしょ?だから、少しだけ静かにしててね」
「……はい」

分かってくれてよかった、とばかりにノートを広げた横顔を見つめながら、銀は彼女の肩を抱いていた手を外した。

「?」

彼女は不思議そうに、もう一度目を向ける。
自分にどうしてもやらなければならないことがある時でも、彼が何もせずにいたことはない。うるさくしたりはしないけれど、十中八九そばにいて、優しく肩を抱いたり手を取ったりしながらじっと見つめているのだ。
もう半ばそれに慣れていた彼女は、触れられていないことに妙な違和感を感じつつ、首を傾げた。

「……では、私は隣の部屋で控えさせていただきます」
「え?」

言われた言葉に、さらに驚く。
彼女の様子には構わず、銀は優雅な身のこなしで立ち上がった。

「ご勉学の妨げになってはいけませんから。私がいない方が集中できましょう」
「え、でも……」
「神子様、御前を失礼いたします。終わりましたら、お声をお掛けください」
「あ、銀っ…!」

すたすたと歩いていった彼は、ドアのところまで来ると、ノブに手をかけつつ振り向いて言った。

「神子様。……いつもいつも、私は神子様にご迷惑ばかりかけております。自分でも、分かってはいるのです。
 誠に申し訳なく思っておりますが……しかしそれは、どうしようもなく神子様をお慕いするがゆえのこと。
 もし乞えるのであれば、寛容な慈悲をもってお許しくださいますよう……」

頬を染めた彼女に丁寧に礼をしてから、銀は静かにドアを閉じた。


それから1分。
諦めたようなため息と共にドアを開けた彼女が見たのは、部屋の入り口に立ったまま上機嫌で微笑んでいる恋人の姿だった。

 

 

銀はやり手の策略家(愛ゆえ)
神子はどうしても勝てない子兎ちゃん(愛ゆえ)