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「の、喉が渇いちゃったな〜!」

その言葉に、はっ、と銀が顔を上げた。
見ると、彼女がここに来たときに出したグラスはすでに空になって久しい。言われるまで気づかないとは、なんという失態だろうか。

「えっと、なにか飲むもの、もらってもいい?」

そう言って立ち上がりかける彼女を、彼は急いで制した。

「いえ、神子様。そのままお待ち下さい。ただいまご用意して参ります」
「え、でも冷蔵庫から出してくるだけだし。自分で行ってくるよ?」
「なりません。神子様のご希望に叶わなかったのは、私の不徳といたすところ。どうぞ、そのままお待ち下さい」
「う、うん……じゃあ、お願いするね」

本当はたいして喉が渇いていたわけではなく、ただ言い訳に使っただけなので良心が咎めたが、確かに宿題を片づけるなら飲み物が欲しい。真剣な表情で頭を下げられて、彼女はありがたく待つことにした。
今までのパターンを考えれば、どうせこの先勉強になりはしないのだ。彼が戻ってくるまでになんとか進めておかないと、週明けの授業で痛い目を見る。
彼女は考えるのをやめて、目の前のノートに集中した。
しばらく後。

「……やった、終わった〜!」

思ったよりも遙かに短い時間で、彼女の義務は終わりを告げた。
どうやら宿題の量を思い違いしていたらしい。指定された教科書のページのほとんどは概論で、やるべき問題はほんの少ししかなかった。

「あれ?そういえば……銀?」

うきうきとノートを片づけかけて、初めてそれに気づく。
今までは集中して気にならなかったが、飲み物を出すにしてはもう結構な時間が経ったのではないだろうか。少なくとも、グラスにジュースを注いでくるレベルの時間ではない。彼女は首をひねりながら、片づけを中断してキッチンへ行ってみた。

そこには、彼女にはあまり馴染みのない世界が広がっていた。
今まさに運ばれようとしていた大きなトレイの上には、ロイヤルドルトンのティーセット。フォションのアップルプレステージ。ティスタンドにはスコーンとフルーツ。
あぜんとした彼女に気づいて、彼はすまなそうに頭を下げた。

「申し訳ありません、神子様をお待たせしてしまうなど……」
「う、ううん、それはいいんだけど。えっと……これは?」

目の前の、華やか且つ上品な色彩を指さした彼女に、笑顔を向ける。

「神子様はこちらのお茶を好まれているとお聞きしましたので、ご用意させていただきました」
「え、そんなの誰に……」
「先日、将臣様に伺いましたら、その場で神子様のご母堂様にご連絡くださいまして……」
「うちのお母さんに!?」
「はい。神子様のお気に召すとよろしいのですが」

突っ立ったまま、彼女は思わず手のひらを額に当てた。

ここに来るとき、お母さんが妙にそわそわしてるって思ったんだ……。

おそらく、彼は持ち前の愛想の良さを発揮して、彼女の母親を虜にしてしまったのだろう。
絶対そうなると思ったから今まで会わせないようにしていたのに、と幼なじみをなじっても後の祭りで、彼女は帰宅した後の質問攻めを想像して早くもうんざりした顔を見せた。

 

 

銀は絶対に年上受けすると思う。きゃーきゃー言われると思う。
それをみてなんとなく不機嫌になる神子はとても可愛いと思います。
そしてどこかで見たようなネタでスミマセン