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「…もう!しょうがないなぁ…!」
赤くなった頬を隠すようにつんとあごを上げて、少女はぱたんとノートを閉じた。
どのみち、彼のおねだりにかかっては、宿題どころではなくなるだろう。
彼はとたんに満面の笑みになって、片手で彼女の肩を抱いたまま、その指にキスを落とす。
「……しかし、神子様。宿題とやらは大丈夫なのですか?」
「うん。しょうがないから、月曜の放課後に譲くんに教えてもらうよ」
尋ねたのは一応の気遣いのつもりだったのだが、その返事を聞いて、彼の瞳がすっと細くなった。
筆記用具を片づけ始めた彼女はそれに気づかない。
「譲様……ですか。しかし、以前伺ったところでは、学校というところは年齢ごとに学習する内容が違うのではありませんでしたか?
神子様と譲様では、ご年齢が違いましょうに」
「数学とか物理とか、理系は結構違うんだけどね。文系はそんなに違わないんだよ。
譲くんは私よりずっと頭がいいし、教え方もすごくうまいし、このくらい簡単だと思う」
にこにこと機嫌良く、自分の腕の中で自分以外の男を誉める彼女。
一瞬だけ考えて、銀はもう一度笑みを作った。
「いえ、譲様のお手を煩わせる必要はございません。もしよろしければ、私がお教えいたしましょうか?」
「え!?銀、分かるの!?」
驚いて振り向く彼女に、頷く。
「こちらの世界のものは不得手でございますが、先ほどから見ておりましたら、なにやら私の世界にも馴染みがあるものに思えます。
それならば私にもお教えできるやもしれません」
その言葉で、気がついた。出逢ったときの彼が和歌を口ずさんでいたことを。
あの世界の京の貴族であれば、それらは当然の教養であったのだろう。そして手元にあるノートは、一番の苦手とする古典と漢文。
彼女の目が、輝いた。
「その代わり」
期待を込めて見上げる瞳に応えるように、彼は彼女の耳元に唇を近づけ、囁いた。
「その代わり……それが終わりましたら、相応のお慈悲をいただけると。
期待してもよろしいのでしょうか?」
「えっ?」
その言葉の意味を、頭の中で考えて。
さっと青くなった彼女に、銀は嬉しそうに笑ってみせた。
(意:明日もお泊まりしますよね?)とかではないかと。
もしくは色々色々とそっちのほうで(笑)
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